見出し画像

クリニック・病院のM&A

近年、病院・クリニック等の医療機関においてM&Aの動きが活発化しています。後継者問題、診療報酬の引き下げ等が病院・クリニックの経営を不安定にして廃業リスクを高めているからです。そこで本日は、病院・クリニック、特にクリニックの動向に焦点を当て、その現状と問題点、解決策としてM&Aの利活用のメリットなどみていきましょう。

病院・クリニックの現状と問題点

病院とは20床以上の病床を有するものをいい、クリニック(診療所)は病床を有さない、または19床以下の病床を有するものをいいます。現在、病院・クリニックとも、人口高齢化に伴う医療費の拡大を背景とした診療報酬の引き下げや、昨今の新型コロナウィルスの対応等から厳しい経営状態に置かれています。さらに病院・クリニックの厳しい経営の要因を掘り下げていくと主に以下の3つが考えられます。

①診療報酬の引き下げによる収益低下
②医師・看護師等の人材確保が難しい
③収益力低下による資金不足から設備投資が困難

「診療報酬の引き下げによる収益低下」に関しては、現状、年々増加する高齢人口に対して若年人口の減少が止まりません。そのため、高齢者増加で社会保障費が増える一方、労働者人口の低下で税収が減ることから、国の財政がひっ迫して医療制度改革による診療報酬が切り下げられ続けているのです。

「医師・看護師等の人材確保が難しい」点も病院・クリニックの厳しい経営状態の要因です。医療の中心を担う医師ですが、その数は国際平均と比較して日本は大幅に下回っており、多くの医師を必要とする病院などでは、本来必要とする医師の数を確保できないことがサービスの低下の一因なっています。を招いています。さらに診療報酬の改定で看護師1人に7人の患者を必要とする看護配置が必要となったため、看護師1人に対して見る患者数が増えれば増えるほど診療報酬が下がる構造になりました。しかし看護師も医師同様、不足状態が続いているので、これも病院・クリニック経営を圧迫し続けています。

さらに、売上の核となる診療報酬が下がり続けば、収益力も低下して、資金不足から病院・クリニックが必要とする「各種の設備投資が困難」になり、サービスが低下してさらに患者数が減るという悪循環に陥ります。

さらに近年、他業種同様、病院・クリニックも経営者の高齢化で「後継者問題」が出てきています。しかも病院・クリニックを承継するためには、その事業の特殊性から子ども等に引継ぐにも、後継者が医者であることが前提になるのでよりハードルが高くなります。このように病院・クリニックが複数の要因で厳しい経営状態になっていくと、その困難さから廃業したり倒産の可能性も出てきたりするので、それを避けるためにも何らかの対策が必要になるのです。

医療承継の解決策としてのM&A

前述した各問題点を解決して、引き続き病院・クリニックを経営しつつ地域での良質な医療サービスを提供するためには、M&A(病院・クリニックの売却・事業譲渡)はひとつの方法として有効です。ただし同じM&Aを活用するにしても病院とクリニックではやや事情が異なってきます。

病院はクリニックに比べてその事業規模が大きく、活用できる人材も豊富です。そのため、病院に後継者問題が発生しても、同じ病院の医師等から後継者を選ぶことができると、国や地方自治体の認可さえ得られれば事業の存続は可能です。

一方、クリニックは事業規模が小さいので、経営者の院長が高齢化して後継者もいなければ比較的廃業のリスクにさらされる可能性が高いです。廃業となれば、困るのはそれまで治療に通っていた患者だけでなく、クリニックの取引先、勤めている看護師や病院スタッフまで影響が及びます。それを避けるためにもクリニックの売却・譲渡は有効な手段と考えられるのです。

医学部卒業後、大きな病院で一定期間医療経験を積んだ医師の中には、独立して開業をめざす医師も多く、M&Aでクリニックの受手になってくれる可能性も高いです。もちろん今後もしばらく病院のM&Aも発生しますが、政府の医療費抑制策から国が病床数の削減を促しているので、病院のM&A数は今後減っていくと考えています。そのため今後の医療業界では、クリニックがM&Aの中心になると予想されます。

