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成瀬は天下を取りにいく読了(ネタバレ有り)

成瀬は天下を取りにいく(作者 宮島未奈)を読み終えました。人生で久しぶりの読書感想文ですね

主人公である成瀬にまつわる話、ではあるのですが、視点は成瀬ではなく、その周りから見える、成瀬の話。最初の視点は成瀬と仲良く接している友人、島崎の視点で語られます。
「一般人」から見える、成瀬の特異な性格や、それを好ましく思う描写が多く、また不思議な魅力を持つ成瀬に付き合い隣に並ぶ島崎もつられて中学生とは思えない体験を行なっているように思った。
島崎視点は2章まで続き、3章からまた別の人の視点で始まる。

1章の時の出来事はそのままに、年齢も性別も異なる人物による視点が始まる。
3章の時点では全く接点のない人物の話として始まるが、1章の時に描写されていた場面が散見され、読者としてすごく嬉しくなる表現が多い。

4章に入ると、今度は高校生になった成瀬と同じクラスになった、成瀬との接点をできるだけ持ちたくないと考えている女子生徒の視点。
ここで初めて、うっすら思っていた成瀬の特異な性格が同級生としていた場合の描写が現れる。
本人は全く気にしていないが、凡人からすると思い付かない、不思議な人物であるとはっきり描写されている様は見事。成瀬の高校生活も充実していそうで何よりである…もちろん、視点となる女子生徒も。

5章では、成瀬に恋心を抱く、遠方から来た男子学生。
部活動の大会で出会い、彼の一方的な一目惚れによるものであるが、その恋心に対しての成瀬の回答が個人的にすごく、成瀬らしい返答で愉快であった。
正直、優秀な人間の恋模様というものは所謂大人な表現として置かれるものか、もしくは完全に排除されるという表現を用いられることが多いが、今回は高校生であるという点と、成瀬の思考回路としてすごくすとんと自分の中の成瀬像にしっくり落ちた。私個人的にはこの章があることで成瀬の人間らしさが形成されていったように感じられる。

最後は、成瀬視点。
自身のルーティーンを元に形成された日常が、島崎のひとことで崩れてしまい、また島崎の言葉で救われる様子が描かれる。
この章で、3章で出てきた接点のなかった男性も成瀬と関係を持っており、作中の時間経過が如実に感じ取られる。

全体的な構造として、このように進んでいく「成瀬は天下を取りにいく」である。
特段大きな事件があるわけではない。ドラマティックな展開があるわけではない。ただ、少し風変わりな女の子の人生を少し見させてもらったような、そんな本であった。
読了後は「面白かったな〜」くらい。良くも悪くも、あっさり読み終えたような感覚であった。
しかし、読了後1週間経った今、すごく続きが読みたい。成瀬が生を全うするまで追わせてほしい。最後まで、せめて成瀬が何かを成し遂げるまで見届けたい。成瀬史を追いたい。そんな感情になっている。奇しくもこの感情は、最初に追った島崎と同じ感情である。もしかしたら、島崎は成瀬の友人という立場でありながら、最も読者に近い感性を持ち合わせている人間であったのではないか。今ではそう思えている。

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