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愛おしい日常と愛おしい人間〜映画「窓辺にて」感想〜

映画好きを名乗るには、答えられなきゃいけない気がする質問、「好きな映画監督は?」今ならパッと、今泉力哉と答えられることが嬉しい。

今泉力哉作品の中では、大それた出来事は起こらない。むしろ、その何気なさやなんてことのない会話や実人生の日常の延長線のよう。だからこそ、映画と現実との境目が曖昧になるくらい、映画の中の出来事が自分の人生の経験として数えたくなるほど、愛おしく、大切に思える。

今回の「窓辺にて」を観ても、僕が一番に感じたのは、何気ない日常や人との関わりの中に溢れている愛おしさだ。映画を観ることで、自分の生活の一コマ一コマが、なんだか愛おしく感じられるって、なんて素敵だろう。
喫茶店での会話、フルーツパフェ、ラブホテルでのやりとり、初めてやるパチンコ。僕も追体験したくなった。

自分の感情の起伏のなさが怖くなると言っていた主人公の茂巳だけど、僕は物事や人との関わり方がフラットで正直で嘘がない彼の佇まいが、本当に好きだなと思った。自分もこうなれたらと思うほどに。

そして、創作についての映画でもあった。授賞式での記者からの質問に対して、全部を小説の中に書くわけじゃないし、言葉にするとなんか違ってくると言った留亜。僕はその気持ちにすごく共感した。今だって、この映画を観て感じたことを書きたいのに全然文章になってないし、既に心で感じたことの純度がどんどん失われている気がする。

さまざまな考えを持って、さまざまな行動を起こす人がいるが、そのひとりひとりをジャッジしない姿勢も今泉作品らしいと思った。悪いことと分かっていても浮気してしまう人、浮気されてもショックを受けない人、浮気されたのに許してしまう人。これが正解!みたいな押し付けもなく、それぞれがそれぞれの考えで分かり合うこともないまま、事態は収束に向かっていく。でもそれがいい。

自分と異なった考えの人とも、喫茶店で向かい合って、コーヒーとフルーツパフェを片手に、なるほど、そういう考え方もあるのか、なんて話を聞いてみたくなるような、そんな映画。そんな風に思えたら、日常が、周りの人が愛おしく感じられるような気がするのだ。

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