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老年期少年小説 「誰もいなくなったのはなんで?〈4〉」【東京郊外への通院②】

「先生よろしくお願いいたします」
「おう、どうだ?相変わらず見捨てられ恐怖が強く出てる?」
「そうですね。ここに通って半年で、少しは変わりました」
「そうか。まず、いま意識してること、日々感じていることを、自分なりに簡潔にまとめて伝えてみてくれるか?」
「はい。いま意識に上がるのは、他人をすべて敵であると自動的に思っているという意識があるという思いです」
「うん。それで?」
「他人とは分かり合えない恐怖心が消えません」
「うんうん。なるほど」
「他人を心の奥では信頼できないため、相手が自分にとって危険がないかを常に探ります」
「うん。そうするとどんなことが起きてしまうか意識してみた?」
「いやらしいですが、自分より弱いかをみて、弱い人を安全と考えて付き合い、強いとか危険性を感じる人は避けます。そうすると、イエスマンしか周りに置かず、少しでも自分にとって都合が悪い人をますます遠ざけます。すると、物事がうまく進みません」

「そうか。うまく進まないってのは曖昧な感想だな?実際にはどうなることが多いんだ?」

「やっぱり安全だと思う人を見下すという気持ちがあるようです。つまり、自分の周りは自分より弱いか能力が自分より劣ると思っていてそうすると基本的には自己評価の低い自信がない人間が集まりやすくなります。というかそう自分で考えるとそうなるんではないかなと思います」

「では、逆の立場で、貴方がやっていることを自分がされていると分かったらどうする?」
「…たぶん…怒りの気持ちがわくかもしれません」
「簡単にいうと〈バカにするな〉ってことか?(笑)」
「…自分がやっていることはひどいことをしていることが分かります。でも…他人には怒りがわくのに自分がすることには無頓着のようです」

「そうか。ふつうな…そういうことに気づくと人間は自己嫌悪になったり、やっぱりそういうことはやめたいとか、変化があるもんなんだがな…なんで貴方はそうならないんだと思う?」
「性格が悪いんだということでしょうか?」
「他人事だなまるで」

「他人を見下すことをやめたいんですが…なぜこんな性格で、変えられないんでしょうか?」
「苦しいときがあるか?」
「ええ…でも…また同じように戻ってしまいます。死にたいと思うこともあります」
「何に絶望しているのかな?」
「かわらないだめな人間として間違っていることにですかね?」


「うん。今日はこのへんにしておこうか。よくここまで表現できるようになったな…」