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本のこと(1)『白いしるし』

自分の好きな本の紹介を書いてみます。
最初の一冊はこれかなあということで『白いしるし』。
ネタバレ、的なことはないです。

西加奈子『白いしるし』新潮文庫(2013)

何年か前に、働いている喫茶店の近くの雑貨屋さんの、古本のコーナーに置いてあって、カバーの猫の後頭部に惹かれて手に取りました。
それまで西加奈子さんの作品は数冊読んだことがありましたが、彼女の作品にどっぷりとハマり全著作を読み始めたのは、この作品に出会ってからです。
読みすぎて表紙が汚くなってきました。

この作品は恋愛だけじゃなくて、沢山の要素が含まれているのだけど、裏表紙に書いてあった「超全身恋愛小説」という表現が何より正しい気がします。

この物語で私が印象的だったのは、登場する人間たちの鮮やかさ。
文中で人物を指すとき、代名詞ではなく、ほとんどが名字かフルネームで記されています。
名前でもって、登場人物たちが存在しはじめる。
ページを進めるごとに、物語中の架空の人間の輪郭が濃くなっていく。
主人公の「夏目」以外の人間たちの生活も、だんだんとはっきりしてくるんです。
キャラクターへの愛着、というよりも、この人を知っている、という感覚。
一人一人が愛おしくもあり、格好悪くもある。それがとても自然で、生々しい。
ここの表現のリアルさが、西加奈子さんの凄みだと思うのです。

それから何より物語後半の疾走感。
これがこの作品のいちばんの魅力だと思います。

ひとつひとつの言葉が凄いスピードで自分の身体に飛び込んでくる。それが徐々にテンションを上げていき、まるで短距離走を走っているような感覚。
物語が終わったときがゴールで、本を閉じた時に少し息切れすらしている。
風を切るような爽快感と、心地よい疲労感。
なんじゃこりゃ。と驚きました。

主人公の身体の状態が活字に鮮烈に現れていて、それが読者の身体にまで伝わってくる。
文学って、こんなことができるの?
ずっと平面だと思っていたものが、立体になって目の前に現れた時のあの衝撃。
それは忘れられない読書体験として身体に残っています。

そして裏表紙を見て「超全身」。そうか、そういう意味だったか、と頭と身体で納得。
私はそのまま再読しました。

「映画とかドラマとか、映像の物語は好きだけど、読書はどうしても苦手なんだよね。」
という人、私の周りにも結構多くて。
活字だけだと退屈、だとか
うまく想像できない、とかって声をたまに聞きます。
そんな方に是非この作品を勧めたいです。
物語が目の前に鮮やかに広がると思います。

もちろん読書好きの人にも。
登場人物たちの言葉や思考が私はとても好きでした。

さて、長々と紹介しました。
この本を既に読んだことがある人も、どこが好きだったか、どこの言葉が印象的だったか、よかったら教えてください。

noteはコメントとかできるんですか?まだ使い方がよくわからないけど。いろんな読み方が知りたいです。

是非、素敵な読書体験を。

渡部有希

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