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マシーナリーとも子ALPHA ~築地のならずもの篇~

 2019年、築地……。
 市場機能を豊洲に明け渡し、かつてほどの活気は無くなったもののいまだ市場外の店舗は稼働しており、観光地として相変わらずの人気を誇っていた。だが競りがなくなるとともにこの街にやってきた災いがあった。決して報道には載らない築地の新たな闇。静けさを取り戻した築地の朝に新たに舞い降りた喧騒……!

 カンカンカンカンカン!

 早朝の築地にけたたましい半鐘が鳴り響く! すると近くの店舗から主人たちが青ざめて飛び出した!

「来た!」
「また来たぞ!」
「畜生どうする?」
「戦おう!」
「そんなことしてどうする!」
「かないっこねえよ!」
「ミサイルだ!!!」

 その声に全員がえっと空中を見上げる……。3発のミサイルが築地に降り注ぐ!

「ギャーッ!!!」

 寿司屋、卵焼き屋、食器屋たちがミサイルの直撃を食らって爆散! 声に鳴らない声をあげる築地の住民たちの前に怪しげな集団が姿を現した……。市場が移転してから築地に住み着いたならず者たち! アジア海域を根城にする海賊だ!

「なんだなんだ、ずいぶん剣呑じゃないか親父ども……。せっかく主人が戻ったというのに」

 葉巻を吸いながら髭面の男が躍り出る……。赤いエポレット付きの軍服という時代錯誤の海賊ファッションに身を包んだ男……この海賊団の船長だ! 

「黙れ! オレたちの主人はお前らなんかじゃない! 築地から出ていきやがれ!」

 築地の住民たちの中から顔をマグロの赤身のように真っ赤にした男が飛び出す。その手には刃渡り2メートルはあろうかという刀が握られている! 日本刀だろうか!? いや、マグロ包丁だ! 男は魚屋なのだ。彼の店は海賊に膨大な額のみかじめ料を搾り取られて倒産寸前だった。

「死ねーっ!」

 マグロ包丁が閃く! だがその切っ先が船長に届くことはなかった……。包丁を頭上に振り上げたその瞬間、魚屋の喉に小さなサメが食いついたのだ! 魚屋は喉を食い破られて即死!

「グギャーッ!」
「うわーっ!!」

 船長は広げた海賊服を戻すとポンポンと叩く。これがこの船長の不気味な特殊能力だ! 彼は服の中から自在にサメを飛び出させることができる! 彼はこの能力と海賊団の船舶が誇る近代兵器を持ってアジアの海を荒らしに荒らしたが、ある日フィリピン政府に海賊船の5割を沈められて日本に敗走した。

「てめぇらは一生オレたちの奴隷だぁーっ! オラっ! 金とメシと酒を出せぇ~っ!」
「うオーっ!!!!」

 背後の海賊団たちが雄叫びを上げる! 築地の住民たちは恐怖で身がすくむ! ああ、こうやって死ぬまで海賊に搾取されなくてはならないのだろうか!? 大海賊時代! かつての栄光を思い返しながら築地民たちが涙したそのとき……黄色い閃光が輝き、爆音とともに通りすがった!

「え?」
「え?」

 船長の右手首から先が消滅し、そこから大量の血液が吹き出した。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
「ウワーーーーーーーーーッ!!!!!」

 船長と海賊団が恐怖の雄叫びを上げる!!!

「ワーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!」

 築地の住民たちもいきなりのグロテスクな絵面に恐怖の雄叫びを上げる!!!
 そのときである! 恐怖の感情で染まりきった築地の市場跡に無邪気な声が混ざったのは!

「なんか楽しそうなことしてんじゃねぇ~か。食べ物のほかにもこんな催しがあるんだなぁ~っ」

 小柄なシルエット、四肢に備えて音を鳴らす戦車、不気味に大きく開かれた口! シンギュラリティのサイボーグ、ジャストディフェンス澤村だ!

「まさか海賊とこんなところで会えるなんてなぁ~っ」
「なんだこのガキィーッ!」
「殺せー!」

 海賊団員がアサルトライフルを斉射! ジャストディフェンス澤村に銃弾が殺到する! だがサイボーグ装甲の前では無傷だ!

「ウキャキャキャキャいいねぇ~っ! 最近こういう感じのなかったからなぁ~っ! オラーッ!!!」

 撃たれて機嫌が良くなった澤村は口を大きく開けると七色の怪光線を放つ! 光線を浴びた海賊団員15人が一瞬で白骨化!

「うわわわわーーーっ!!!」
「なんだこいつ!!!!」
「ロケットランチャーだ! 殺せ! 殺せーっ!」

 3人の海賊団員が後方から使い捨てロケットランチャーを放つ! 危ない! いかにサイボーグといえどロケットランチャーの直撃は危険だ! しかしロケット弾は澤村に届かず……ビシ! という炸裂音とともに地面と垂直に回転した!

