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マシーナリーとも子EX ~夜中の夜明け篇~

 蝉。蝉が泣いている。近頃は暑すぎて蝉も日が傾きはじめてからでないと鳴かないようだ。午後17時。公園のベンチで汗をダラダラ流しながらアイスを頬張るマシーナリーとも子、鎖鎌、錫杖の3名。その耳に暑苦しい轟音が届き始める。

「お、どうやら来たようだな……」
「そうだぞ」

 マシーナリーとも子のつぶやきに応える声が茂みの向こうから届く! 現れたのはシンギュラリティ最強のサイボーグ、ネットリテラシーたか子だ! そのネットリテラシーの高さには定評がある。

「ネットリテラシーたか子です……。今日はなにを食べさせてくれるのかしら?」
「メシで呼んだんじゃねーよ。聞きたいことがあって…」
「帰るわ」
「待て待て待て待て」

 くるりと踵を返すたか子の肩をとも子ががっしりと掴む! 

「用があるって言ってるじゃねっかよぉ〜!」
「事前事業じゃないのよッ! ご飯食べられないなら帰る!」
「上司は部下の頼み聞けよなぁ〜ッ!」
「待って待って待ってたか子さ〜ん!」

 押し合いへし合いを(ファンネルを介して)始めた両者に鎖鎌が割って入る!

「終わったあとでウチ来ればいいじゃんッ! ねっ! いい時間なんだし晩ごはんいっしょに食べよーよ! ママもそんな突っぱねないでさぁ〜!」
「むぅ…まあそれなら…」
「まぁ…一食分多く作るのも一緒ではあるが……」

 渋々ながら歩み寄りを見せるとも子とたか子。錫杖は空いたベンチで横になって寝始めた! たか子はふっとため息をつき、場を仕切り直そうと試みた。

「……それで? 私に何の用?」
「ああ、見てもらいたいもんがあってよ……。錫杖〜! その網持ってこい」
「えぇ〜!? みんなでこっちに来ればいいではないか」
「いいから持ってこい! 2秒に1回サボろうとしてんじゃねぇ〜怠惰娘」

 渋々錫杖はサンタクロースの袋のように口を縛られた網を担いでくると、たか子の前にドスンと置いた。

「ピギー…」
「ピギ?」

 網から奇妙な音がしたのでたか子はオウム返しにした。

「中になにかいるの?」
「聞きてぇのはそれだ。この場所で人類のガキどもに迷ってた宇宙怪獣かなんかがいるんだよ」
「宇宙怪獣が人類の子供に紛れ込むかしら……」
「スマブラうまいらしいよ」
「宇宙怪獣がスマブラうまいかしら……」
「とにかくちょっと袋開けて見てみてくれよ。全開にすると攻撃してくるから気をつけろよ」
「攻撃してくるの?」
「ここにいたガキども全員死んだー」
「遊んでたんじゃないの?」
「私と錫杖ちゃんを見たら急に攻撃してきたんだよねー。シイタケちゃんって呼ばれてたんだけど」
「シイタケ?」

 ともあれ、ファンネルを2基飛ばし、ゆっくりと網の口を掴ませる。少し離れたところからジッと口の中を睨み、少しずつ少しずつ口を開かせる……。そのとき、暗い網の中でピンク色の目が不気味に光り輝いた!

「ピギーッ!」
「どわあああああ!?!!??!」

 たか子は大汗をかきながら地面をキックして跳ね上がると背中方向に回転しつつ背筋と脚をピンと伸ばす! 地面に対して水平になった形だ! するとそのすぐ上の空間を網から発射されたビームが切り裂いた!

