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愛とニット

カーテンの隙間から射す陽が暖かいと感じた時、私はとても不思議な暖かさに触れた。それは窓の外の無神経な風が遮られているから暖かいのもきっとそう。でも、そんなのは室内にいればいつもそうだ、通学中は私を煽るかのように後ろから風が吹く。自転車を止めて生徒玄関に入った時にも、風は遮られる。さらに教室に入れば眩しい朝日と共に、友達の笑顔にまた暖かいと感じる。でも、いまこの家にいるのは私だけだ。何かに包まれるような暖かさを今、私は感じている。

周りを見渡しても、いつもと同じリビング。違いなんて特に感じない。

──ガチャ
「ただいま、今日は寒いはね…」
母が洗面台に向かい手を洗う音が聞こえドアが空いているのにも関わらず、やはり暖かいと私は感じている。
「おかえりなさい、部屋の中はあったかいよ?」
母がコートを脱ぎながらリビングの椅子にコートをかけながら「あれ?秋穂もそのニットが着れる歳になったかぁ」まだ、外の寒さで手を擦り合わせながら母は言った。
「そうそうこのニット、とっても可愛い!丸襟だしちょうど買ってもらったシャツにぴったりなの。」
母に見せつけるようにくるっと回ってみせるも、母はぼーっと見て微笑むだけで、特に何も言わなかった。
「ねぇ、お母さんが買ってきてくれたんでしょ?とっても私似合ってる!このシャツに合わせて買ってきてくれたの?」母はカーテンの隙間から射す光がよく当たっているソファーに座りながらこう言った。
「秋穂がそのニットを着れるのきっと、ばぁは待ちに待ってたと思うなぁ…秋穂が産まれてからずっと。」母は私を手招きして隣に座らせた。
「秋穂が産まれた2週間前にばぁは亡くなったの、それは覚えてる?」私の目を見て言う母は、優しい顔をして言った。その言葉に続いて私は頷いた。「よくこのニットを、私が着ていたの覚えてるかしら…そのニットばぁが編んだニットなのよ。それはね、私が高校入試の時よく2階で寒い寒い言っている私に母が作ってくれたの。だから、真っ赤な紅色なの。暖かいようにって」母が少し私の着たニットを触りながらそう言った。「でも、秋穂は産まれる前からすっごい小さくてばぁは、私が作った編み物のサイズが合う時はいつ来るのかしらねぇ…なんて言っていたのよ。お兄ちゃんの春翔はやんちゃっ子だったから、ばぁが編んでくれたニットを公園で汚しては穴を開けて、秋穂が着るのはここまで遅くなっちゃったのよ。春翔は歳の割に大きくて今もそうだけど身長も高いでしょ?ばぁはきっと喜んでいるわね…」そう、この赤いニットは私の知らないばぁが編んでくれていたものだったらしい。
ちょうど、衣替えをした時に母がそろそろ着れるかもしれない。そう思って出してきたらしい。不思議な温もり。それはばぁの優しさだったのかもしれない。母は中学校3年生の時着ていたものを高校3年生に着ている私は大学受験に向けて部屋にこもることが多くなってきたこの時期、母のようにこのニットを着て学ぶ姿を見てばぁは喜んでくれるのでしょうか。母が着たニットを私が着て私の子供が着ることは来るのでしょうか…

愛を繋げることはものだけでは無い。でも、ばぁの優しさはこのニットからまたこうして亡き母の温もりを感じることが出来た。

あなたにも愛を伝える人がきっといるはず

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