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舟を漕ぐならば


僕たちはどこへ行くのか

帆は小さく
波は高い

床板は軋み
霧が霞む

オールもエンジンも
とうの昔に捨ててきてしまった

ここにあるのは果てのない線と
白く獰猛な起伏

でも僕たちは
漕がねばなるまい

つきまとうものを振り払うすべは

カモメを眺めて泣くことか
魚にキスをすることか
太陽を口一杯に頬張ることか

僕はまだ知らない
そして、知っている

世界には尻尾があるらしい
ここはまだ水槽にしか過ぎない

舟を漕ぐならば
ガラスを探してはならない


僕たちはどこへ行くのか

さて


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海が好きです。
今年は一度も海に入りませんでした。
私としては珍しいことです。

人生は航海のようなものだ
というありきたりな言葉が
本当だったら良いなと思います。

昔よく父と漁船に乗りました。
それが本当に楽しかったから。

字義通りの生と死の狭間で
ぷっかりと呑気に浮かぶものが
人生そのものならどんなに良いか、と。

夏が去る前に
今の感じを残しておきたいと思いました。

次の夏はまた違うことを
思ってるかもしれないので。


渡部有希

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