9月23日
カート・ヴォネガット・ジュニア『スローターハウス5』読了
【ネタバレを含む感想です】
むかし読んでよく分かんなかった本を読み直そうシリーズ。
20年くらい前に初めて読んだ時は、あまりピンとこなかったのだけど、読み終えた当日の夜、明らかに小説内のある場面と関連のある夢を見て、ボロボロ泣きながら目を覚ますという体験をした。それだけ深層心理の深いところまで刺さる小説だったのだろう。
改めて読み返してみると、村上春樹に大きな影響を与えた独特な文体がちょっとしつこく感じるところもあるものの、作者自身のドレスデンでの苛烈な体験を踏まえながら、虚実を入り混じらせる構成に唸らされる。
ぶつ切りのような短いパラグラフの文章を次々に並べていく文体そのものが、主人公ビリー・ピルグリムの痙攣的時間旅行の感覚を表しているようでもある。
軽妙かつ特異な文体で、飄々としながらも人間の愚かさ、惨めさ、滑稽さと、その奥にかすかに見え隠れするちいさな希望の光を、淡々と描き続ける筆致は、小説よりもアフォリズム集のようにも感じられる。