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マシーナリーとも子EX ~灼熱の公園篇~

「やあこれはこれは、こんなところで奇遇だな」

 ドレッドノートりんごはその声が耳に届くより先に、その独特の駆動音でその者の存在に気づき、警戒心を高めていた。

「……奇遇? バカ言わないで……」

 りんごは眉間にシワをギュッと寄せ、敵愾心を剥き出しにしながら振り返る。果たしてそこにいたのはりんごの警戒していたサイボーグが立っていた……。その腕にはマントラ入りの12針デジタルミシンが取り付けられている。サイボーグは歯を剥き出しにして笑った。

***

……話は数時間ほど遡る!

「ギョゲーッッ!!」

 南池袋に魚が出た! 魚と言っても人型である。魚人だろうか? いや違う! 人型のパワードスーツだ! パワードスーツはまるで宇宙服のようなデザインでビビッドなイエロー、手や足と言った末端は郵便ポストのような赤に染められている。背中には生命維持のためだろうか、武器のためだろうか? 不思議なタンクが2本備え付けられ、そこから手に持った火器と頭部にチューブが伸びていた。しかしこれではただの人ではないか。どこが魚なんだ……。みなさんはそう思ったかもしれない。だが見てほしい! その頭部が収まるヘルメットの中には水が並々と注がれている! その中に……イワシ! イワシがパワードスーツを操っている!

「またケッタイなもの作ってまでわざわざ来たねぇ~~」

 パワーボンバー土屋がロケットパンチでパワードスーツの頭部を砕く! 頭部から水が溢れ、水流に流されたイワシがビチビチと地面でうごめく!

「なんで人型なんだろうな? 前に報告にあったサイバーツナみたいに空中を泳ぐならまだわかるが……。魚がわざわざ二足歩行を模して活動するなんて無駄が多いと思わないか?」

 ダークフォース前澤がトングでパワードスーツのヘルメットを貫き、内部からイワシを引きずり出す! 今夜のメニューは決まりだ!

「まぁホラ……人間も海ん中潜るのに魚みたいな形の潜水艦を作るだろ? 空を飛ぶヒコーキは鳥みたいだしさ……。なんなら私らサイボーグだって人類と同じ形してるわけだし、なんつーか地形に合った最適解みたいなのがあるんじゃねーの?」

 独自の見解を述べながらパワードスーツに素早いワンツーを叩き込むのはエアバースト吉村だ! 的確に頭部ヘルメットを狙い砕き、瞬く間に6体のパワードスーツを撃破!

「ウギョギョーッ!!!」

 残った30体近くのイワシパワードスーツが手に持った銃器を構える! その銃身から巨大な炎が龍の吐息のごとく吹き上がる! 火炎放射器だ! 30の火炎放射が合体し、巨大な炎の渦となってサイボーグたちに襲いかかる!

「暑い……迷惑……」

 炎の塊を前にしてドレッドノートりんごが臆することなく距離を詰める!

「りんごさん!?」
「大丈夫……任せて」

 りんごは背中を向けると背部の三連装主砲をグルンと1回転させた! ぶわりと徳を含んだ突風が拭き、炎塊を押し返す!

「ウギョーッ!?!?!?」

 凄まじい勢いで押し返された炎でパワードスーツ全滅! 高熱でイワシは一瞬でスチームされてジューシーさを保ったままボイルされ、巻き添えで南池袋公園と周囲の家屋全焼!

「うおーっ!」
「さすがだりんごさん~!」
「ついでに人類も適度な感じに苦しめて徳が高い! さすが本徳です!」

 りんごの華麗な反撃にサイボーグ一同は色めき立つ! いっぽう、りんごはションボリとしながら戻ってきた。

「……やりすぎた……」
「やりすぎた? なーに言ってんですか。ちょうどいいですよ!」

 りんごは前澤の巨大なガンランチャーを愛しげにさすった。

「攻撃、防ぐだけのつもりだった……。前澤さんのガンランチャーが撃たれるところ、見たかった……」
「へは??」

 当のりんごの巨大な戦艦砲の先端にはコルクが詰められ、封印されている。かつてはその破壊力で多大な戦果をシンギュラリティにもたらした彼女だが、ある時の気合を込めた一射で富山県を消滅、日本を46都道府県にしてしまったという前科がある。そのため今では背中の主砲、腕の単装砲共に使うことを許されていない。