「えっ」

 海賊団員は思わず天高く舞ったロケット弾を見上げる。

「大丈夫ですか澤村さん」
「いいぞ! やれーっ! ハンバーグ!」
「それっっ!」

 目を凝らして見よ! ジャストディフェンス澤村の周囲を浮遊する物体、ロケット弾に的確な打撃を与えて宙に打ち上げた炭水化物! 彼女のスレーブユニット、ハンバーグ寿司だ!
 ハンバーグ寿司はくるりと回転すると勢いをつけてシャリをロケット弾に叩きつけ、海賊団員に向けて弾き飛ばした!

「うわーっ!」
「戻ってくる!!!」

 爆裂!!! キレイに跳ね返されたロケット弾は10人以上の海賊団員を吹き飛ばした! 恐慌に陥る海賊団と築地の住民たち! 災いがさらなる災いを招き寄せてしまった!

 「だ、ダメだ! 化物だ! 逃げろーっ!!」

 恐慌に陥った海賊団員たちは逃走を始める! あとには無数の死体と、片手を失って瀕死の船長!

「ま、待て……! オレを置いていくなぁ〜っ!」
「オイ」
「!!」

 瀕死で地面を這いずる船長にジャストディフェンス澤村が迫る! とどめを刺すつもりか!? 澤村は船長の胸ぐらを掴み睨みつける!

「オメェーが船長かぁ〜?」
「お、お前なんなんだ……。まさか噂に聞くシンギュラリティのサイボーグ……」
「おっ! 詳しいじゃねーか! 私たちもけっこう有名になってきたのかなぁ〜? ところで私、前から一回海賊の船長ってなってみたかったんだよなぁ〜!」
「な、なにを……殺してやるーっ!!!」

 瀕死の船長は歯を食いしばって海賊服を翻した! 服の中から小さなサメが澤村に迫る! 危ない! 喉を食い破られてしまうぞ!

「うるせぇーなぁ〜〜っ!」

 澤村はけだるげに耳のバルカンを発射! 迫りくるサメを蜂の巣にして撃ち落とす! 流れ弾が船長の顔面に無数の穴を開ける!

「グギャーッ!!!」
「オイ船長。死にたくねぇかぁ〜?」
「し、死にたくないです……」
「助かりてぇかぁ〜?」
「助かりたいです!!!」
「じゃあその手首の血ぃ止めてやるからよぉ〜っ」
「は、はい……なんでしょうか……」
「私をお前たちの船長にしろっ! オメェーは今日から副船長だ!」
「えっ!?!?!? うそでしょ!!!」
「文句あるんなら血流し続けて死んじゃえ」
「ううーーーーッ!!! わかりました!!! アンタが船長!!!! この服も着ていいから!!!! あんたがオレの海賊団のボスだ!!!!」
「やったー!」

 澤村は大喜びで船長の上着を脱がせにかかる! 船長は以前手首からドボドボと血液を流している!

「おい!!! 早く血を止めてくれ!!! 死んじまう!!!」
「うるせぇーなーっ。オラ!!!」

 澤村は傷口に最小出力にした指のビーム砲を放って焼き固める!

「ンギャーーーーーっ!!!!! ンギっ……!!! ギギィーーーーー!!!」

 すさまじい苦痛に船長は涙と鼻水を垂れ流しながら悶絶する!!!

「ギャーギャー騒ぐなよーっ子供じゃないんだからさ! ……よっしゃ!」

 澤村は泣き叫ぶ船長……元船長を地面に投げ捨てると脱がせた海賊服を羽織った! 澤村船長……!

「やったー! 似合うかハンバーグ」
「すごい! まるでピーターパンに出てくるフック船長みたいですよ澤村さん」
「そうなると帽子も欲しいなあ。あの帽子ってなんて言うんだろうなーっ」
「わかりません」
「ンググググ……ググーーーっ!!!」
「オイ」
「グギャーッ!!!!」

 焼かれた手首を抑えて転がり回る元船長を澤村船長が蹴り飛ばす! 元船長は悲鳴を上げすぎて声が枯れつつある!!

「オメーらの母船に案内しろーっ。澤村海賊団の旗揚げだ!」
「はい。案内します……あの」
「んだよーっ」
「海賊団をやられるのはいいんですけど、その、海賊はじめてなにをされるんですか?」
「決まってんだろ! 七つの海のハンバーグ屋に襲い掛かるんだよーっ! ハンバーグ征服だ!!」
「エーッ!」
「やるぞーっ! オオーッ!」

 澤村海賊団……!

***

 

読んだ人は気が向いたら「100円くらいの価値はあったな」「この1000円で昼飯でも食いな」てきにおひねりをくれるとよろこびます