アイロニーフィクション

20▲▲年3月30日―――――――――――――私と先生は出会った。

この春に合わせて新調したであろうスーツを身にまとった若者たちがぞろぞろと教室に入ってくる。
みんな着られてんなぁ…我ながらパンツスーツが似合う。(と当時から自負していた。)
教室に入ってくる人たちを見ながらそんなことを考えていた。
その時、隣の女の子に声を掛けられた。

「ごめん。ペン借してくれない?」
「あ、どうぞ」
「ありがとう~」
ちょっと訛っている黒髪ぱっつんの女の子。どこの出身だろう。関西ではなさそう。と私は思った。思えばこれが社会人になってからも続く出会いのはじまりなのだから面白い。

オリエンテーションがはじまった。そう簡単には静かにならない。
ここは関東近郊にある私立の大学。1学年250名程度の小規模な大学だ。
偏差値でいうと世の中的には「Fラン大学」というやつだ。
入学前にやらされた課題では47都道府県を調べさせられた気がする。
おかげで「指宿」は読めるようになったっけ。

大学ではあるが、なんとクラス制度があった。1年生の間は1クラス10名程度につき1人教員がつき面倒をみてくれる。というもの。私はB1クラスだった。各アルファベット3まである。ちなみに私の年は学年で一番勉強ができるクラスがBクラスだった。
入学前のテストでの点数によって振り分けられていて、教員たちはどのクラスが1番のクラスかわかっていて相手をしている。というわけだ。
この隠れ設定をしれっと私に暴露してきた担任教師。それが先生である。

5月の個人面談で1番最初に言われた言葉。「編入するか?」だった。
今思い出してもへんてこで笑える。
だって先生たちは学年の生徒の成績や出身校を知っている。
数少ない優秀な学生を自分のゼミに引き入れたいからだ。

自慢でもなんでもないが、私の名前と存在は学校中のほとんどの大人が知っていた。
普通ならその大学にはいかないような進学校の高校から進学してきて、入学前のテストは学年1位の学費全額免除の特待生だったのだから無理もない。
今、文章にしてみて改めて思った。そりゃそうだ。
私がその大学に進んだ理由は面白くもなんともないので割愛するが、
案の定、入学1か月で私は1度大学生活を逃げだした。
京都にある大学に通う友達の家に転がり込んで、その大学の授業までちゃっかりうけたりなんかしていた。これが普通の大きい大学か!とおもったりなんかしたもんだ。

そんな逃避中に、「元気?面談しましょう」とLINEをくれたのが先生だった。
これがすべての始まりだった。もう当時何を思ったかは覚えていないけれど、
当時の私はきっと誰かにわかってほしかったんじゃないかと思う。

高校時代は本当に勉強が得意ではなく、国語は調子が良ければそこそこだったが、死ぬ気で頑張って英語は学年の真ん中、総合順位はいつだって下から15番以内だったと思う。
基本的に私には勉強は向いていない。そう思っていたというのに、何かを学ぶ。という姿勢がこんなにもない人種がこんなにもたくさんいるという現実と、それに慣れてしまった教授陣の対応と授業内容があまりにも当時の私の心を乱した。

その不安をその環境の中の誰かにわかってほしかったのだと思う。
だからつい、色々と話してしまった気がする。頼ってしまった気がする。
そのたった1人の理解者がいれば、ここで私は頑張れるのではないか。そう思ったんだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?