綺世界へのいざない
ヒトは想像の枠を超えた展開を期待する。旅の舞台は貴方が知るこの世界の何処か。その光景は時に非現実的に映るものだ。
科学 と 魔術的リアル
「科学」とは、貴方にとってどのようなものだろう。
最先端とか話題になっているとか、よくは分からないけれど何やら凄そうとか。そういった漠然としたイメージに過ぎないものだろうか。あるいは小難しい、理屈っぽいと、近寄り難さを感じる人もあるかも知れない。
奇妙な存在
誰も気にしていないようなことを気に掛け、それに執心しているように見えたり、何かをブツブツ唱えながら線を引いて、訳のわからない図を書き上げたかと思ったら奇妙な仕掛けを組み立てたりする。
しまいには、そこで起こることを観察しては一喜一憂し……
つまり言葉にするのは非常に難しいことだが、振る舞いを見て「変人奇人に見える」と感じたならば、ソイツはもしかすると『科学者』かも知れない。けれど貴方が見ている世界とソイツが視ている世界は、紛れもなく「同じ世界」であって、そこでの出来事を「眺める眼の解像度」が違うに過ぎない。
言い換えれば、ソイツはどうにも詳細な構造や原理に興味を唆らるが故に、物事を緻密に因数分解したりして、そこにある共通項や法則性を宝探しの如く求めてしまうのだ。
圧倒的現実
言うなれば、『科学』とは「まだ多くの人が見出していない、この世界の真の姿を観る技法」のことである。
そして世の多くの人が共有している感覚と、ある現象を眺めている自分の心象との差分を理解している者を『科学者』と呼ぶ。
ならばその差分を言語的バッファーで満たし、緩衝領域を生み出す能力を「科学の技法」と称しても差し支えないだろう。
かのバッファーに浸る際に見える景色は、時に驚異と畏怖に満ちており、両者の解像度が近づく時、世界の在り様は確実に深淵へと進歩する。
これを文明と言い、そこには圧倒的な現実の光景がある。
SF と Magic Realism
マジックリアリズムが「今ここにある現実の出来事(あるいは過去のとある地点)」であるのに対し、SFは「今に紐づく未来への系譜」として予期し得る出来事である。
2つの技法
両者の共通項は、多くの人には見えていない光景について物語ることだ。
現実の事象をあたかも魔術のように描写して驚嘆を掻き立てるマジックリアリズムに対し、SFはまだ見ぬ光景を予期するものであり推測と想像の域を出ない。
だが前者は今ここに在る現実を色鮮やかな濃密さを以て仕立て上げ、後者は未来の在り方について考えるきっかけや視座を与えてくれる。
3つの科学
『科学』とだけ言うと、幾らかの人は理科や数学を想起するかも知れない。けれど実際は自然現象だけでなく社会現象についても観察や実験を行って、そこにある法則性や原理を解明するものだ。
科学とは自然科学、人文科学、社会科学の三位一体であり、これらは決して平面的でなく、立体的かつ多次元に繋がり展開される。
ゆえに一息に語ることは愚か、一口に学ぶことさえ到底出来はしない。
だからこそ細分化された学問領域が存在し、増大しがちなエントロピー*を各領域コミュニティにおいて制御しつつ、エンタルピー**の増強を図る。
科学する粒子が集まり切磋琢磨するエネルギーが化学反応を起こす、その反応場を学会とか研究会などと呼ぶわけだ。
そこでは誰もがまだ語られていない事象を探し求める。エントロピーが増大し、エンタルピーが飽和的になり収まりきれなくなると、発散した粒子が新たな学問領域へと派生する。
事象の隙間をパズルのように埋めていくことで今後もより一層、三位一体の「科学」の姿がより精細なものとなって具現化するだろう。
そしてエントロピーが不可逆性を持つ以上、隙間風の吹く単純な世界に戻ることも、過去に戻ることも出来はしない。
エンタルピー* Enthalpy
:(熱力学)空気が持つ熱量(エネルギー)=気体の温度を上げる内部エネルギー + 膨張・収縮するための流動エネルギーエントロピー** Entropy
:(熱力学)断熱条件下での不可逆性を表す指標
:(統計力学)系の微視的な「乱雑さ」「無秩序の度合い」
*宇宙の大原則:秩序あるものは秩序が無くなる方向にしか動かない
見立ての世界
誰かにとっては平凡な日常のワンシーンでも、旅の中に身を置く者にとっては変わった光景に視えることがある。いつもと違った風に濾過されて些末な差異が浮き彫りになると、そこに在るリアルが虚構めいた非日常のように思えてしまうものだ。
それが旅の効能である。
かつての私は、自転車に跨がれば子供心にどこまでも行けると思っていた。そしていつしか、もっと遙か遠くへ連れ出してくれる存在を知った。
▷Draco Prostratus|地を這う竜
その竜は化石燃料や電気を喰らいヒトを運ぶ。ガタゴトと鳴きながら竜路に沿って長い身体を這わせ、驛で待つヒトビトを飲み込んでは放流する。雨の日も風の日も、早朝から深夜まで堂々たる唸りをあげて各々の縄張りを行き来する。
