見出し画像

いつも、今の自分にちょうどいい

私の元職場にはどうしてだか天然素材系キャラクターが多かった。

ここで言う「天然素材系」とは
良くも悪くもピュアでオリジナリティが高く
利害関係の忖度も一切ない。
物事やコミュニケーションにおいても
整合性には頓着がなく、独自性を発揮する。
一般的傾向でくくれない「ズレて」いる人のこと。
良く言えば常識に捉われない、自分軸で自然体の人。
俗に「天然ボケ」

※あくまで私個人の価値観です。

あるときスタッフ8人のうち3人が天然ボケ判定で陽性反応。
1人がグレーゾーンだった。 (※私調べ)

半数が天然系スタッフで構成されてしまうと常に「普通とは何だ」「常識とは」とか引いてはダイバーシティについて、否が応でも考えさせられるという意味で私は日々、哲学という名の職場にいるようだった。

「落ち着いて、もう一回言ってみて?」
「何がしたかったの?」
「どうしたらそうなったの?」
「私はあなたに何て言えばいいのかな?」
「私はどう受け止めたらいいのかな?」

彼らに遣う私の「あるある」フレーズ

意味がわからなくて「何のこと?」と、こちらが聞き直すと「えっ?何ですか?」と、聞き返される。
意味が通じていないと気づいてもらえないので、こちらの聞き返しが理解できない。
そんなやりとりが頻発する。

ときには「豆腐の角で頭ぶつけたの⁉」と、彼らのじれったさにキレて、パワハラとご指摘を受けても仕方のないことを叫んでしまったこともある。

パワハラといわれてもいい、それでもどうしても言いたいと強く思った。

彼らの幾つかエピソードをあげると

「察しをつける」が苦手なようで
たとえば「自分の身体の幅」をいつも見誤って
私の席の後ろにある複合機を使う際、
私の後ろを通る際に
私にぶつからずには通れない。
「そこの壁の棚にあるファイルを取って」と頼むと、
「壁の棚」→本棚、とはならず
タペストリーをめくって「壁」を不思議そうに眺めている。など

大柄の学生バイト(A君)のケース

レジアナウンスの指導を受け、
その通り、慎重に正確に喋ろうとするあまり
声が半音うわずってしまい、
もとの声に戻せなくなってその日はずっと裏声のまま喋っていた。

真面目過ぎる学生バイト(Bちゃん)のケース


そんな中、群を抜く才を持ったスタッフがいる。

自分の行動に自分でウケて
きゃあきゃあ笑う朗らかな女性(50代)

賑やか過ぎるのと、何にウケているのか
理解できず、周りは引いている。

ツボにハマってしまうと笑いが止まらなくて
そのまま移動するから

その声が段々近づいて来るのが聞こえ、
私たちは「あぁ、彼女が来た」とわかる。

早番で退勤する際など、
私たちに喋っている途中なのに帰って行く。

声がどんどんフェードアウトして行く。

他愛もないハナシだから
どうでもいいといえばいいのだが、
でも、話し終えてから帰ればいいのに。

そんな彼女があるとき、嬉しそうに
家庭菜園で採れたと言ってきゅうりを
山ほど持って来た。

「きゅうり、食べて下さい♪」
差し出されたビニール袋に見える
緑色の丸いもの。

スーパーにあるような
まっすぐなきゅうりでなくても
全然、違和感はないし、
きゅうりが曲がって成ることは
私たちだって知っている。

「し」のカタチのきゅうりは良く見るが
「の」みたいなきゅうりは初めて見た。

緑色の、
良く言えばシャキッとしたドーナッツ。

「何でこうなるの?」
まん丸く育つプロセスについて尋ねたら

「どうなるんですか?」
目を丸くして逆に聞き返した。

こういうふうに育てたあなたが
どうして私に尋ねるんだろう?


