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夢を追い、自分らしく生き、巨人の足を見上げる

○月△日
「無理ゲー社会」 橘玲 2021 小学館新書
ベストセラー作家の、ベストセラー本です。
無理ゲー社会とは、平均あたりからそれ以下の人々にとって、社会的経済的に成功して、評判や性愛を獲得することは不可能となっている社会とのことです。
要は「ワーキングプア」「非モテ」がほとんどを占めて、格差と閉塞感があるという社会です。閉塞感というより絶望感かも。

そして、この本の第一章末尾に書かれている、
『リベラル化』がすべての問題を引き起こしている
のくだりが、本書の本質だと思います。物質が満たされ、非物質的な価値、つまり「自分らしく」「それぞれの夢を追う」などのリベラルな発想が、無理ゲーな社会を作り出したのだと。

本書で何度か登場する、集団の分布形態であるベルカーブとロングテールについて、以下の例え話がわかりやすいです。本書ではこの表現は使われていませんでした。たしか著者である橘氏の他の本にあったと記憶しています。

ベルカーブ:
例えば、成人の身長は100−200cmの間に人口のほとんどが集まっていて、ごくまれに2mを超える人がいます。しかし、3mを超えるような人は絶対に存在しません。低い身長も同じ傾向で、50cmを下回るような人はゼロとなります。このような極端がいない集団は、ベルカーブと呼ばれています。
平均を中心に、だいたい両側均等に要素が集まっています。最頻値、つまりピークと平均値がほぼ同じになります。平均の人が一番たくさんいる世界です。体重や成績や足の速さや釣鐘などもベルカーブです。釣鐘がベルなので当たり前です。

ロングテール:
もし身長で例えると、0-50cmに大多数が集まり、高い身長の人口は次第に減るが、あり得なかった3mはおろか10mや100mに達するような人でもゼロではなく存在する集団です。かぎりなくゼロに近い身長も多く存在します。
ピークはゼロに近づきますが、平均値はそれより大きくなります。ありえない巨大値が平均値を押し上げてしまうからです。つまり平均以下が大多数となってしまい、平均値を聞くと多くの人が凹む構図があります。給与などがそうです。
実は対数化するとベルカーブになるのですが、そのへんはまた今度書きたいと思います。

個人資産の分布はロングテールの典型です。資産千ドル未満が人口の大多数ですが、世界には数千億ドルクラスの資産家が何人もいます。身長なら月に達します。マークやジェフやイーロンなどが地球の裏側で屹立しています。
日本ではマサヨシやタダシの足の裏が見上げるほどです。
ユウサクは彼らに比べたら、まだまだチビっ子です。足の指程度です。月は、はるか遠くです。だからなのです。

本書「無理ゲー社会」によると、ベルカーブに近い社会が、リベラル化によってロングテールとなった。人や資本やモノやサービスがグローバルに流動化することによって、「よりなめらかに流れ」、ロングテールな状態となっていったとのことです。
要するに、かき混ぜると濃度が均一化して(エントロピーが増大して)、ベルカーブ的な集団が薄く広がって、より低きへ流れ、平均に集める力が無くなり、より低くくと、より高いものまでが存在するようになったということです。

社会が豊かになると、一人一人が「自分らしく」「夢を追う」ことで社会の共同体からの束縛から逃れようとするが、持つ者と持たざる者の格差が広がっているので、多くの平凡な才覚の人々にとっては、たいした果実が得られず、絶望感が甚大となってしまう。
というような身も蓋もないことが書かれていました。昔からリベラルには眉に唾をつけたくなっていましたが、なるほど腑に落ちました。

以前ボクは「晩婚化は進化論的圧力がエントロピー増大の法則に屈したから進んだ」という記事を書きました。

進化論的圧力とは種族を保存する社会の圧力(適齢期で結婚しなさい、早くたくさん子供をうみなさい、社会の要求に答えなさいという圧力)です。
エントロピー増大の法則とは高いところにあるものは低きへ流れるということです。つまり、実家で気楽に過ごしたい、恋愛なんてめんどくさい、コタツでNetflixを観ていたい、ありのままに自分らしくレリゴーレリゴーしていたい、ということです。
進化繁栄の進化論的圧力よりエントロピー増大則が勝ってしまい、晩婚化が進んだのだと書きました。

つまり、旧型社会の進化論的圧力が、がんばってエネルギーをかけて集団をベルの形に集めて、秩序よく維持していた。しかし、いろいろ物質的に豊かになり、情報やら多様な価値観など知られるようになって、多様さ=乱雑さ=エントロピー増大圧力が強くなり、集まったベルから徐々に漏れ出し流れていって、長いテールになってしまい、ゼロの壁に貼り付いたりしてしまいました。

そういうことが言いたかったのです。おお、橘氏の本と基本的に同じことを書いているではないか。
記事を書いてブログにアップしたのは2021年4月でした。この本の発行はその年の8月ですね。橘氏はボクの記事で着想を得たに違いない。間に合ったはずだ。本はベストセラーになりました。印税半分くれい。それではまた。

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