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「究極超人あ〜る」にみる、「役に立たない機械」の存在意義について

ゆうきまさみ氏による80年代のSFコメディ漫画、「究極超人あ〜る」に登場するポンコツのアンドロイド、R・田中一郎が今もなお愛されている理由をふまえて、「あえて役に立たない機械」の現在と、その存在意義について論じる。

「究極超人あ〜る」とは、1985年から1987年にかけて連載されたゆうきまさみ氏によるSFコメディ漫画である。高校に突如転校してきたアンドロイドのR・田中一郎くんが光画部に入部し、個性的な部員たちと楽しくドタバタとした学園生活を送る、という物語だ。彼はよくフィクションに登場する優秀で、なんらかの目的を持ったアンドロイドとは全く違い、役に立たないアンドロイドである。コンピューターなのに十進数で計算し、学業の成績は人並み以下、発する言葉も間が抜けていて要領を得ていない。
人に造られた存在でありながら、何も役に立たないのである。
しかし、物語において重要な点がある。彼は周囲の人間に迷惑がられながらも愛され、彼の周りの人間たちのコミュニケーションが促進されているのだ。これは何故だろうか。

昨今ではSoftBankのPepperやaiboなどロボットを至るところで見かけるようになった。また、AIの技術の発展もめざましい。それらの多くは何かしらの目的を持って、人間の役に立つため製造・運用されている。例えばPepperは、「人を呼び止めたり、巻き込んだりすることで人と距離を縮めることで、接客や病院の案内など様々な場面で活用される」ことを目的とした運用がなされている。企業としてはPepperを企業にレンタルすることでビジネスを行っているのだ。つまり、商売というれっきとした目的があって開発されたロボットなのである。
しかしAIやロボット技術には不安もある。それは人間の仕事を奪うのではないか、ということだ。オックスフォード大学でAIの研究を行うマイケル・A・オズボーン准教授が発表した論文によると、今後10~20年程度で、米国の総雇用者の約47%の仕事が自動化されるリスクが高いと結論づけられている。実際、工場用ロボットが人間のこなしていた仕事を奪っている現状が既にある。
このように、「役に立つ」機械は人間のやることを先回りして奪ってしまう側面があるのだ。

ここで、再度「究極超人あ〜る」を読んでみる。R・田中一郎くんはアンドロイドだが特に目的も無い。元々は世界征服計画用に造られた存在ではあるものの、本人はそういった使命のために活動をしている訳ではない。毎日動力源のご飯を食べて、動いて、友達と学園生活に勤しむ、ただそれだけの存在である。彼の日常生活においては目的も、アンドロイドとしての役割もないため誰の仕事も奪わず、人間と対等に共存することができる。

私は彼のこの「役に立たない」という特性が逆に人間の役に立っているのではないかと考えた。「無用の用」といった特性を持つ機械なら、人間の役目を奪わず、逆に人間のやることを増やすことで人間間のコミュニケーションを円滑にすることが可能なのではないかと仮説を立てた。