「うわーっ! 危ない!」
「さすがたか子、見事な回避だぜ」
「見事じゃない!!!! 殺す気かぁ〜〜〜〜っ!? あ、あ、あ、あの生物はあぁ〜〜〜!! ファンネル! ギュッと縛りなさいギュッっと! めちゃめちゃに固く口を縛れっ! 早く!」

 慌ててファンネルは網の口のヒモをぐるぐる巻にする。中からはピギ〜っとくぐもった悲鳴が聞こえる。

「はぁーっ! はぁーっ! はぁーっ! な、なんであんなヤツがあんなところに……」
「オイ大丈夫かたか子? 顔が真っ青だぜ。あいつそんなに怖いやつなのか?」
「は? 怖い? 怖くなんか無い。感情が無いから。そんなことよりあいつはヤバいわよ! ユミニフジーじゃないの! なんでこんなところに……」
「なんだって?」
「ユミニフジー。サーメ星人が特殊な宇宙生物交配を繰り返して作り出した対シンギュラリティ用生物兵器よ……。奴らは1980年代から90年代にかけて地球に侵攻していたのだけど、そのことごとくを私がぶち殺して阻止してやったのよ。地球を支配するのにふさわしいのはシンギュラリティだけですからね。しかしそのとき奴らは逆恨みして地球ではなく私たちをターゲットにしてきたの。そうしてオチュポロ星でユミニフジーを養殖していたのだけど、事前に察知した私が皆殺しにしたのよ。したはずなのだけど……」
「聞いたこと無い言葉ばっかり出てきて3割くらいしか出てこなかったけど、つまりこいつ私らの天敵なのか」
「そういうこと。子どもたちに溶け込んでいたのはよくわからないけど……。こいつらには私達の生み出す徳を感じ取る力があります。それで気づいたんじゃあないかしら」
「あ……そういえば私と錫杖ちゃんがその前に鉄棒でぐるぐる回ってたんだけど」
「確かに調子に乗りすぎて徳、たくさん出ちゃったような気がするのう」
「それだッ! あなた達の徳、えげつないほど出るんだから気安く回るんじゃないのよっ! ユミニフジーじゃなくて寄ってくるってモンよ」
「……それで私らはこいつに対してなにをすりゃいいんだ?」

 とも子がパンと手を叩いて議題の進行を促す。たか子はそれを横目で見ながら目を閉じ、少ししてふたたび口を開いた。

「当然、殺しましょう。いつこいつが牙をむくかわかりませんから」
「えぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」

 鎖鎌の絶叫が公園に響く!

「ダメダメダメダメダメダメーっ! カワイソーじゃん! まだ子どもなんだよ多分!」
「実際私の知っているユミニフジーよりだいぶサイズが小さいので子どもなんでしょうが……ダメです。こいつらは私達の明確な敵なのよ。殺しにくるのよ。殺しに来るような奴らは先に殺して置かなければ殺されてしまいます。だから殺さなくてはならない」
「いま何回殺すって言った?」
「やだやだやだやだ〜っ! 絶対殺しちゃだめーっ! かわいそー!!!」
「鎖鎌! いい加減にしなさい!」
「イヤだーっ!!!」

 鎖鎌が高速で鎖を回転!!! 黄金に光り輝きはじめる!!

「ピギギーッ!」

 徳に反応してシイタケが大声を上げる!

「どりゃーっ!」
「グワアアアアアアアアーーーーっ!!!」

 鎖鎌の怒りの徳が満ちた分銅がネットリテラシーたか子に炸裂! たか子は天高く舞い上がった。

「あ、やっちった」
「鎖鎌の殺人分銅、久しぶりに見たのう」
「た、たか子ーっ!!!!」

 ネットリテラシーたか子は地上350メートルまで垂直に吹き飛び……そこから猛スピードで落下、公園に殺人サイボーグ型の大穴を開けて地中へと潜り込みながら着地した。

「が、がハーッ!!!!」

 一升ほどの吐血! 凄まじい徳の一撃を食らったたか子は顔面蒼白!

「ごめ〜んたか子さん。だいじょぶ?」
「生きてるのが不思議なくらいだわ……」
「たか子ーっ! 鎖鎌! オイ! やりすぎだぞ! これは家庭内暴力だ! 反抗期かぁ?」
「え、ええ〜っ! 私そんなつもりじゃ…」
「私達元サイボーグ狩りだしのう」
「おいたか子息できるか? 頭回ってるか?」
「はあはあ……大丈夫よ……。私は徳が高いから回復も早いのよ……おゲーッ!!!」

 風呂桶一杯ぶんの吐血!!!