「きゅうりはきゅうりになりますけど?」

彼女のきょとんとした表情は
そういうことだったのだと思う、たぶん。


また、あるときは
たくさん採れた大根を漬けたと言って
「おすそ分けです~~」
と、持ってきたことがある。

丸ごとのたくあん。
つまり「大根を一本」くれた。

よほど良く育ったのだろう。
漬けて縮んでも腕ほどの大きさの

くちなしの実で
キレイな黄色に染められた立派なたくあん。

「こんなに⁉
どうやって食べたらいいの~?」
ありがたいとはいえ、困惑して言うと

「そのまま食べたらいいじゃないですかぁ
食べやすい大きさに切って~」

会話は成立していない。

わかっていた。
私の日本語がいけないんです。

手作り、保存料無添加。
傷む前に食べ切れる自信はありませんが
貰って帰りました。


そして、その日は事務所が一日中、
たくあんの香りに包まれた。

事務所の中が黄色にさえ見えた。

そこへ
何も知らずに訪れた取引先さんが
「異臭がする」
と、騒ぐのは致し方ないことだった。

匂いを指摘されたものだから
今度は消臭スプレー騒ぎである。

「ごめんなさーい!」と
窓も開けずにシューシューやり始めた。

一心不乱にやるものだから
事務所に霞がかかってしまった。

探知機が反応する前に窓を全開にして、
みんなで小汗をかくほど
事務所内をあおぎまくった

外はちらちらと雪が舞う
春まだ遠い日のことだった。

寒風舞う室内は寒かったが
でも、匂いよりは耐えられた。


またあるときは
だんなさんが取って来たとかなんとかで

「おすそ分けです~♪」と
「タコをぶらさげてきたこともある。

※補足説明
私たちの職場は日常的な場所にはなく、
おそらく一般的には「非日常空間」に分類され
きゅうりさえ
ぶら下げて歩くこともはばかられる環境にあります。

透明のビニール袋から見える
ふにゃっとつぶれた褐色のタコ。
大きな吸盤も見える。

「取れたてだから新鮮ですよ♪」
彼女の満面の笑み。


🐙

やることなすこと、喋ること
すべてが「通念」とか「合理性」から
ほど遠く、そして騒がしい。

彼女はバラ栽培も好きで
口紅もローズピンクを好み、
財布や洋服でも
目が覚めるようなピンクを存分に使う。

私服姿はバブリーマダムだ。

私はいつしか彼女を
「ウルサイヨの薔薇」と名付けて呼んだ。

本人だけ気づいていない。

自分のことだと気づいていない。

ウルサイヨ宮殿、彼女のお気に入りの椅子 ※イメージ

そんな
世界に一つだけの花たちが集う職場。

そこで私は店長であった。

うちは小売業だから
当然、接客抜きでは語れない業務なわけで
彼らに対して
「大丈夫かな?」と不安に思うことは
少なくなかった。

だが、
うちの店では接遇に関するクレームを
もらうことはなかったという謎。
(いらっしゃいませを何度も言い過ぎて
しつこい、と、ご指摘を受けたことはある)

個性的なスタッフたちが
日々、お客様の神経を逆なですることなく
むしろ笑顔を頂いて(失笑も含めて)
よくも無事にこなしてくれているものだと
感心しかない。

でも同時に「接客の適性」とは何なのかと
何度もわからなくなったりしたものの

テクニックやスキル以前に
大切なことがあるらしいと教えてくれたのは
彼らだ。


うちの職場のこのようなエピソードを
知人に話すと
「毎日そんなだと疲れない?」と苦笑いされた。

確かに、会話がかみ合わないときはイラつく。

が、愉快の方が勝る。
ウルサイ薔薇も悪くない。

私は彼らが好きなのだ。

愉快な彼らと過ごせて
どうして疲れることがあるだろう。

私たちはいつも
自分たちにぴったりなものと引き合う。

だから彼らは私たちのところへやって来た。



彼らは私にちょうどいいのだ。

・・・でも、
やっぱりちょっとイラつくな(笑)



実話だと信じてもらえるか
不安ながら・・・

では また。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?