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伊坂幸太郎「ペッパーズ・ゴースト」感想


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遅ればせながら先日、僕の好きな伊坂幸太郎先生の最新作「ペッパーズ・ゴースト」を読みました。

あらすじ

中学の国語教師・檀は、猫を愛する奇妙な二人組「ネコジゴハンター」が暴れる小説原稿を、生徒から渡される。さらに檀先生は他人の未来が少し観える不思議な力を持つことから、サークルと呼ばれるグループに関わり始め……。
最新刊『逆ソクラテス』より1年半ぶり、最新長編『クジラアタマの王様』より2年3ヶ月ぶりとなる、著者最新刊。作家生活20周年超の集大成となるような、一大エンターテインメント長編です。この伊坂作品を待っていた!

(伊坂幸太郎著「ペッパーズ・ゴースト」 公式サイトより)


まず言いたいのが、表紙めっちゃ好きぃ!(いや、なぜにその感想から。)

ハードカバーの本って、購入するために手に取った瞬間からなんか所有欲が満たされるというか、強者になった感があるじゃないですか。
(強者は流石に言い過ぎかも。)

で、今回の「ペッパーズ・ゴースト」は特にその感覚が強く表れており、手に取った瞬間から満足感がありました。
理由はいたってシンプル、カバーイラストに主に、自分の好きなブルーが使われているからです。なので必然的に同作者の「フーガはユーガ」の表紙もめっちゃ好きぃ! なんですよね。

前置きはこれくらいにしておいて、感想に移りたいと思います。


感想(ネタバレなし)

(いちおう、ネタバレとなるようなところはここでは書いておりませんが、少しでも含まれているような部分があればすみません。)

まず、”伊坂作品の集大成”は伊達じゃないなと思わされました。

伊坂作品の魅力である

・登場人物のクセになるやりとり
(読者の印象に残る台詞をあたかも自分たちのガジェットのように使いこなす、または喋りこなすあの感じがたまんねぇ!)

・おしゃれすぎる他作品等からの引用を用いた物語

・鮮やかな伏線回収

をバランスよく詰め込んだ、ファンにとってはたまらないエンターテインメント作品となっていました。それでいて、これまでの作品と被るようなことはなく、新鮮味があってとてもおもしろかったです。

ちなみに、今回の引用は哲学者・ニーチェの『ツァラトゥストラ』という本が主に使われていて、登場人物たちの生についての思想での引用がお洒落だったので、結構気になりましたね。
でも難解な本は読み切れるか不安なので、今のところ読むことはないかなー(笑)


また、主人公である中学教師の檀先生にはある特殊能力が備わっており、それは飛沫感染によって、感染源の人間の未来を<先行上映>として鑑賞することができるといったものです。
その先行上映として映るものには、相手が危険な目に合っている最中であったりなかったり.......。


そういった便利なのか便利じゃないのか分からない能力を持っているわけですが、自分のお父さんが言っていた、「自分にどうしようもできないことは諦めるしかないんだ」といった台詞が、相手の未来を知っているがゆえに立ち向かえるのは自分しかおらず、彼を悩ます要素となります。
そういったことに葛藤しながらも、何とかできるかもしれない出来事に立ち向かおうとする様は読んでいてめちゃくちゃかっこよかったですね。

戦うサラリーマンへの応援小説だと勝手に思っている、同作者の「クジラアタマの王様」と同じくらい熱くなれました。


(そういや、クジラアタマの王様は刊行から2年以上経っていると思うのだが、文庫版はいつ発売するのだろうか。あんまり有名じゃないかもしれないけど、かなりおもしろかったので、未読の方はぜひぜひ読んでみてください。簡単に言うと刊行時(2019年)にコロナ禍を予言したかのような作品になっています。)

それと、本作は「現実パート」と「小説パート」が並行して物語が進んでいくのですが、その構成において主人公は2組いると思っていて、「現実パート」に檀先生、「小説パート」にロシアンブルとアメショーのコンビだと思っています。

で、このロシアンブルとアメショーなんですけれども、めちゃめちゃ良いキャラしてたんですよね~。
この二人は《ネコジゴハンター》っていう、過去に猫を虐待して楽しんでいた連中(それに関わっていたやつら)を成敗していく、ヒーローのようで危険な香りがするやつらですが、伊坂作品ではガチの極悪人(勧善懲悪でいうところの悪側)を除いて悪いやつらは読んでる側からすると魅力的に映るというか、とにかく憎めない存在になる傾向にあると思っていて、同作者の「残り全部バケーション」の岡田と溝口のコンビのような、良い味を出したキャラになっていました。

また、特に印象に残っているのがアメショーの
「アメショー、ハラショー、松尾芭蕉」
っていう、韻を踏んだ最高にセンスのある台詞なんですよね。

使い道は未来永劫ないだろうけど、言ってみたい。
(「ここは俺にまかせて、お前たちは早く逃げろ」並みに言いたい台詞になりました。)


そして、ここから正直に微妙だった点を書いていきます。

かなりおもしろかったんですけど、正直に言うと伊坂作品を初めて読むという方には微妙な作品かもしれないな~というところがあります。
まず一つ目として、物語が盛り上がりを見せるまでの淡々としたドラマパートだと思っています。
(これはまぁ、他の伊坂作品にもあることなので、本作「ペッパーズ・ゴースト」だけに言えることではありませんが。)

伊坂作品のドラマパートって、普通の人間のやり取りに何らかの引用や印象的な台詞をスパイスとして加えることによって、そのドラマパートをずっと読んでいたいような中毒性があるのが魅力でもあるんですよね。
ハマる人は初心者であろうともとことんハマれるのですが、苦手な方はとことん苦手なのかなぁ、なんて思います。

二つ目は伊坂先生お得意の『伏線回収』の要素ですが、本作は正直やや弱い気がしました。これもまぁ、全作品に『伏線回収』が取り入れられているのかというとそうでもないので、毎回求めるべき要素ではないのですが、個人的に今回のストーリーを考えると大仕掛けが欲しかったですね。
それでもぜんぜん楽しかったです。

(以下に少しですが、ネタバレありの感想を掲載します。)






感想(ネタバレあり)

小説パートのアメショーとロシアンブルの、「自分たちの人生が小説として誰かに読まれているんじゃないか」といったメタ発言をするのもいままでありそうなのに斬新な感じがして、すごい興奮しました。
それで、最終的に檀先生の「現実パート」、アメショーとロシアンブルの「小説パート」が融合するのはほんとたまらなく好きな演出でした。
(あれは全創作物オタクが常日頃から妄想しているであろうことをそのまま具現化してくれていて、たまらなかったです。)

最後の牛丼屋でのアメショーとロシアンブルの生存確認、あれは今後の新作も彼らにまた会えるということを期待していいのでしょうか。
他の方もおっしゃっていたことですが、彼らのキャラが愛おしい存在になったので、また会いたい。







最後に

感想は以上となります。
ツイッターで伊坂幸太郎さんに関する最新情報をまとめたアカウントを見させていただいているのですが、どうやら今年の春に新作が刊行されるみたいです。めちゃくちゃ楽しみで、今のところあまり正式に発表されていないっぽいので、公式からの続報に期待ですね。
(てか、昨年10月刊行の『ペッパーズ・ゴースト』から考えると、刊行ペース早いなぁ。)

ではまた次回!

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