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マシーナリーとも子EX ~地縛霊の依代篇~

(わかりました……。この家に憑いているのは宇宙人の幽霊です!)
「宇宙人の幽霊~!?」

 ザワみは聞いたことのない概念に悲鳴をあげた。だが……確かに存在してもおかしくない。幽霊がこの星のもの由来だとどうして言えるのだろう? 星が変わってもヒューマノイドタイプの生物や虫のような生物、鳥のような生物は……もちろん生体や知能、惑星上での序列は大幅に異なるが……存在するのだ。どうして幽霊というカテゴリーのエネルギー体が存在しないと言える?

「ザッ、ザワみーっ! 助けてくれーっ!」

 引き続き空中では澤村がくるくると回転している! ザワみは澤村の腕を掴むと、床に引きずり下ろした。

「うげっ」
「どうだぁ?」
「おーげっ! なんか……感覚が元に戻ったぜ。床に着けてもらえれば大丈夫みたいだ」
「重力を失わせる能力ってところかぁ……? おいトルー! こいつぁこの宇宙人なら誰でも使える能力なのか? それともこいつ固有の能力なのか?」
(そりゃあ頑張ってテレパシーすれば調べることもできますが……そんなことを知ってどうするんです? どちらにしろ対処しなけりゃあならないのは同じじゃないですか……)
「それはそうだけどよッ! 調べれば……オワアッ!」
「misKbfC!」

 今度はザワみが重力を奪われる! フワーッとその体が天井近くまで浮き上がる!

「ザワみーっ! 大丈夫か!?」
「大丈夫だよっ! クソが……。宇宙人だろうがUMAだろうが亡者ごときがサイボーグに逆らおうってのかぁー!?」

 ザワみは背中のローターユニットを逆回転! 床に強烈に吸い付かせることによって強引に着地することで無重力状態を解く! ただし、その顔面をしこたま床にぶつけることになった。

「へぶっ!」
「iyhnkfhmf」

 間髪入れずザワみが落下したその床に硫黄の炎が上がる! 

「うアッチ!!! くっせ!!!!」

 ザワみは飛び上がりながら手にまだ持っていたミネラルウォーターをかける。床に焦げ跡が! まだダンボールも開けられてねえんだぞ! ザワみは歯噛みした。

「h3mh8inca」
「うわーっ! あれ見ろザワみ!」
「あんだよ……うゲェーッ!」

 澤村に促されて入り口近くを見ると、まだ開けてないダンボールが無重力にされ、しかもどんな性質の力なのか留めておいたガムテープも破られ、中身がぶちまけられている! しかも器用なことに箱から出てきた中身には無重力が働かず、ボトボトと床に山を作り上げていた。

「な、なんだぁーっ!? こいつ! ひたすら嫌がらせするつもりかよぉー!!!」
「うぐぐぐ……だが、なんでこの物件がやたら安いのか理由はわかった気がするぜ……」

 ザワみは怒りを抑えながらトルーに詰め寄る。

「おい……幽霊に詳しいんだろ! さっきからヤツの姿……霊体が見えねえ。見えりゃあ徳で吹き飛ばしてやったっていいんだが、なんとか探し出す方法はねえのか?」
(そうですね、定番としては……やはり塩ですかね)
「清めの塩ってやつか」
(ええ。塩化ナトリウムは幽霊の主な構成要素であるエーテルに強烈な化学反応を生じさせます。その結果、幽霊が付近を通過した塩は黒く変色し、また幽霊に塩をかけることで消滅させることが可能なのです。ですが……)
「ですが何?」

 ザワみの問いかけにトルーは自信を含ませた鼻息で返した。

(私には必要ありません。超能力で探知できますから)
「ああ……そっか。じゃあとっとと塩かけて除霊してくれよ!」
(任せていただきましょう。むむむ……そこかっ!)

 トルーは眉間に皺を寄せて例の反応を探知すると一掴みの塩をサイコキネシスで投げる! 床にぶちまけられる塩を見て、ザワみは掃除するときのことを考えて憂鬱になった。

「どうだ……?」
「おいっ! 見ろよ〜!」

 澤村が床に散乱した塩を指差す! そこにはドス黒く変色していく塩が! ヒットしている!

「除霊完了かぁ〜?」
(いえ……しかしバカな……これはっ!?)
「CHADKdejZw!!」

 ドガン! と家が震え、澤村、ザワみ、トルーがそれぞれ重力を失う!

「うぎゃ〜ッ!」
「グエーっ!? なんだなんだ!? 全然元気じゃねえかよ! どうなってんだトルーっ!」
(あ、あり得ない! 塩が効いてないんです!)
「強い幽霊だから効かねえとかじゃあねえのか〜っ!? 怨念が強いとかよ!」
(そんなことはおかしいんです! 幽霊に塩が効くのは絶対なんです! 火に水をかければ消えるように、この星の法則はそうなって……あっ! まさか!?)