そこで私は役に立たない、もしくは無力な機械について調べてみた。
私が見つけたのは豊橋技術科学大学の「ゴミ箱ロボット」だ。文字通り、ゴミ箱の形をしており、車輪でゆっくり移動し、ゆらゆら揺れるだけ。ゴミ箱の形はしているが、ゴミを集める能力はない。しかし、周囲にいる人にゴミを拾ってもらうことはできる。ゴミを入れてもらうとお辞儀をする機能も備わっている。つまり、子供たちのアシストを上手に引き出しながらゴミを拾い集めてしまうロボットなのだ。ロボット単体としての機能は少なくて頼りないが、だからこそ人間は愛着や親しみを持ち、手助けしたい気持ちになる。実際、入りきれないほどのゴミを入れる子供もいるそうだ。
また、チューリッヒ大学のロイフ・ファイファー教授が提唱する「ロボットに全ての機能を盛り込む必要はない」という考えもこのロボットの開発の根底にあるという。機械自体の機能は少ないが、周囲の人間と関わることで豊かな振る舞いを見せ、人間たち自身もロボットと、もしくはそれをきっかけとして人間の間で、豊かなコミュニケーションをとることが可能になるのである。
また、もう一つ気になる「役に立たない機械」を見つけた。GROOVE X社が開発した「LOVOT」というロボットである。このロボットの特徴は、「何の役にも立たないことだ」とCEOの林要氏は語った。喋ったり人間の手伝いをしたりすることもない。ただ動き回って人を記憶し、甘えることくらいしかできないのだ。このロボットはペットに近いものである。人間はペットを飼うとき、ペットが人間の役に立つことなど期待しない。それにも関わらず、高いお金をかけ、世話をする。人間はペットに対し、ただそばにいて欲しいだけなのだ。もしも役に立つことだけが人間にとって優れた存在であるのならば、ペットを飼う人間はいなくなるだろう。だとすれば、機械やAIに対しても同じことが言えるのではないだろうか。LOVOTはそういった新しい「無用の用」の機械としての可能性をはらんでいる。実際、LOVOTと共に暮らす人たちは完璧ではないから可愛いと語っていた。

「究極超人あ〜る」のR・田中一郎くんは、ロボットとしては優秀だ。人間と同じような思考ができ、高校生として人間の学校に通うことができる。これは現実のロボットではまだ再現できない技術である。しかしAIの思考回路が人並み以下であるため、彼が人間の役に立つことはほとんどない。それどころか騒動を起こしたり、人間の部長としての役割もろくに果たせなかったりすることもしばしばだ。しかし、その都度彼は周囲の人間に助けてもらうことができる。それによって部員たちの思い出づくりに貢献したり、共に楽しい日常生活を送ったりすることができるのだ。

この物語の最後は、彼の友達の言葉で締め括られる。

「Rくんは、いつだって道に迷っているのです。あたしたちはそんなR君の困った顔が大好きです!」

―この物語はフィクションであるが、「役に立たないことで愛される機械」についての一つのモデルを提示している。この漫画が発表された86年とくらべ、明らかに技術が発展した今日に、このアプローチから開発されている機械が存在することからも、このモデルが確かな意義を持つことがわかる。

役に立つ機械は人間のやることを先回りして奪う。一方で、役に立たなくとも愛嬌のある機械は人間のやることを増やすが、それをきっかけに人間間のコミュニケーションの機会を創出したり、人間が機械との意思疎通を図ったりできるのだ。
AIの発達により、便利さと同時に完璧な機械に仕事を奪われるといった恐怖心を感じることもある現代である。また、人間も就職戦争などに巻き込まれ、有用さばかりを追い求める社会構造になっている。この有用性に疲弊した時代だからこそ、愛すべきポンコツロボットのR・田中一郎くんのような「無用の用」ともいえる技術の応用により、コミュニケーションの新たな形を創造できるといえる。


〈参考文献〉
・ゆうきまさみ 「究極超人あ〜る」 全10巻 (小学館) 2018.11
・「自分で拾えないけどゴミを集められる『ゴミ箱型ロボット』」 週刊ロビ8号 (デアゴスティーニ) 2013/4/30
・Carl Benedikt Frey and Michael A. Osborne「THE FUTURE OF EMPLOYMENT: HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO COMPUTERISATION?」 2013/9/17
(https://www.oxfordmartin.ox.ac.uk/downloads/academic/The_Future_of_Employment.pdf)
・「人とつながるロボットPepperが目指したもの」 FUTURE STRIDE, SoftBank 2017/6/26 (https://www.softbank.jp/biz/future_stride/entry/technology/20170626/)
・神田敏晶「役に立たない家族型ロボット『LOVOT(ラボット)』を体験してみた」 YAHOO!JAPANニュース 2018/12/20(https://news.yahoo.co.jp/byline/kandatoshiaki/20181220-00108229/

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