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若い「せんせい」のみなさんへ

けい先生です。この記事は、教育系雑誌「クレスコ」に2023年の春、私が寄稿した原稿を修正したものになります。これから先生になる方々に向けて書いた文章です。

1.けっして気負わないこと

 若い「せんせい」のみなさんへ。日々のお仕事、本当にお疲れ様です。そして、教育の問題が大きくクローズアップされている今、教職を選んでくださったことに、心より感謝します。みなさんのその思いは、きっと今の状況を変える力になります。

ただし、けっして気負わず、できるだけ自然体でいてみてください。普段から厳しい先生もいれば、私のようにいつもどこか抜けている先生もいて、みんなそれぞれです。そして、いろいろな先生との出会いの中で、生徒は自分で成長していくものです

2.いろんな先生がいていい

私は22年度から地方教職員組合の役員として、一時的に学校現場を離れています。前年度は、県内の総合学科高校で国語を教えていました。3月の末ごろに授業で受け持った一人の生徒から、手書きのお手紙をもらいました。そこには、几帳面な字でこのように書かれていました。「学校に来るのが嫌だった時期も先生の話を聞くのが楽しくて、学校で笑えている自分に気が付けて本当によかったです」。

いろいろな思いを抱えていたのでしょう。ありがたく思うと同時に、後悔もしました。なぜなら、私はそれまでこの生徒の苦しみに気づくことができなかったからです。自分に余裕があり、他の先生と情報共有をしていれば接し方も変わっていたはずです。しかし一方で、この生徒は「自己治療」できたのだな、えらいな、とも思いました。その過程の中に、私の存在が少しでも関わっていたことを、うれしく感じます。

若いみなさんは、このエピソードを読んでどのように感じましたか。「こんないいかげんではだめだ。子どもたちをよく観察して、丁寧に指導しないといけない!」と思ったかもしれません。もちろん、しっかり者の先生がいるから学校は回っていきます。けれども、厳しい先生ばかりでは、学校はただ息苦しい場でしかありません。みなさんがそこにいて、ニコニコとしているだけで、気が楽になる生徒がいるのだということを、頭の片隅には置いておいてもよいように思います。

3.定時制での忘れられない生徒

 もう一人、初任の頃に出会った生徒の話をします。私は初任で定時制・通信制高校に赴任し、6名の生徒の担任になりました。

定時制高校には様々な成育歴、特性を持った生徒が集まっていました。髪型、服装は自由、許可をもらえばアルバイトもできます。元気のよい子もいれば、反対に繊細で大きな声を出す先生が嫌いな子もいます。その中に、今からお話しする忘れられない生徒がいました。非常に賢い子で、「世の中には自動車の駐車をソフトにする人間とできない人間の2種類がいる」と含蓄に富んだ言葉を残しています。その生徒はアルバイト先でトラブルを起こし、家庭と話し合った結果、進路変更を選択しました。しかし、どうするあてもありません。家庭的には恵まれない子で、「家にはいたくない」と言っていました。幸いなことに、以前働いていた別のアルバイト先のご夫婦が、18歳になるまで養育することになりました。一度、その飲食店に訪問したことがあります。生徒はうって変わっていつもの爽やかな笑顔で働いていました。奥さんがその子の境遇について涙をうかべて話したのを思い出します。帰り際に、「また来てください」とお店のポイントカードを持ってきて、私は「また来るよ」とその子に言って受け取りました。しかしそれ以後、そのお店には足を運びませんでした。表情や働き方を見て、これなら大丈夫と確信したためでもあります。ですがそれ以上に「自分がしっかりしていれば退学にならなかった」との思いがあったためです。「教育」ということばを、私たちは普段何気なく使っています。しかし本当は、育てられ、救われているのは、私たち自身なのではないでしょうか

4.さいごに~プライベートを大切に

若い先生方には、プライベートの時間を意識的に作ってほしいです。一日は24時間。しっかりと生活をして、残った時間で仕事をするしかありません。いま、私は翻訳サービスを使ってSNSでウクライナやブルガリア、アメリカなどの方々とお話しています。英語を使わないとやりとりできないので、語学とともにウクライナの歴史の勉強も始めました。様々な人との出会いが、みなさんを支え、成長させてくれます。最後に、大先輩の言葉を贈ります。「知識の切り売りをするな」「教員は話がうまくなければならない」「肩のちからを抜け」。子どもたちの成長と発達を支援する大変な仕事ですが、「肩のちからを抜いて」ともに頑張っていきましょう。


けい先生はこれからもすべての記事を無料で公開し続けます。




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