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マシーナリーとも子ALPHA 〜尾けるとも子篇〜

 2020年……池袋の大型書店、そこに異様なシルエットの客がいた。まるでマフラーのように肩がけにした大型の爬虫類……ワニだ! その女は腕からワニを生やしていたのだ! N.A.I.L.のバイオサイボーグ、ワニツバメである!

「この時代に来ていちばん良かったなぁーってことはでスねセベク」
(なんだ……?)
「こうやって堂々と街でホームズの本を読んだり買ったりできるってことでスよ! 2045年では焚書されちゃったからなー」
(なんだかんだであんまり不便してなさそうだもんな、オヌシ)
「まあ技術的には2045年より不便でスけどねー。スマホ、重いし」

 そのとき、ツバメの肩を叩くようにワニの体表にポンと手を置くものがあった。ツバメはえ? と思いながら首を回しすぐに「ギャ!」と声を上げた。

「よー、ワニ……。なにビックリしてんだよ」
「ま、マシーナリーとも子ォ!」

 ツバメはそのままグルリと身体を回転! ワニの強靭なしっぽをマシーナリーとも子に叩きつけた!

「ホギャーッ! 何すんだよ!」
「テメェーこそなに気安く挨拶してんでスかっっ!! いまお前たちに焼かれた本をちょうど読んでたとこでスよっ! やるか!?!?」

 ツバメがバリツを構える! 

「やらねえやらねえ。なーんだよ偶然見かけたから声かけただけじゃねーかよつれないの。それじゃあな」

 マシーナリーとも子はカカトのホイールを高速で回転させながら去っていった……。

「な、なんなんでスかあいつは……」
(シンギュラリティのなかでもあのマシーナリーとも子というサイボーグ、とくに掴みどころがない。ゆめゆめ気をつけるのだぞツバメ)
「ですね……」

***

「美味しい美味しい」

 ホームズ本を3冊ほど買ったのち、ツバメは書店近くの洋食屋に入りカツカレーに舌鼓を打っていた。カツカレーは2050年のイギリスでも定着している料理であり、日本風の味付けながら故郷を思い起こさせるその味にツバメは満足だった。

(ツバメ、ツバメよ。私はもっとゆで卵が食べたい。追加で頼んでくれ)

 ワニがガウガウと身をよじりながら卵を欲しがる!

「はいはい、おーいミスター! ゆで卵5つ追加でー!」
「あいよー!」
「がウッ!?!?!?」

 ワニが突然、食べかけのゆで卵をポロリと落とした。

「あ? どうしたんでスかセベク」
(ツ、ツバメよ……。ゆっくりと、左腕側、カウンターの方をなるべく首を動かさずに見てみろ……。ゆっくりだぞ)
「……? なんなんでスか?」

 ツバメは怪訝に思いながらも言われた通りにする。席をひとつひとつ検めるようにゆっくりと視線を巡らせる……。するとL字になったカウンター最奥の席、そこにマシーナリーとも子がいたのだ!

「うげ!?」
(な、いるだろう……。マシーナリーとも子が)
(な、なんであいついるんでス? 偶然か? それともつけられてんのか?)
(しかもなんだかチラチラこっちを見てはニヤニヤ笑っているのだ……気持ち悪い! なにを考えているんだ!?)
(し、知らんぷりしましょう。このまま帰りましょう)

 マシーナリーとも子はその後もチラチラとツバメの方を見てはニヤニヤと不気味な笑みを浮かべていた……。

***

「……て、ことがありまシて」
「へぇ〜……なんか意味ありげだね」

 ツバメはその足でとんかつ処田辺に立ち寄り、昼の繁忙時を終わらせて一息ついたアークドライブ田辺に相談した。

(私がついていればマシーナリーとも子の思考を読めたんですけどねえ)

 そう思念波を飛ばしながらビールを呷るのは世界最強のサイキッカー、トルーだ。今日は平日だというのに昼から出来上がっている。なんでだ? とツバメが思うと(有休ですよ)とトルーからの思念波が差し込まれた。そういうのもあるのか!

「おおかた、ツバメさんが票田としてやっていってるか見張ってるんじゃない?」
(いや、あれはそういう感じじゃなかったぞ……)

 田辺の問いかけにワニがガウガウと身をよじって応える。田辺はセベクがなにをいってるのかわからない!

「ハハ……セベクさんなんですって?」
「違う、でスって」

 なんかバウリンガルとかそういうのがワニにも使えないんだろうかと田辺は思った。そもそも南極の古き神々は喋れたのになんでセベクはこうなんだろうか……。

(セベクも前は喋れたんですよお? でも発声期間が人の身体側にあって〜)
(ツバメに移植されるために捨ててしまったからな)
「はぇ〜、そうだったんでスか」
「なんかこう、ときどき不便なんでなんとかなりませんか? トルーさんのパワーとかで」
(疲れるから嫌で〜す)

 そう答えるとトルーはグラスの底を天井に向けるほど傾けてビールを飲み干した。なんだか今日はご機嫌だなあ……。

「まあ、じゃ私今度澤村とかたか子さんに聞いてみますよ。場合によっては迷惑だからやめてって言っときますから」
「まあ迷惑っていうか普通に敵同士なんだから殺せばいいんでスけどね……」
(なんか田辺、最近平気な顔してシンギュラリティのところ出向きすぎではないのか? 別にいいけど緊張感が削がれるぞ)

 ワニがガウガウと身をよじる! 田辺はセベクがなにを言ってるかわからない!

「えーと……なんですって?」

***


読んだ人は気が向いたら「100円くらいの価値はあったな」「この1000円で昼飯でも食いな」てきにおひねりをくれるとよろこびます