「鎖鎌……わかりました。あなたの勝ちです……。あのユミニフジーは……ゲフッ!!!!(寸胴鍋一杯ぶんの吐血!)逃しましょう……。ハアハア……」
「やったー! わかってくれてうれしいよたか子さん!」

 なぜかのんきに受け入れてる鎖鎌を見てマシーナリーとも子はゾッとした。いつかこうやって我を通されたらどうしよう。

「おうおう。ところでよぉ〜」

 いつのまにかもう一本アイスを買ってきてなめ始めた錫杖が口を挟む。

「私、いまの見てたら思いついちゃったぞい」
「思いついたって……なにを?」
「シイタケを仲間の元に返す方法をよ」

***

 一向はより広い、遊具豊富なアスレチック公園へと移動していた。時刻はすでに午後8時。すっかり太陽は沈み、夜遊ぶことが想定されてない遊具エリアはぽつぽつと点在する街灯によるぼんやりとした灯りしかなく暗かった。サイボーグには関係のないことではあるが……。

「こんちわ〜。来まシたよ〜センセイ」

 そこにネットリテラシーたか子に呼びつけられN.A.I.L.のバイオサイボーグ、ワニツバメがノンキに現れる! 

「これで揃ったわね」
「ワニ呼びつけてどうするんだよ」
「あ? なんでスか? 私に文句があるんでスか? なんなら今からヤりまスか? 別にいいんでスよ大歓迎でスよ」
「あ? 勝てっと思ってんのかぁ〜? 本徳になったからって調子づきやがってよぉ〜。いつも手加減してやってんだぜ〜? 大事な票田だからよぉ〜」
「あ?」
「あ?」
「やめなさい! 鎖鎌も何気に鎖グルグルしない!」
「はっ! バレてたか…」
「針の筵だのう、ワニさんよ」
「ウワーッ! アンタもヌルッと肩組まないでくだサいよ! びっくりしまスよ!」
「やんややんや騒ぐなーっ! 総員気をつけ!」

 たか子の怒号に合わせ全員がピシッとまっすぐになる。

「……では作戦を始めます。先に言っておきますがこの作戦にはまあまあ危険が伴います。全員注意すること」
「まあ私たちの天敵を誘き寄せようってんだからな」
「それで、具体的に何するの?」
「わざわざこんなところに来たのだから察しがつくでしょう。あれを使うのよ」

 たか子がチェーンソーで指し示したその先には……4つの鉄棒!

「まさか!」
「そう。アレを使って高速回転し、ユミニフジーを誘い出すのよ」
「そんなに上手くいくかなあ」
「ユミニフジーはシンギュラリティを探知し時に仲間を呼ぶ習性があります。それと我々の巨大な徳を合わせれば……なんとかなるでしょう。多分。私は鉄棒できないから横でチェーンソー回してるわ」

 各々が鉄棒を握りしめ、スタンバイする。

「まさか1日に2回も鉄棒することになるとはのう」
「今度も壊すくらい回っちゃっていいのかなあ」
「よー、ワニ。どっちがたくさん回れるか勝負しようぜ」
「私は構いまセんけど……どうカウントするんでスか?」
「それでは……はじめいっ!」

 合図とともに一同は一斉に高速回転しはじめる! たか子も負けじとチェーンソーを高速回転!

「うおりゃーっ!」
「だぁーっ!」
「フムムム~~ッ!」
「ヌオオオーッ!」

 たちまち一同から凄まじい徳がこぼれ出し、周囲が徳の光で満たされる! まるで昼間のような圧倒的照明!

「ピギギギギーーーッ!!!!! ピギギギギギギギギギギーーーーッ!!!!!!!!!!!!」

 これまでにない徳の奔流にシイタケが狂ったような泣き声を上げ、網から出ようともがき暴れる!

