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三人の魔術師:番外編 モノベさんの日常⑧「~喉の住人②〈ステイシアさん登場〉~」

うとうとしてしまった。
目を開けたときには「喉の住人」はいなくなっていた。

まだ、余韻があった。
それは子ども時代に泣いたあとにくる甘い感じに似ていた。
空虚な日々に疲れていた神経が少し癒えていた。

もう一度「喉の住人」に会いたいと思っていたときに、また突然声が聞こえた。

今度は女性のようだった。

畳んだ布団と毛布は少し厚みが減っていて、さっきよりも天井がよく見えていた。

その辺りにまたぼんやりと光を感じた。なんとなく目を瞑ったのだが、意外なことに開けてるときより眩しかった。オーロラの天空に光のフラッシュが時折降りてくるようだった。

少しも怖くはなかった。むしろこの時間が長く続くことを願ったが、やはりそのまま眠ってしまったようだ。

明晰夢が始まった。
眠っていることを自覚しながら、夢の中にいた。
森林の中にいるようだった。
野鳥がたくさん鳴いている。

自然林なのか、樹木は一定間隔に広がって生えていて、木洩れ日が心地よい。ブナの林のようだった。土がふかふかさくさくと歩く度に心地よく沈む。

平地であれば3月下旬くらいの気候だったが、風はなく、寒くもなく快適だった。

綿なのか、木綿なのか?着心地のいい温かい感じがする和服のようなものを着ていた。

ふと、腰の辺りを見ると水筒に弁当のようなものがあった。水筒から水を飲んだ。時代劇に出てくるあれである。

うまい。飲んだことがないうまい水だった。
弁当を開けてみようと思った、そのときに誰かが話しかけてきた。

あまりに驚いて腰かけていた切り株から飛び上がって下に落ちた。

「モノベさんは気が小さいのね」
「あなた誰ですか?」

見上げると、美しいルックスの女性が立っていた。髪が長く、面長で長身。髪の毛は黒かったが、目は黒目が大きく、中心が青みがかかった緑色で日本人とは思えない顔立ちだった。

服装はギリシャ彫刻に出てくるような白いシンプルな品のいい服のようで、ウエストに飾りの帯が巻かれていた。

「私はステイシアといいます」
名前を聞いてロシア人なのかと思った。

「ステイシアさんはロシアかどこかの方?」
「いいえ、地球ではありません」。

絶句してしばらく口が聞けなかった。
「宇宙の方?」
「ふふふ、こんな慌ててるのに、丁寧な言い方するのはモノベさんらしいわね」

全然知らない宇宙人から、しかも名前を呼ばれて頭が回らなくなっていた。

「何しに来られたんですか?」
「喉の住人の方に頼まれて、解説しに来たのよ」。

ますますわけがわからなかった。

「喉の住人とは、先程変性意識になったときにお会いした方のことですよね?」
「ええ、あの方はね、貴方のいわゆる守護霊と呼ばれる方よ」「あの方が?」
「原則として転生しているときは、守護霊は直接話をすることはほとんどないのよ」
「じゃあルール違反?」
「違反ではないわ。でも、守護霊は周りのガイドの方に依頼したりすることが多くて、自分が率先して指導することはあまりないのよ。でも起きたことには理由もあるし、必然なの。モノベさんはごぞんじでしょうけど…この宇宙で起こることは、すべて一なるものの影響下での法則どおり、魂同士なら合意の上でしか起きないのよ」
「自由意思のルールですか?」
「よく勉強してるようね。話が楽でいいわ」。

ステイシアさんは、よく見ると地面から数十センチ浮き上がっていた。周りには電気的な感じがする光の保護膜みたいなもので覆われているように見えた。

「そうそう。守護霊の方はね、いまから800年ほど前に東北地方の、いまの岩手県の山岳地帯で木こりをやってた方よ」
「それじゃあ、いまのボクのこの格好はその頃ねものでしょうか?」
「そうよ。ここは、そのご先祖さまの時代のその辺りよ」
「ご先祖さまの?あの方はご先祖さまなんですか?」
「いろんなパターンがあるみたいだけど、日本人の場合、かなりの確率で持ち回りで類魂グループで、まあ交代で守護霊を担当するようね」
「なんか、がっかりというか、聖徳太子が守護霊とかになったりはしないんですね」
「クラスター…この言葉は知ってるわよね」
「ええ、ロバートモンローの…」
「クラスターにも単位がそれぞれあって、類魂がある単位ごとにまた集合していくでしょ?」
「ええ」
「まあまあ大きなくくりのなかで持ち回りで担当していくってことよ」。

なんとなく納得いかないが理解はした。

【続く】