「自分で撃てないならせめて他ロボが豪快にぶっ放してるところが見たいってことか? 大砲が好きなんだねえりんごさんは」

 吉村がケタケタと笑いながら前澤の肩をバンバン叩く。

「好き……っていうか……。懐かしくて……」

 ガンランチャーに手を添えながらりんごは遠くを見つめた。

「前澤さんのガンランチャー、大きいから……。違うけど、似てるの。撃った時の音、爆風、破壊力、徳の衝撃……。規格も役割も何もかも違うけど、格が似てるの。撃たれるとこの子が元気だった時のことを思い出すの……」

 りんごは背中のアームを伸ばして主砲塔を肩に乗せると、愛おしげに頬擦りした。それを見ると前澤は自分まで切ないような気持ちになり、胸を抑えた。

「その……上層部に封印されてるって言ってましたけど、実際のところ封印を破るとどうなるんです? 怒られるだけじゃなくて罰があるとか?」
「いろいろ……言われたけど怒られにもランクがあるらしくて……。でも、ひとつ言えるのは今の私は監視役のサイボーグがいる状態で」
「監視役……」

 ずいぶん穏やかではない話だ。前澤はその言葉が持つ冷たさに一瞬息が詰まる思いをした。監視役とはどの程度の頻度でりんごの行動をチェックするのだろう。まさかいつでも見張りを入れられている状態で、四六時中一挙一動を見張られているのだろうか……。そんなプライバシーが無い状態など、あり得るのだろうか。そんな生活を知られてるりんごは……。そう考えると自分の愛するものを封じられ、常に生活を筒抜けにされている彼女に憐憫の情けというものが湧いてくる。優秀な本徳サイボーグだというのに、射撃ができなくてもこれだけの戦闘力を持つというのに……それなのにこんなに肩身を狭くして生きなければいけないのだろうか。富山県が消滅するのは彼女のロボ生に影を落とさなければいけないほど重要なことだったのだろうか。うっすらと前澤の瞼に涙が浮かんだ。

 そこまで考えて前澤はハッとなった。
 全部仮の情報で考えすぎてしまっている……! 悪い癖だ。そもそも常時監視されてるなんてあり得るか?

「あっ、あのー、監視役って、いつもりんごさんのことを見張ってるんですうか? 例えば今でもとか」

 りんごは首を横に振る。

「わかんない……。たまに連絡が来たりはするけど」
「バッカだなー前澤。いつも見っぱなしなんてそんなわけ無いじゃん! その、監視役? ってサイボーグにも生活があるんだしさあ。他にもいろいろ仕事もあるんじゃないの? たまーに見にきてそれで終わりだよ。トイレ掃除みたいなもん!」
「そっ、そうかな……。そうですよね。ハハ。いや、だからと言ってバレないうちに撃っちゃおうぜとかはヤバいと思いますけど……」

 りんごはこくりと頷いた。

「いつかまた自由に撃てるようになるといいですね。戦艦砲が……」
「うん……。前澤さんも、もっと撃ってね。ガンランチャー」

 前澤はニコリと笑った。

***

 業火を上げる南口公園を後にしてサイボーグたちは支部への帰路に着く。まだ昼下がりだ。事務所でぼんやり過ごそう。

「あ……私、ちょっと買い物したいからみんな、先に帰ってて……」

 りんごが駅と反対側を指差す。

「ほーい。ゆずきさんにも伝えときますわ」

 吉村を筆頭にサイボーグたちが離れる。りんごは彼女たちから対角線を取るように歩いて行った。

 2分、3分……5分。だいぶ駅から離れてきた。人類の数もまばらになってくる。りんごは足を止め、口を開けた。

「そろそろ……顔を出したらどう?」

 沈黙……。当然だ。りんごは一人きりなのだから。しかし、不思議なことにその声には返事が返ってきた。

「やあこれはこれは、こんなところで奇遇だな」

 ドレッドノートりんごはその声が耳に届くより先に、その独特の駆動音でその者の存在に気づき、警戒心を高めていた。

「……奇遇? バカ言わないで……」

 りんごは眉間にシワをギュッと寄せ、敵愾心を剥き出しにしながら振り返る。果たしてそこにいたのはりんごの警戒していたサイボーグが立っていた……。

「たまたま通りがかってものでね……。少しあいさつしようと思ったんだが声をかけづらくて」
「白々しいいこと言わないで……。いつも見ているくせに。ラウンデル絹枝!」

その腕にはマントラ入りの12針デジタルミシンが取り付けられている。サイボーグは歯を剥き出しにして笑った。

***




読んだ人は気が向いたら「100円くらいの価値はあったな」「この1000円で昼飯でも食いな」てきにおひねりをくれるとよろこびます