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マシーナリーとも子EX ~封じられた砲身篇~

「なんかさぁ〜前澤……」

 パワーボンバー土屋は隣で歩く相方を不思議そうに眺めていた。

「最近ソワソワしてない? 前からそんなもんだっけ?」
「ソワソワというか……落ち着かないんだよ」

 ダークフォース前澤はため息をつく。その額にはうっすると汗が滲んでいた。

「落ち着かない? なんで?」
「ほら……あれ」

 チラと前澤が後ろを見やる。つられて土屋も……こちらは思いっきり身体の向きを変えて……後ろを見る。すると視線の先にいたサイボーグがサッと木の裏に隠れた。

「あー? ずっといたんだ。おーいりんごさーん! 隠れてないでこっち来なよ〜!」
「お、おい土屋…!」

 前澤はそうじゃない、と言おうとした。言おうとしたが、もはやドレッドノートりんごがすぐそばまでサササと寄ってきたのでやめた。

「ご、ごめん……。隠れてるわけじゃなかったんだけど……」
「いやいや隠れてたっしょ〜。私たちパトロールっつーか、まあいま急いで人類めちゃ殺す必要もないんでぶらぶらして昼になったら飯食お〜くらいのアレだったんですけど一緒来ます? 池袋も案内しなきゃですし」
「い、いいの…?」
「もちですよ〜。や、正直私も池袋そんなに長いわけじゃないんで前澤任せですけど〜」

 土屋がケラケラと笑いながらロケットパンチでりんごの背中を叩く。心なしかりんごもうれしそうだ。やはり元来、引っ込み思案ではあるのだろう。だがそれでも前澤はどうしても気になることがあった。

「あの……りんごさん」
「はい……」
「私の勘違いだったりしたら申し訳ないんですけど……」

 前澤は腕を組んで唸った。聞きづらい。なんとなく聞きづらい話題ではある。だが前澤はりんごが来て以来、落ち着かなくてしょうがなかったのだ。

「なんか、いつも私のこと見てますよね……?」
「ヒェッ……」

 りんごが短く悲鳴をあげて慌てる。

「えぇー! りんごさんそうなの! 前澤がどうかした? なんかウケる要素ある?」
「あの〜〜、別になんか嫌だな〜とかそういう方向ではないんですけど、単純にその、落ち着かないのでやめていただければと……」
「……前澤さんを見てるのはダメですか?」

 りんごが半べそでそう聞いてくるので前澤は困惑した。そこまで!?

「ええー、いいじゃん前澤。減るもんじゃなし」
「私のメンタルがすり減るのっ! いやマジで別にりんごさんのことが嫌なわけではないですよ!? ていうかまだそういう判断できるほど付き合いないし! ただ単純に視線が常に来てるのは疲れるんですよ! マジで! 同じ空間に常になんだもん。その……ワケを聞かせてもらえますか?」
「ワケ……」

 りんごはしばらく気恥ずかしそうにツンツンと両手の人差し指を突き合わせていた。やがておずおずと右手を伸ばすと……前澤……のやや左奥を指さした。

「それ……」
「え?」
「それ……大砲……気になるの……」

 りんごが見つめていたもの。それは前澤ではなく前澤が背負っている大型ガンランチャーだった。

***

「私……大砲が好き……」

 立ち話もナンだ、と入ったファミレスでサンドイッチを頬張りながらりんごは語りはじめた。

「大砲は私の回転体だし……もちろん嫌いになる理由はなかった……。でも、だんだん大砲そのものが好きになってきたの……。それも光学じゃなくて、実際に質量弾を出すやつが……」
「まぁーわかるよ。ドカーンって感じでカッコいいもんねえ。私ネイルガンだからな〜。これはこれで気に入ってるけどちょっと細かい系だよね」

