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記憶の配当(DIE WITH ZERO/ビル・パーキンス)

人生でいちばん大切なのは、思い出をつくることだ。
だから自分が何をすれば幸せになるかを知り、その経験に惜しまずお金を使おう。また、人生の充実度を高めるのは、”そのときどきに相応しい経験”である。限りある時間とお金をいつ、何に使うかを正しく判断したうえで、DIE WITH ZERO=死ぬときにちょうどお金を使い果たすことを目指そう。
という趣旨の本。

有り金を使いまくれ!ということではなく、アリとキリギリスでいう、アリの生き方の価値観が持ち上げられすぎている現状に警鐘を鳴らし、アリとキリギリスの中間にある最適なバランスを見つけることを目的としている。

様々な予測されうる反論に対して全て合理的に答えてあり、面白かった。
大きくはこの3つ。

・老後の楽しみや備えのために資金が必要じゃないか!

→今はそう思うだろうが、実際70代になるとやり残したことは徐々に減り、体力も衰える。80代以降はどれだけお金に余裕があっても、積極的に行動しようとしなくなる。年を取ると、人は金を使わなくなる。

・高額な医療費がかかる可能性もあるのでは?

→確かに延命治療のために高額なお金が必要になる可能性はある。しかし、病床での最後の数日、数カ月を生き延びるために、人生の貴重な数年間を犠牲にしてまで働きたいと思うだろうか?
老後の資金が不安な人は、長寿年金に加入する選択肢もある。(この長寿年金の制度、知らなかった。例えば60歳で数千万円の長寿年金を購入すると、見返りとして残りの人生、毎月数十万の支払いが保証されるというもの。きわめて合理的だが、加入者は驚くほど少ない)

・お金を使いきれなくなったって、子どもに残せばいい!

→相続のタイミングでは遅すぎる。譲り受けた財産から価値や喜びを引き出す能力は、年齢とともに低下する。お金の価値を最大化できる26歳~35歳の時に同じお金を渡せば、子どもはもっと有効的に活用し、人生を豊かにできる可能性が高い。あらかじめ誰にいくら渡すか決めて、適切なタイミングで渡そう。寄付なども同じで、早い方がいい。※著者には2人の子どもがいる。
大切なのは「金を稼ぐこと」と「大切な人との経験」をトレードオフの関係として定量的にとらえ、自分の時間を最適化することだ。

本当にもう、全部おっしゃる通りです…という感想しか出てこなかったが、中でも「記憶には配当がある」という考えが私はとても好きだった。

著者は20代前半の頃、同僚が借金をしてヨーロッパ周遊旅行に出かけたのを冷ややかな目で見ていたが、お金は後でもっと稼げるから、あの時にあの経験をした同僚は正しかったと振り返る。
時間やお金をかけて何かを経験するのは、その瞬間を楽しむためだけではない。記憶は私たちに、継続的な「配当」を与えてくれるからだ。30歳を過ぎた頃にはできない、安宿に泊まり同世代の旅人と語り合ったかけがえのない経験を思い出すたびに、同僚は当時と同じくらい、あるいはそれ以上、幸福な気持ちに何度も浸ることができる。(これ、私のことだ!学生時代に旅をしていてよかったと、ちょうど最近よく思っていた)


具体的なDIW WITH ZEROの実践方法だが、大事なのは純資産を「減らすポイント」を明確につくることだ。私たちは人生のある段階で、まだ経験から多くの楽しみを引き出せる体力があるうちに、純資産を取り崩していくべきだ。お金は毎年の生活費×残りの年数×70%あればいい。
実際は配当などがあるので、それでもお金が減るスピードは緩やかなはずだ。一般的には45歳~60歳で、資産を取り崩し始めるのが望ましい。

著者は実際、45歳の時に盛大な誕生パーティーを開催した。自分の大好きな島に、家族と大切な人たちを呼び、飛行機代や宿泊費を全負担し、好きなアーティストを呼んでシークレットライブを行い、天国のような1週間の休暇を楽しんだ。両親や友人の年齢を考えると、50歳では遅すぎると判断したからだそう。(実際、50歳の頃には母親は来れる体調ではなくなっていた)

私は「給料はそこそこでいいから、残業のほとんどない環境で、自分の趣味に時間を費やしたい」と考えるタイプで、いまそれを実践できていて幸せだが、この本を読ませたいと思う人が何人か頭に浮かんだ。毎日深夜まで働きながら増えゆく貯金残高をニヤニヤしながら眺めている同世代の友人たちは、これを読んで何を思うだろう。

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