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生き物の死にざま

そう言えば半年くらい読書感想文を書いていなかった。
この2年くらいはタメになる教養系の本をせっせと読んでいたのだけど、徐々にしんどくなってきて、最近は好きなエンタメ系の小説(SFや国際政治もの)に戻っていたのでした。noteでエンタメ系の小説を紹介するのは何だか気が引けるので、記事化しなかったという訳です。

エンタメ系以外で好きなジャンルの本は、歴史ものと科学エッセイです。
科学ならジャンルは何でも好きです。
今回取り上げるのは、生物のエッセイです。

「生き物の死にざま」 稲垣栄洋  2019   草思社
「生き物の死にざま はかない命の物語」 稲垣栄洋  2020   草思社

読んだきっかけは以下の記事でした。

この方は長野県の高原で喫茶店を経営されていて、まさしく高原の空気のような文章を書かれます。

この記事を読み、本を手に入れて読むと、最初の数ページで良書・名著の香りが漂ってきます。
久しぶりに、一気に読むのが勿体無い系の本でした。
というか一章一章がじっくり重くて読み飛ばせなかったのかもしれません。
後半に行くほど考えさせられ、なかなか沈んでいく読後感がありました。
調べると、続編が続けて出版されていたので、すぐ取り寄せました。

2冊で50種以上の生き物を取り上げています。
それぞれが命のバトンを繋ぐために、過酷な環境で必死に生きて、死んでいきます。
命のバトンを繋げない、哀しい無駄死にも少なくありませんでした。
生きるとは、死ぬとは、遺伝子を残すとは、そして人間とは、などなど考えてしまいます。

帯には「泣かせにくる科学エッセイ」となっていました。
確かに「泣かせ」の部分は色濃いかもしれませんが、淡々とした文章は好感が持てました。

何よりも「死にざま」としているところが良いです。
「生きざま」じゃない。「死にざま」です。
言葉としても「死にざま」が先にあって「生きざま」は後から生まれました。
どう生きるかじゃなくて、どう死ぬかが大切なのでしょう。
「武士道というは死ぬことと見つけたり」という言葉を想起しました。
関係ないか。
どう生きるか考えるより、ただ今を必死に生きるだけです。
人間以外の生き物には、過去や未来を考えることができません。
今しかないのです。

すべての生き物は「今」を生きている。
大切なのは「今」である。

「生き物の死にざま はかない命の物語」

あえて苦言があるとすれば、2冊目の後半30ページは淡々としながらも、ありがちな人間・文明批判になっていくところは、ボクにはくどい感じがしました。
動物の命をいただく(食べる)ことについて、善悪はないということを以前に書いたように、ボクは合理的冷血系人間なので、情緒的な批判部分はtoo muchでした。
1冊目はそのあたりが絶妙でした。
たいがいPart1がすごいと、Part2はどうしても辛くなってしまいます。

でも時々読み返したくなる本と言えそうです。
処分せずに蔵書とすることにしました。

一所懸命に生きる一切の生きとし生けるものが愛おしくなります。
食卓に出る肉も愛おしくなります。
人によっては菜食主義者になったりして。
という本ですね。この三行が最も的確かもしれません。それではまた。

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