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マシーナリーとも子EX 〜早すぎた帰還篇〜

 3日ぶりに使うだけでも久々に感じるなあとパワーボンバー土屋は思った。ターンテーブル水縁との冒険を終え、いま土屋は池袋支部に帰ってきたのだ。
 エレベーターの扉が閉まるとイルカの死体から発せられる血の臭いがちとキツいがもうしばらくの我慢だ。仲間たちは多大な戦果を上げ、土産まで持ち帰った自分を称えるだろう。自分はいまいち、この死体の価値がわからないが……。
 チーンとエレベーターが到着し、足早に受付を抜ける。土屋は元気よく声を出した

「ただいまー! パワーボンバー土屋ただいま戻りました!」
「「「えっ!?!?!?」」」

 受付すぐ近くの応接スペースでお茶をしていたドゥームズデイクロックゆずき、エアバースト吉村、ダークフォース前澤、3機全員が目をまん丸にして身を乗り出し、そして叫んだ。

「「「もう帰ってきたの!?!?!?!?」」」
「あーっ! なにその言い方! 傷つくんだ!」

***

 ゆずきは土屋にひとまずお茶を振る舞い、話を聞いた。イルカは土屋のロケットパンチで宙に浮いたままである。土屋は足ロケットパンチで器用にお茶を飲んだ。

「で! 私はデカい魚をやっつけましてー。イルカはみんな水縁さんに殺されました。でも豊洲は核汚染されちゃった」
「うーん、なるほど……」

 ゆずきは大きな手の上で脚を組んだ。彼女は非常に大きな腕部を持っているため腕を組むことができない。と言うか普段はその腕の上に座っていることが多い。だから彼女は考え込んだ時に腕の代わりに脚を組むのだ。

「なんかすごい話に聞こえますけど……どうしますゆずきさん」

 ダークフォース前澤が横から汗を垂らしながら話しかける。
 はておかしいな。パワーボンバー土屋は凱旋することによって前澤との熱い友情を期待していた。もしかしたら前澤のやつ、べそかきながらハグしてくるかもしれないぞのんてことすら考えていた。だが今、同期にして無二の親友はどちらかというと土屋の凱旋に戸惑っているようだった。

「悩んでるよ。なにに悩んでるってどっちの話から先に始めようかってことだよ」
「まあそれはわかるけどさ……」

 土屋の隣に座っている吉村が口を出した。やはり土屋が帰っていることに戸惑いが隠せないようだ。いったいなぜ?

「とりあえず戦果はデカいと思うし……。土屋には特に落ち度はないしねぎらってやったほうがいいんじゃねーの?」
「そうだな……そうだね。よし土屋くん。君はえらいぞ! よくやった。実際そのイルカの死体はかなり有益な情報になり得るし、その……なんといったかな」
「アトランティス?」
「そう! アトランティスという組織は私も初耳だからこの情報の有益度はイルカの死体と合わせるとかなりのモンだ。上にも君の働きを報告させてもらうよ」
「やったー!」

 いつの間にか立ち上がり前のめりになって大きな指まで土屋を指差していたゆずきはコホンと咳をするとふたたび腕の上に座った。

「で、君のエラさとは別に困ったことがある」
「なんスか? それ私が関係あるんですか?」
「大アリだね」
「えっ、何!?」
「いや何ってお前…」

 耐えられないと言う様子で前澤が口を挟んだ。ただでさえ細目がちなその目をさらに細めて。

「帰ってくるのが早すぎるだろ!」
「え!? え!? いけない!?」
「いやいけないっていうか……マジでしばらく帰ってこないもんだと我々は思ってたんだけど」
「土屋〜〜。お前、水縁についていっていいぞーって言った時の流れ覚えてるか〜?」

 頬杖をつきながら吉村が問う。はて、なんだったか。

 土屋が数秒空中を眺めていたのでまたも耐えられなくなった前澤が口を挟んだ。

「だから! N.A.I.L.に警戒されてるから! 数を増やさないで強いサイボーグを入れようって話をしてたじゃん! だからお前と入れ替えでよその本徳サイボーグを派遣してもらって……」
「あ! あー、あー!」

 そういえばそんな話だった。

「ま、ま、この件については土屋くんに非はまったく無いよ……。すっかり忘れてるのはどうかと思うけどね。悪いのは水縁だからね。あのいい加減なロボめ……!」

 ゆずきがため息をつく。

「……で、間が悪いことに補充サイボーグの稟議が思っていた以上にスイスイ進んでね……。つい1時間前に承認されたとこなんだよ」
「あらま」
「まあワニツバメ襲撃以来のもろもろもあるしね。お上も都内の防御には細心の注意を払ってるっけとだわね。しかし……まさかこうなるとはね」
「えーっと、そんでどーします? 私上野にでも行ってた方がいいですかあ?」
「いやいやまさか。まあ、上には勘違いだったとかなんとか言っとくよ。とはいえ補充サイボーグは稟議は通ってしまったわけだから……この調子だとすでに候補に声を掛けてるかもなあ」
「別にいいんじゃね?」

 そう言ったのは吉村だ。

「増えたところでアタシとゆずきさん、前澤土屋と新入りで5体だろ。たか子さん時代と同じ数だよ。特別多かあねえ」
「まあそれはそうだが……」
「あのときだって本徳2体に擬似得3体だったしなあ。元に戻ると思えば……」
「……まあ、確かに4体が5体になったところでとくべつ敵の警戒が強まるかって言うと……そうでもないかもしれませんね」

 前澤も仕方ない、とため息をついた。

「ああ。そのうち1体は下のバウムクーヘン屋さんに詰めてるわけだしな」
「…………」

 前澤が吉村をジトーッと睨む。吉村は愉快そうに茶を啜った。

「あ」

 ゆずきが巨大な腕を掲げ、手の甲に設けられたコミュニケーターを展開した。

「噂をすればなんとやら……。補充サイボーグの連絡が来たぞ」
「おっ!!!」
「どんなロボですか!?!?」
「まあまあ待ちたまえ。えーっとなになに9月10日をもって池袋支部へ以下の機体の異動を命ずる…………
何ィーーーっ!?!?!?」

 ゆずきが悲鳴を上げたかと思うと腰掛けていた自らの左腕から転げ落ちた。

「あわっ!? ゆずきさん!?」
「なになにどーしたの!?」
「こ、こいつぁヤバいやつが来るな……前澤くんと土屋くわはともかく、もしかしたら吉村くんなら知ってるかもしれないが…」
「なんスか? 誰が来るんです?」
「……ドレッドノートりんご」
「マジすか」

 吉村が冷や汗をスーッとかいたのを土屋は横目で見た。

「りんご……? 誰です?」
「私も会ったことはない。が、私ら世代あたりから前のサイボーグなら知らねーやつはいない恐ろしい奴だ」

 吉村はドスンと座り、一息に残った茶を飲み干した。

「荒っぽすぎて封印されてたサイボーグなんだよ」
「封印? なんですかそれ」
「ちょっと耳慣れない言葉ですね……なんの比喩ですか?」
「比喩なんかじゃねー。そのまんまの意味だよ。ヤバすぎてあいつぁ仕事もさせてもらえず軟禁状態だったんだ」
「いったい何をしでかしたんです?」

 ふぅーと吉村は大きく息を吐いて続けた。

「ドレッドノートりんご……奴の手でこの国の都道府県は46個になっちまったんだ」

 応接スペースを沈黙が包んだ。

***

読んだ人は気が向いたら「100円くらいの価値はあったな」「この1000円で昼飯でも食いな」てきにおひねりをくれるとよろこびます