「ファンネル! いつでも口を開けられるように待機しておきなさい!」
「はい!」

 さらに一同は回転! ますます増していく光量! すでに目を開けていられない! おそらく生身の人間が目を開けてこの光景を見れば即座に視力を失うであろう殺人的ルーメン数! そのとき!

 グオォォォオーーーーッ……。

 地面を揺らすような低い音! これはなにか?!

「ピギギギギギギギギギギーーーッ!!!! ピギギギギギギギギギギギギーーーーッ!!!!」

 シイタケが狂い鳴く!

「来たか……!」

 ネットリテラシーたか子が山を睨む! そこには……なんてことだ! 全長50メートルはあろうかという触手キノコ……! ユミニフジーの成体だ!

「総員、止めッ!」

 たか子の号令でサイボーグと徳人間が回転を止める! 鉄棒はその衝撃でぐちゃぐちゃに引き裂かれた!

「ウワーーーーっ!!!! なにあれ!!! 怪獣じゃん!!!」
「デカすぎですよ! アレと戦うんですか!?」
「あんなもんどこに隠れてたんだあ?」
「それで、これからどうすればいいんじゃい?」
「もう少し待ちなさい……!」

 巨大ユニミフジーがはるか遠くの山に触手を添え、もう片方の触手を一同に伸ばしてくる! 捕獲するつもりか!

「よし……! 一同、息止めっ!」
「息止めぇ!?」
「止めンのよ! 完璧に呼吸を止めるッ! 死にたいの!」

 一同が息を止める! それに合わせてマニ車もピタリと止まった! 急激に暗くなる周囲!

「ウオ……?」
「ピギーッ! ピギーッ!」

 戸惑うユミニフジーたち! その瞬間、ファンネルが網の口を全開にした!

「ピギィーッ!」

 躍り出るシイタケ!

(おいたか子……。まだダメかぁ~? 苦しいぞそろそろ)
(もうちょっと待ちなさい! まだ我慢できるでしょ! ロボットなんだから)

「ウオ……? ウオ……」
「ピギギーッ! ピギーッ!」

 ユミニフジーたちはしばらく目と目を合わせて泣き声の応酬をする……。やがて、シイタケは巨大ユミニフジーの触手に乗ると山まで引っ張られ、その肩に乗っていずこかへと去っていった……。

***

「シイタケちゃん、仲間と合流できてよかったね〜! てか迷子だったのかなあ? もしかして」
「殺さなくて良かったのう。もしかしたらあのデカいの、お母さんだったのかもしれんな」
「え〜! どうだろそれ。でも、まあそうだったらいいね! やっぱりお母さんと一緒がいちばんいいもんね! ね〜ママ!」
「ん? ああ〜そうだなあ…」

 そのときガン! ととも子の後頭部にたか子がチェーンソーの基部をぶつける!

「あ痛っ!」
「んじゃあ用事も済んだしご飯を食べさせなさいな。帰るわよ」
「んえ〜! 今からメシ作るのめんどくさいなあ。外食で良くね?」
「今時分、こんな時間じゃどこもやってないでしょう」
「じゃあ惣菜とか弁当とか…」
「私はぁ〜アンタの作った飯でお腹を満たしたいのよぉ〜!」
「んあ〜、じゃあついでなんで私も御相伴に預かりまシょうかねぇ〜」
「なんでだよ! トンカツ食ってろよなぁ〜」
「うえ〜! ワニツバメも来んの! ヤダ〜!」
「流石にその言われ方は傷つくんでスけど!?」
「まあまあまあまあいいでは無いか鎖鎌。ほらほらワニ さんも機嫌なおして、な?」
(私は今日は卵が食べたいぞ! 卵!)

 ワニのセベクがガウガウと身を捩る! とも子は鉄棒回転の疲れが抜け切らぬ身体を引きずりながらため息をついた。

***

読んだ人は気が向いたら「100円くらいの価値はあったな」「この1000円で昼飯でも食いな」てきにおひねりをくれるとよろこびます