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「時空を超えて出会う魂の旅」特別編~印度支那⑬~

東南アジアのある地。
出家を経て、戒名「慧光」を私は授けられる。
”巨大寺院”に入門。兄弟子「慈恵」と出会う。
「賢彰」率いる兄弟子集団と、波乱に満ちた修行生活を送る。

「慧光殿。”大老尊師”に目通りされるか?」

「はい、慈恵殿。是非とも。
 大老尊師に、拝謁できるとは何とも光栄。

 お願いいたします。」
兄弟子、慈恵からの突然の誘いに、慧光は即、応じた。

巨大寺院に入門する日、
慧光を先導する僧からの第一声が、今でも記憶に残っている。
「我々の大老尊師は、尊い行のため、
 貴殿の入門式には列席できません。
 ご理解賜りますよう。」

そして、入門から2年以上が過ぎた今も、
寺院内で大老尊師に拝謁したことはなかった。
この地が誇る巨大寺院の最高僧に直々に会える。
ただ、そう思うだけで。慧光は高揚した。

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日が改まり、慈恵と共に慧光は、大老尊師のいる棟に歩んでいた。
大老尊師に会える喜びで、慧光は落ち着かなかったが、
慈恵はいつものごとく、無口で取り付くしまもない。

広大な寺院内、足を向けたことも無い棟もある。
そのいくつかを通り、庭園と林を抜け。
寺院の奥まったところに、高い壁が見えてきた。
このような所に壁が・・・?と訝しく思ってほどなく、その下方。
屈んだままであれば辛うじて通り抜けられそうな、小さな扉があった。

硬い表情のまま、慈恵はその扉を潜り抜けた。
戸惑いを感じたが、慧光もそれに倣う。
扉の先は、木々が茂り。そこを更に抜けると、小屋があった。
慈恵は、小屋の外に設置されていた鈴を鳴らし、来意を告げた。

微かに、屋内より鈴の音が聞こえてきた。
事態が把握できず、戸惑ってばかりの慧光を伴い、
慈恵は小屋の横手に行き、御簾がかかっている小さな窓の前に立った。
「大老尊師。慈恵でございます。ご機嫌いかがでしょうか。」
小屋の中から、慈恵の呼びかけに応じる、通る声が聞こえてきた。

慈恵に紹介された後、慧光は、大老尊師に御簾を通したまま挨拶した。
慧光達の話を傾聴した上での、叡智に満ちた言葉。
巨大寺院に入門してから、実に様々なことを経験したが、
全てが浄められるような。そんな対話を交わす時間を過ごした。

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それは、思わぬことであったのか、必然だったのか。
大きなヤモリが、ゆっくりと御簾を潜り抜けていく。
大きく開けたところから、太陽の光が射し、暗い小屋の内部を照らす。
その刹那より、慧光の頭の中は真っ白になった。
垣間見えた大老尊師の姿に、何もかもが消し飛んだのだ。

言葉を詰まらせてしまった慧光に、察するものがあったのだろう。
大老尊師は、自らのことを語った。
「何年経ったことだろう。
   我が、この病と共に在るのは。
 幼い時に得度して、仏の道一筋に生きた人生。
 そのような我がなぜ、業の病を患うのか。
 今は、過去の因によるもの。
 到底、理解しきれるものでなかった。
 生きながら光を失い、心身朽ちてゆき、動く事もままならなくなった。
 移し病のため、我はこの寺院のことで表立てなくなり。
 市井の人に、仏の教えを広めることも、できなくなった。
 我の必然を、ありのまま認める事。
 それぞ仏の導きなのであろう。
 今は、このような我こそ、この病を授かったと会得しておる。」


大老尊師は、言葉を続けた。
「慧光殿よ、巨大寺院の乱れぶりを知っておろう。
 それだけに、我は退位するわけに参らぬ。
 邪に力を明け渡すわけにいかぬからだ。
 これまで、様々な策を講じてきた。
 しかし、ことごとく覆された。狼藉を働く僧の勢いは留まらない。
 我が存命の間に、この忌々しき事態を収めたい。
 次なる策として。隣国の僧院に、査察を依頼することを考えておる。
 ついては、隣国出身の慈恵を使者に立てる予定だ。

次から次へと明かされる、驚くべき事実。
慧光は、眩暈がした。
大老尊師の現況、隣国への査察依頼、隣国出身であった慈恵。

「慧光殿。
 我はひと月以内に、出立する。
 実はその前に、一仕事、貴殿に協力いただきたいことがあるのだ。
 大老尊師の身の回りの世話を依頼していた下男が、二日前。
 何者かによって、消されてしまった。
 下男亡き今、大老尊師に身の危険がさらに及ぶやもしれぬ。
 至急、大老尊師に仕えることができる下男を、共に探してほしい。
 条件は、大老尊師のことを内密にしたまま、
 この小屋に住み込めるよう係累が無い、信頼できる人物であることだ。
 勿論、厚遇を約束する。」

慈恵からの言葉に、慧光は、ただ頷くばかりだった。

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