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非正規教員11万人で成り立つ学校~『教員不足クライシス』を読む~

けい先生です。

山﨑洋介さん他による共著『教員不足クライシス』(旬報社,2023)は、教員不足の根本原因を、豊富なデータと分析で明らかにした注目すべき書籍です。ここでは、学校を支えている非正規教職員の実態について勉強してみたいと思います。

『教員不足クライシス』P.149、美しい右肩上がりの非正規数・非正規率

 少子化により教員定数全体が「自然減」となる中、非正規教員数は、2007年の6万3949人から2021年には11万6833人へと約1.8倍に増えている。非正規教員率も増加傾向で、政策的非正規率は2007年度の7.3%から2021年度の13.9%に6.6ポイント増えている
 なお、「政策的非正規率」とは、産・育休代替を除いた人数で計算した非正規教員率である。(中略)「政策的」の用語は、本来なら正規採用すべき教員を自治体が意図的、政策的に非正規任用しているという意味で使用している。

『教員不足クライシス』P148より引用、太字強調けい先生

なぜ、自治体が「意図的、政策的」に非正規任用を推し進めているのでしょうか。

短期間または短時間の雇用形態である非正規職員を、正規で雇えばよいのではないかという疑問が湧きます。また、文科省の調査では、全国に100万人以上のペーパーティーチャーが存在します。この方々を必要なだけ雇えばよいような気もしてきます。

勘のいい方はそろそろ分かってきたかもしれませんが、要は「お金(人件費)」の問題です

臨時的任用の雇用形態

非正規教員の中で一番多い任用形態は、臨時的任用(産・育休、配偶者同行休業代替以外)で、山﨑洋介氏によると2007年度の3万9345人から2021年には4万9813人へと約1.3倍に増えています。

学校関係者でないとイメージしづらいところですが、「臨時的」と名が付いているだけで、業務内容はほぼ正規教員と同じです。

やや難しい言い方ですが、地公法は、恒常的で本格的な業務は、常勤の正規職員を就けることを予定しています。そのため、臨時的な任用が許される条件は、次の3つに限定するとされます。

  • 緊急のとき

  • 臨時の職に関するとき

  • 任用候補者名簿がないとき

しかも、任用は6ヵ月までで1回のみ更新可とされています。ここらで、実際にご経験のある方は、「あれ?」と思われたはずです。

実際には、多くの自治体が正規とほぼ同様の仕事をさせ、任用期限が終了すれば雇止めしやすい都合のよい教員として、臨時的任用を長年にわたり継続する運用を多用し続けている。

『教員不足クライシス』P.151

山﨑氏の指摘するように、このような「脱法的」な臨時的任用が多用されてきた最大の理由は、自治体の教員給与費負担の抑制・削減にあります。

筆者が2012年度の大阪府の給料表により、大卒22歳から正規教諭として60歳定年まで働いた場合と、臨時的任用で60歳まで連続任用されて働いた場合の給与月額の合計試算を比較してみたところ、格差は3,150万円となった。この資産が期末勤勉手当や退職手当などを含まず、正規教員が昇格して昇給する可能性や、臨時的任用が切れずに毎年任用される保証がないことなどを考慮すれば、実際の生涯賃金格差はさらに大きなものとなる。

『教員不足クライシス』P151

自治体にしてみれば、正規採用をせずに臨時的任用をし続ければ、かなりの予算を抑制・削減することが可能なのです。

まとめ 国が自治体負担を拡大させている

非正規の先生方の処遇改善については、各都道府県の教職員組合が重要課題として交渉にとりくんでいるところです。富山でも、全国的に遅れているものの、やっと臨時的任用教員の給与上限撤廃に向けて動き出すことが決定しました。

しかしこの問題の根本は、予算の抑制・削減、さらには「雇用の調整弁」として、自治体が非正規職員を都合よく使い倒してきた「非正規依存」の体質にあります。さらに重要なのは、本来教職員定数の確保に責任を負うべき国が、十分な教育予算を自治体に配分せず、自治体負担を拡大させているということです。この構造については、別に書く必要があります。

非正規教職員の諸問題は、教員の専門職性の否定や、教職員未配置の惨状とともに、子どもたちの学習権を保障する上で、重大な問題を持っています。この問題については、これからも取り上げていきたいと思っています。


けい先生は、これからも無料で記事を公開し続けます。