Draco Prostratusと健全に付き合うためには、その距離感に節度が必要だ。
竜にだってプライベート・スペースがあるし、急には止まれない。邪魔をして彼岸への道が開かれてしまったら、竜とて良い気はしないだろう。
だから近づく予兆があれば竜路に立ち入ってはいけない。竜が完全に停止し腹を開くまで、プラットホームのイエローラインで待つのが礼儀だ。
もし、いつもと同じ電竜に乗っているのに目に映る世界が違って視えたら、それは貴方が旅へと誘われている証だ。
竜のネットワークがさらに遠くへ、悠久の旅を可能にする。
その先には、一体何が待っているのだろう。
本当の意味でそれを知ることができるのは、その風を身に浴びる者だけだ。
各地に生息する竜脈を巡り、ヒトはゆく。遠く、その道が続く限り。
綺世界にて
Magic Realismとは非現実的な出来事や現象を "ありきたりの風景" として描写する手法のことである。元はラテンアメリカに起源を持つ美術技法であり、のちに文学世界でも発展した。
規則にとらわれず自由な発想を育む風土が生み出した表現技法は、豊かな物語性や幻想性を織りなす "非現実的な日常" を描くことを可能にする一方で、不思議な世界を "奇妙なもの" として楽しむ奇譚やファンタジーとは一線を画すものである。
そして、この世界に在って現実でも虚構でもない、もう一つの領域。
それを『綺世界』と言う。
現実と虚構を行き来することで浮かび上がる緩衝領域。つまり第3の領域で展開されるバッファーめいた現象を捉えたものが『綺世界』の本質である。
『綺世界』は芸術や文学の世界において『マジックリアリズム』として親しまれている概念に近いものの、同一ではない。
その違いは物語の基盤にある。
『マジックリアリズム』の基盤が創作であるのに対し、『綺世界』の基盤はあくまでこの世界における現実の物語りだ。
荒野の歩狼、かく語りき
人は私のことを『荒野の歩狼』と呼ぶ。
綺世 が幼少の頃に家族だった、なんの血統でもない三毛の混じりモノ。それが「ポロ」という犬だった。
逝くあてのない放浪の中で私が "綺世" を見つけた時、荒野にある私と同じ匂いがした。アレは人間社会に居ながら、その実どこにも属してはいない。
誰に飼われることもなく、 "ありのままの世界の姿" を只ひたすら追い求めている野良のアルケミスト。旅という濾過膜で日常のエッセンスを洗い流し、残渣の構成要素を分解しながら、その面白さの核を見出す「遊び」を生業としている。
現実と虚構の二項対立を破壊したかと思えば、かつて空想した未来が実際にやってくるのを目の当たりにして、「そら来た、やっぱりな」とほくそ笑んでいるような奴だ。
しかしながら "綺世" とは何者なのか、一向に分からない。
だから多くの者は注目したりしない。
"綺世" が圧倒的な現実を語り、来たる未来を予言したとしても、この世界にとっては取るに足りない戯言でしかない。
たとえ他者から気味悪がられたところで 綺世 はものともしないだろうが、私はアレの見ている世界を面白いと感じている。ならばあと何人か、数えられるくらいは、同じような輩がいるだろう。
それが綺世界の構成要素の一つでしかない私が、此処でこうして書き綴っている理由だ。
綺世界から物質界に身を置く "綺世" を眺め、遭遇した事象に掻き立てられた "綺世の心象" を観察する。
それはきっと、この "現実世界の写し鏡" になるだろう。
綺世|SF-ProtoTypeWriter|Magic Realist|Homo ludens|
荒野の歩狼|綺世界の構成要素の一つにして語り部
物質と記憶
この世界のあらゆる存在がそうであるように、私もまた生き物としての原型を留めていられる期間を超過した。
エントロピー増大により散逸化して粒子となった後、まだ微粒子を保っていられるうちは、私を構成する粒子と反粒子が対消滅と対生成を繰り返した。
生じた対消滅エネルギーはますます発散へ向かう人間社会の膨張熱に溶け、同時に対生成するためのエネルギーは消費されるようになった。
いつしか私は、物質界へ回帰する粒子と胡乱な反粒子とに分かたれていた。
その反粒子が今ここに在る私、『荒野の歩狼』である。
事象と心象が交錯する旅路|Magic Tourism
ヒトは想像を超える物語を期待する。旅の舞台は貴方が知るこの世界の何処か。垣間見る光景がいかに非現実的に映ったとしても、それは貴方が生きる世界のリアルな姿に他ならない。
だが探求に明け暮れる中、貴方が見つけた綺世界は貴方だけのものだ。
Magic RealismとStory of Tourism が交錯するリアルな流離譚。
"綺世界探訪 " へようこそ。
Described by 荒野の歩狼
Photography by 綺世
initial draft 2024.07.20
rewrite 2024.07.28
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