 りんごは土屋の話にこくりとうなづいてみせた。

「……大艦巨砲主義って知ってる?」
「体幹巨峰?」
「こう書くの……」

 りんごはオーダー用のボールペンを紙ナプキンに走らせ字を書いてみせた。書き終わるとムフーと満足そうに鼻息を荒くした。

「これは100年とか150年とか前に人類が作った言葉なの……。戦艦、大きな船にすごく大きな大砲を載せて、それで敵を倒そうって考え方なの」
「なるほど……。確かに人類の作る兵器では戦艦に載ってる大砲が際立って大きい。戦車じゃあ比べものにならないもんな」
「でも実際は、飛行機が活躍して、戦艦はその破壊力をあまり活かせなかったの……。悲しい、話」

 りんごはまるで自分のことのように切ない声を出した。

「でも……戦艦の大砲はすごかったの。すごく大きな弾をすごく大きな砲台で撃ちだすために何十人もの人類が砲塔のなかで戦ってたの……」
「スケールが大きいなあ」
「私は…戦艦砲のことがすごくかっこいいって思ったし……そのことを知ったら……自分の大砲のことももっと好きになれたの……。だから……本徳になれたときも有名な戦艦の名前をつけてもらったの……」

 大砲の話をするりんごの目はキラキラと輝いていた。それを見て前澤は安心した。自分のことを妖しく見ていたわけではなかったという安心、このロボのことはそう警戒する必要もなく、仲良くやっていけそうだという安心だ。

「だから池袋で唯一大砲持ちの私をずっと見ていたんですね……」
「うん……。私の大砲、やりすぎて封印されちゃったから……」

 りんごは切なそうにアームを伸ばして大砲砲身の封印コルクを弄った。

「撃つのがバレると監察官サイボーグが来てすごく怒られるの……。また封印されちゃうかも……」
「それは……切ないですね」
「うん……だから前澤、さんの大砲がすごく気になって……ごめんなさい」
「や、そういうことだったらいいんスよ……。わかったら全然大丈夫です。いくら見てもらってもいいんで」
「う、撃つところも見たい……な……」
「そりゃまあ……その時になったら……」
「あ!!!!」

 土屋が窓に張り付いて外を見る!

「なんか宇宙人いる!!!」

***

 ファミレスの外はパニックになっていた! バイク型UFOに乗った10人以上の宇宙人! 宇宙人は次々と人類を轢殺!

「ドラァーーー!!!」
「ウワーッ!」

 水風船のように血を吹き出して絶命する人類! だがこれは殺戮ではない! 実はアブダクションなのだ! バイクに轢かれた人類たちは宇宙人の宇宙的技術により瞬時にミクロ化、バイク型UFOのタンク内に転送される! その肉体は彼らの母星で溶解され、バイク型UFOのためのスペースガソリンとなる! 

「データ照会……。アイツらバイク星人だね。ウチらとの事業提携は無し。抹殺対象」
「バイク星人〜? なんか安直な名前ー。本部がつけた仮名?」
「いやいや、あいつら自ら名乗ってる銀河共通ネームだよ」
「バイク……この地球の二輪車はあの宇宙人によってもたらされたの……」
「えー、そうなんだ。なんでわざわざそんなことすんの?」
「バイクという乗り物に自然な文化が形成されればアイツらのUFOで街中を走っても変に思われないからな。空飛ぶ円盤とかいう奴らは地球の文化から見りゃおかしな形してるからやれ宇宙人だなんだってもてはやされるのさ」
「へぇー。みんな色々考えてるんだなあ。じゃあ殺す?」
「行こう。あ……りんごさんは下がっててください」
「え…」
「武器封印されてるんでしょ。無理しないで。それより私のガンランチャーを撃つところ、しっかり見ててくださいよ!」

 バイク轢殺軍団に前澤が右肩のロケットランチャーを撃ち込みながら切り込む! バイク軍団は華麗なライディングでロケット弾を回避! だが前澤にすればその行動は予測通り! ロケット弾は最初から当てるつもりのない相手を動かすための攻撃だ! 前澤は自分から見て左手側に回避した3体のバイク星人を見据え、左肩のガンランチャーを展開! 同時に右肩ロケット弾懸架アーム下部に取り付けたスタビライザーの位置を調整! ベストな重量バランスをサイバー脳で検出し固定!

