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マシーナリーとも子EX ~田辺の明察な判断力篇~

 あーちゃんと呼ばれるその女の子はテレビのリモコンを手に取った。するとリモコンはボロボロに崩壊していった。アークドライブ田辺はポカンとその様子を見ていた。

「私が触ったものはみんなこうなるの……」

 あーちゃんはもう片方の手を田辺のアームに握られていた。

「なんであなたは壊れないの?」
「あーちゃん、あなた……超能力者、なんですか?」

 田辺の脳裏にトルーの顔が浮かぶ、なるほど、こういうパターンもあり得たか。あーちゃんは少しムッとした顔になった。

「さっき顔を合わせたばっかりなのにあーちゃんなんて気安く呼ばないで」
「ほかの呼び方を知らないもので……。名前や名字でお呼びしたほうがいいですか? 教えてくださいますか?」
「……それもヘンな気がするからやっぱりあーちゃんでいい。それよりも質問に答えて。なんであなたの腕は壊れないの?」
「なんでと言われても情報が少なすぎて何がなにやら……。あー……ともかく」

 田辺はちらりと後ろのドアを見た。

「さっきもお伝えしたとおり、私はあなたを誘拐しにきたんですよ。で、なんか大人のひととかに見つかると具合がよくないんで……。とりあえず、外に出ませんか?」

***

「じゃああなたは、その能力を制御できないということですか」

 田辺はあーちゃんを連れてひとまず駅前の喫茶店に入った。パフェを食べたいというので注文もしてやった。

「そう……。私が触れたものは、全部壊れちゃうの……こんなふうに」

 あーちゃんはスプーンをつまみ上げるとグッと力を込めた。見る間にスプーンは錆びていき……やがてボロボロと風化していった。

「大したもんですねえ」
「なにその言い方……。とにかく、私はこの力を抑えられない。逆に力を込めれば早く壊すことはできるけど、止めることはできないの。だから……」

 そこまで言うとあーちゃんはあ、と口を開け顎を突き出してきた。田辺は話の続きが出ると思っていたので面食らい、しばらくその様子をぼんやり見ていた。

「……なんですか?」
「いや、食べさせてよ! 聞いてたでしょ! 私、スプーン持てないんだってば」
「ああ、そういうことですか? 大変ですね……」

 仕方なく田辺はスプーンでパフェをあーちゃんの口に運んでやった。

「そっと摘めば壊れるのもゆっくりになるから3、4口は食べられるんだけど、それくらいでもうダメ。ボロボロになるし口のなかに崩れたスプーンが入って最悪なの」
「施設でもいつもこうやって食べさせてもらってたんですか?」
「いつもってわけにはいかないから、たまに手首とか袖に輪ゴムでぐるぐる巻きにされてさ、それで食べたりもしてたよ。だから私、いまだに箸も持てないんだ」

 眼の前の子供の表情がギュッと歪む。周囲の人間が当然のようにできることがままならないことは、大変な屈辱なのだろう。

「で……だから、あなたの手が壊れなかったのが不思議なの。どうなってるの?」
「さあ……。まあ私らは高性能ですからねえ。そのへんの人類の量産品なんかとは作りが違う……」
「作り物かどうかは関係ないんだよ」

 あーちゃんは真剣な眼差しで口にした。

「私が触れば生き物だって……人間だって壊せる」
「そりゃ……」

 田辺は物騒な能力だなあ、と思った。同時に、国連が……もっと言えば今回話を通してきたエージェントが……この子どもを欲しがっているのかもなんとなく察しがつくような気がした。少なくとも穏やかな用途ではないだろう。果たしてそれはN.A.I.L.の理念たる人類全体の利益になるのだろうか?
 田辺は数秒考えてみたがわからなかったのでとりあえずトルーに聞いてみることにした。

***

(で、連れて帰ってきちゃったんですか)
「私だけで判断するのもどうかと思いまして……」
(私が言ったのは、わざわざウチに帰ってきちゃうとアシがつきやすくなるから渡さず連れ去っていっちゃいなさいということだったんですが……。まあ、彼女の能力も確かめたかったからまあいいです。あ、やらなくていいですよあーちゃんさん。すべて読ませてもらいましたから)
「え……あ……。おばさんも不思議な能力を持っているの?」
(えぇそうですよ。ですからあなたがなにかと不便をしているのも多少は理解できるつもりです……。しかしこれは確かに常人から注目されやすい能力ではありますね)
「ではやはり……国連の話はキナ臭いと?」
(あなたがこの子を渡さなかったことは正解だったと言えるでしょう。しかし不思議な能力ですね……。触ったものを破壊するとは。こんな攻撃的な超能力は珍しいと言えます……。読んでみたところこの子のご両親もふつうの人間だったようですし、突然変異の類だとは思いますがそれにしても物騒な能力です)
「トルーさんでもわかりませんか」
(あるいは……彼女ならなにか知ってるかもしれませんね)

***

「……それで私のところに来たと言うわけ?」
「はい! 未来なら今よりデータがあったかもしれませんし……。それにたか子さんはネットリテラシーが高いですから!」

 突如の敵方からの訪問に、ネットリテラシーたか子は白目を剥いた。

***

読んだ人は気が向いたら「100円くらいの価値はあったな」「この1000円で昼飯でも食いな」てきにおひねりをくれるとよろこびます