それでは、クリニックのM&Aにおいての売り手側・買い手側、それぞれのメリットを見てみましょう。

クリニックにおけるM&Aの売り手側メリット

売り手が買い手にクリニックを売却・譲渡したときの主なメリットは以下の通りです。

後継者不足が解決する

クリニック経営者が高齢者だと、後継者がいない問題で悩んでいる方も多くいます。M&Aで後継者を外部に見つけられれば後継者問題が一挙に解決できて悩みも解消できます。

経営が安定化する

医師の高齢化が原因で患者離れが起きて経営不振が続いている場合、M&Aで若い医師にクリニック経営が変わると再び患者が戻ってきて経営が安定化します。

従業員の雇用が確保できる

後継者問題や経営不安等でクリニックが廃業すれば、これまで長らく勤務してきた従業員も解雇され働く場所がなくなり、彼らの生活にも大きく影響してきます。しかしM&Aで経営者が変わっても、そのまま従業員の雇用が確保できるなら大きな問題になりません。しかも、クリニックは看護師や検査技師など、医療資格が必要な従業員もおり、買い手の側もM&Aを契機に従業員が辞めてしまうことで困る点は同じですから、買い手も従業員の雇用の維持に協力的になる可能性があります

創業者利益が得られる

M&Aでクリニックが売却でき、経営者はうまくいけば創業者利益が得られます。その利益は老後資金にしたり別の事業資金の足しにしたりと様々な活用が可能です。

連帯保証から解放される

経営者や共同経営者がクリニックの借入金の連帯保証をしていた場合、クリニックを売却できれば、その借入金も買い手側が引き受けるので、売り手は今までの連帯保証から解放されます。

クリニックにおけるM&A買い手側のメリット

買い手が売り手からクリニックを譲り受けたときの主なメリットは以下の通りです。

開業コストを安くできる

通常、病院は言うに及ばず、クリニックでもその新規開業コストはかなり大きいです。テナント賃貸費用、土地購入費、クリニック建設費、内装工事、検査治療用の設備費から備品費まで入れたら数千万円から億越えの費用がかかります。しかしM&Aでクリニックを手に入れられたら、すでにある施設や設備をそのまま活用できるので開業コストを相当額抑えることができます。

医師看護師等、有資格者の人材確保

M&Aの良さは、すでにそのクリニックで働いている医師看護師等の有資格者をそのまま人材として確保できることです。新規開業のようにあらたに募集して採用する必要はありません。ただしM&Aを契機にその貴重な人材が辞めてしまうリスクはありますので、十分配慮して対応する必要があります。

患者や取引先をそのまま引き継げる

M&Aの良さはそのクリニックの患者や取引先をそのまま引き継げることです。最低限の営業基盤は引き継げるので、適切に経営を行なうことに集中できます。

診察領域を拡大できる可能性がある

これまで病院で働いていた勤務医師が独立してM&Aでクリニックを経営する場合、病院での限られていた診察領域だけでなく、新に別の領域の診察が可能になります。ひいては経営の安定化にもつながるのでこれはM&Aの大きなメリットです。

おわりに

売り手側としては、やはり買い手に対する情報開示が重要です。クリニックの負債や経営上の問題点も含め、全てオープンにして買い手に情報開示すれば、買い手から信頼が得られ交渉もうまくいくでしょう。

クリニックの経営は、提供する治療というサービスの特性上、途中で簡単に停止をすることができません。継続的な治療を必要とする患者が途切れなく医療サービスを享受できるようにM&Aはできるだけスピーディに成立させるべきです。M&A手続きや体制変更でクリニックの営業を停止するにしても、事前に双方が十分話し合いできるだけ短い時間での合意をめざすべきでしょう。それがひいてはM&A成立の可能性を高めることになります。M&Aに興味があっても具体的にアクションができない方は、医療関係の経営に強みをもつM&A専門家・支援機関もありますので、まずは相談するとよいでしょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?