 トルーは空中でクルクルと周りながら膝を叩く。そして額に手を当てて集中する。

(奴の素性をテレパスします……。私の予想が確かならば……)
「なんだよ! なんかわかんのかよ! あいつの死因とかかあ!?」
(それも併せて調べますよ……むむむっ! これはあ!)

 トルーは仰天して腕を振り上げ高速回転! その慣性で床に尻餅をつき、無重力解除!

(アイタタっ!)
「おい! なんかわかったのか!? 早く共有しろ!」
「そうか! 勢いをつければ降りられるんだ。ザワみーっ! グレネード撃っていいか?」
「絶対やめろ!!! 初日だぞ!!! 腕とか足の勢いでやれよっ! で、トルー! 塩が効かなかった原因はなんなんだよ!」
(彼らの母星の環境です!)
「環境お?」

 トルーは頷いた。

(彼らの母星……位置や名前はよくわかりませんでしたが……その星の大気の中は塩で満ちているのです!)
「そんな星あり得るかあ?」
「嘘だろ……だって塩が気化するのは1400度以上だぜーっ!」
(ええ……ですから、地球にやってきた彼らは宇宙船から出た瞬間、この地球の温度に耐えられず即死したのです)
「ん……? 待てよ? ってことはよぉ〜……イテッ!」

 澤村が腕と脚をぶんぶん振り回してなんとか着地する。その際に頭をしこたま打ってしまい、数秒悶絶するハメになったが落ち着くと自分の思いつきを口にした。

「あいつら、地縛霊だろ? ずっとこの物件にいるんだもんな? 何人も借りてた奴らを呪って追い出したんだよな?」
「そうだろうなぁーっ。出ていく様子もねえしな」
「なんでこの物件に憑いてるんだ? 理由がなくねえか? ふつうよ、地縛霊って言ったらその場で殺されたとかよぉーっ、曰くのある場所に記憶が浸みついて発生するもんだろ?」
(確かに……辻褄が合いませんね)
「どういうことだあ?」
「つまりよ! 桜の木とかみてえなもんでよ……。原因はこの物件じゃないんだ! この土地なんだよ! きっとこの部屋の下に……」
(そうか! いつからかはわからないけど彼らの宇宙船が……)
「なるほど! いい気づきだぜ澤村! そうとわかりゃあ〜っ!」

 ザワみはポンと手をたたくと庭へと躍り出る!

「トルー! なんか超能力とかで探知できるだろ! 私に場所教えろや」
(任せれましょう)
「行くぜ〜っ!」

 ザワみは景気付けにコイントスを行うと跳躍! 指からアイアンネイルを展開し、高速回転しながら地面と突き刺さった! 徳ドリルトンネル工法!

(ザワみ! そこから50メートル右に掘り進んだらあとは直進! 2キロ下に目標です!)
「おうともよーっ!!」

 ザワみは凄まじい切削力で掘り進む! やがて空洞に突き当たり……。そこには怪しくマゼンタの光を放つ葉巻型の宇宙船の残骸!

「あったぜッ! 無重力野郎の宇宙船がよぉーっ!」

 ザワみは背中のビームカッターランチャーを展開! 秒速3000連射の徳の光が宇宙船を包み込む!

「未練がましく他所の国に取り憑いてんじゃねぇーッ! 消え去りなーっ!!!!」

 爆発! 依代を失い宇宙人の霊消失! 除霊完了!


***


「こんにちは〜っ。家賃、いただきにまいりやしたーっ」

 澤村ザワみハウスに管理会社の人間がやってくる。ザワみはにこやかに扉を開け、応対した。

「おう。ごくろーさん。2万だったよなあ? しかしいまどき脚で回収とはご苦労なこったぜ。銀行振込にしろよなぁーっ。こっちもめんどくせーんだけど?」
「え、えへへ。大変申し訳ない。実はいろいろ過去の入居者とありまして少なくとも最初のひと月は現金でもらってまして……。それでそのう……。なんともありませんか?」
「なんとも?」

 ザワみは金を渡しながらニヤリと笑った。

「なんともって……何にもねぇよなぁーっ!? 澤村よ!」
「おう! 実にいい部屋だったぜー! 住み心地最高! 日当たり良好! コンビニも近えしなーっ! 末長く世話になるぜ! なっ! 大家サンよ!」


 ***


読んだ人は気が向いたら「100円くらいの価値はあったな」「この1000円で昼飯でも食いな」てきにおひねりをくれるとよろこびます