「おお……!」

 その段取りにりんごが色めき立ち感嘆の声を上げる!

「ファイアーッ!」
「グゲーーーッ!!!!」

 3体のバイク星人にガンランチャーから撃ち出された火の玉が直撃、爆発! バイク星人と共にバイク型UFO粉砕! 同時にミクロ化から解放された被アブダクション人類解放! 炎に包まれ焼死!

「ウゲアーッ!!」
「ギギーッ!!!」

 前澤から右手側に回避した2体のバイク星人が旋回! バイクからミサイルを乱射!

「させるかーっ!」

 だがパワーボンバー土屋がインターセプト! 前澤に飛来するミサイルの進行方向、そこに垂直に刺すようにネイルガンを乱射! ミサイル全破壊! 同時に放っていた両腕のロケットパンチがバイク型UFOに強烈なアッパーを浴びせる!

「ウゲアーッ!」

 クルクルと回転しながら撃ち上がる2台のバイク!

「前澤ーッ!」
「任されたァーっ」

 前澤が身体の向きを変える! スタビライザー微調整!
 ガンランチャー2射め! バイク型UFOに直撃し空中に灼熱の火球が生まれる!

「よっしゃ!」
「やったねー前澤!」
「ウギギーっ!」

 前澤のロケット弾の標的にならずすれ違い、遠目に眺めていたバイク星人10体強が仲間の犠牲を見て突撃! 土屋と前澤は改めて戦闘態勢を取る! だが! 両者の間に聳え立つ者あり!

「んあ!?」
「あ……あれって」

 突撃するバイクと前澤たちの中間に自信満々に仁王立ちするのはドレッドノートりんご! その頬は紅潮し、興奮してふんふんと鼻息を荒くしている!

「バカなっ! りんごさん! 無茶だぁーっ!」
「で、でも前澤、さんの大砲見てたら……なんかテンション上がってきて……」
「無理だっ! あんた武器が封印されてるのに……!」
「大丈夫……! 私、ケンカ強いから……」
「りんごさーん!」
「グギギーーーッ!!!」

 バイク型UFO10台強がりんごに覆い被さる! 避けられぬ轢殺……!
 だが激突するかと思われたその瞬間、バイク型UFO10台強は、ふわりと垂直に浮かび上がった!

「え……」
「大砲撃てないのは残念……」

 円形に浮かび上がったバイク型UFO、その中心にりんごがスッと歩み寄り、飛び上がる! だがその体制が奇妙!  まるで大地に向けてうつぶせになったかのような姿勢で、腹を下に向けて大の字になってジャンプ! りんごからウォンという音がしたかと思うとバイク型UFO10台強が四方に吹き飛んだ!

「ウゲアーッ!!!」

 池袋市街の方々でバイク型UFOが連続大爆発! ミクロ化していた人類解放! 爆発に巻き込まれ焼死!

 ドレッドノートりんごは静かにアスファルトの上に立ち、興奮を鎮めるかのように深呼吸していた。

「な、なにをしたんだぁ〜りんごさんは!?」
「大砲だ……」
「えっ、でも大砲は封印されてるんじゃ……」
「ああ。だから、撃ってないんだ。りんごさんは、アームで伸ばした大砲を回転させてぶつけてアイツらを倒したんだよ」
「ハァー!?」
「……最初は戦力補充として来たにしてはずいぶん頼りないロボが来たな、と正直思ったよ……。でも飛んだ勘違いだったみたいだな」

 呼吸を整えたりんごは振り向くとニコリと笑い、パタパタと前澤と土屋の元へ走り出した。

「気合入れろ土屋ぁ! ボヤッとしてると私らお役御免で異動かもしれないぞぉ」
「え……えらいこっちゃ」

***

読んだ人は気が向いたら「100円くらいの価値はあったな」「この1000円で昼飯でも食いな」てきにおひねりをくれるとよろこびます