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マシーナリーとも子EX ~喫茶店の動揺篇~

 アークドライブ田辺はビームキャノンを鷲掴みにされ、ゾッとする思いを味わった。やろうと思えば自分を仕留めることができる間合いということだ。もちろん、キャノンを掴んでいるリープアタック田原にそこまでするつもりは──少なくとも今はまだ──無いだろう。自分の店のなかで暴れることはしないはずだ。それでも……首根っこを掴まれているようなこの状況は気持ちのいいものではなかった。

「田原さん……離してください。いくらサイボーグ同士といえど武器を掴まれるのはちょっと……」
「私が掴まなければ君はこのビーム砲を店内で撃ってたんじゃないかい? 店主として看過できない状況であることは理解してもらえると思うが」
「それについては謝ります……。あの宇宙人。彼を追って私は来たんです。それが任務でして……。彼を引き渡してはもらえませんか?」

 田辺は頭を下げて頼んだ。確かに衝動的に無茶をしてしまった。だが彼女もサイボーグとしての任務を遂行中の身。こういえば納得してもらえるだろう……。そう思った。が、その返答は田辺の予想を覆すものだった。

「それはできない」
「ありがとうございま……へ!? できない!?」
「彼を引き渡すのはごめんだと言ってるんだ」

 なんで? 田辺は目を丸くした。こいつに何の義理があるというのか。

「不思議そうな顔をしているが……当然だろう。この店は客にくつろいでもらい、安らかな時間を過ごしてもらうために経営している。それを店主から反故にできると思うか? もちろん彼が犯罪者であるなら別だがね。君は彼を法的に勾留できるほどの根拠があるか?」
「そ、それは……」
「あー……私、悪いことなにもしてないです。話してるだけです」

 ウワベペガ星人が口を挟む! 田辺は舌打ちした。確かに根拠は薄い。ヤツはあくまで話すだけ……。地球人類の法から見ても、人間を殺したりだとか誘拐したりだとか、あるいは詐欺で変なものを買わせたりしているわけではないのだ。あくまで人間に接触し、話し、マインドコントロールしようとしているだけ……。そこには物的証拠もなければしょっぴけるほどの強い犯罪行為も無い。

「無いようだね。だったら諦めてくれないか?」
「そんな……何も店の中で暴れようってんじゃないんですよ!」
「だから、諦めてくれ。客を差し出すような店に客がつくと思うのか? こっちも長いことこうして商売してるんだ。それを尊重してくれないか」

 そのとき! カランカランとドアベルが鳴る。振り向くとそこには田辺を追いかけてきたトルーとワニツバメがいた。

(ここは……?)
「どうなりまシた田辺さん……。あつ! サイボーグ!」

 ワニツバメが思わず田原を指差す! 

「あっ! トルーさんツバメさん! 実はちょっとトラブってまして……」
「何……?」

 田原のビームキャノンを掴む手が震える。ハッとして田辺は田原の顔を見た。その目は驚愕に見開かれていた。

「トルー……N.A.I.L.の首魁がなぜここに?」
「あっ」

 しまった。
 いつもマシーナリーとも子らとしか絡んでない関係ですっかり麻痺していたが自分はシンギュラリティの裏切り者だったんだった。

***

「田辺くん、こいつは一体……?」
「いや~、アハハハハ……じつは私いまちょっと転職してましてぇ~……」
「た、田辺さん? そのサイボーグなんなんでス? ってかいまこの時代にマシーナリーとも子たち以外のサイボーグが?」
(なんかちょっと……私達タイミングが悪かったのかもしれませんねぇツバメ)
「えっ? そうなんでスか? なんで?」
(あのサイボーグ……。明らかに私達……というか主に私……に敵意を向けてますねぇ。いや、まあ実際敵だから当然なんですが)

 田原はビームキャノンにへし折らんばかりの力を込める。
「あ、あはははやだな~田原さん。離してくれるどころかなんかギュッとなってますよ~? いくらキャノンとはいえちょっと痛いな~って感じがするんですけど……。ほら! もう暴れたりしませんから離してくれませんか?」
「田辺くん……。どういうことだ? なぜN.A.I.L.の連中は君に穏やかな視線を送っているんだ? あのどうぶつ人間の君への親しみはなんだ? 転職だと? 君はもうシンギュラリティではないのか? もしやと思うが……今の君はN.A.I.L.なのか?」

 田辺はゴクリとツバを飲んだ。この場合、どちらが正解なんだ? しらばっくれるのが正解なのか、それとも正直に話したほうが正解なのか……。
 すると田辺の頭のなかのビジョンにコウモリのような羽とツノが生えたマシーナリーとも子が現れた。とも子はこうささやく。
「こんなときにバカ正直になってどうなるよ? 臨機応変に立ち回っていくのが楽しく生きるコツだぜ」
 一理ある。田辺が頭のなかで頷くと、今度は鳥のような羽を生やし、頭上に光輪を浮かべたネットリテラシーたか子が現れ、田辺に囁いた。
「そんなことはないわ。田辺、正直に生きるということは徳が高いということよ。証明しなさい。あなたの徳の高さを。所属は違えど徳さえ高ければあなたはサイボーグです」
 うおお! たか子さん! そのとおりだ! 田辺は興奮した。そしてキッと眉を吊り上げ、田原を睨みつけた! 田辺は胸を張り、自信を持って答えた!

「はい! いまはN.A.I.L.で働いています! 待遇とかもいいし」

 次の瞬間、田辺の身体は宙を待っていた。

***

読んだ人は気が向いたら「100円くらいの価値はあったな」「この1000円で昼飯でも食いな」てきにおひねりをくれるとよろこびます