「時空を超えて出会う魂の旅」特別編~印度支那⑮~
東南アジアのある地。
出家を経て、戒名「慧光」を私は授けられる。
”巨大寺院”に入門。
「賢彰」率いる兄弟子集団と、波乱に満ちた修行生活を送る。
兄弟子「慈恵」からの依頼で、大老尊師付きの下男を探す。
”古代仏典の学習会”会合中、賢彰達は乗り込んできた。
「慧光殿。知っていること全て、話してもらおう。」
以前の慧光は賢彰の恫喝に悲しく、自分が削られる恐ろしさに苦しんだ。
しかしその経験より、自分は誰からも削られることは無い存在だと知った。
邪に燃える、弱い人間の持つ瞳を見据えながら、
鷹揚に慧光は、手元にあった経典を示しながら応えた。
「これはこれは、賢彰殿。
この経典について、知っていること全てでよろしいでしょうか。」
「ふん、そんなもの、どうでもよいわ。慈恵殿は何処へ?」
「賢彰殿。
我は、慈恵殿ではございません。
慈恵殿の居所は、慈恵殿におたずねを。」
「屁理屈を。お前たちは何を企んでおるのだ?」
「”私共”の企み・・・・?
この巨大寺院に“企み”など。一体何処に、存在しますやら。
我々は皆、仏の道一筋生きる僧でございますゆえ。」
慧光を苦々しく睨みつけた賢彰は、怒りにさらに声を荒げた。
「答えよ。貴殿は、なぜ頻繁に外出をしておる。寺院外に何が?」
「寺院内も、寺院外も。隔てなく、同じ世であります。
仏の導きに従い、我は生きるのみ。」
邪の気を強く残し、憤怒の表情のまま、賢彰達は立ち去った。
賢彰の詰問・恫喝を受けたその日。
さすがに、心身に疲労を感じた。
下男探しを急がないといけない。しかし、人の多い街に出る気力は無い。
それでも一刻でも早く、候補となる人間に出会いたい。
とりあえず身支度をして、慧光は外出した。
自ずと人を避けていたのだろう。
気が付くと慧光は、名も知らぬ、廃墟の寺院の庭園にいた。
人の手の入っていない庭園は、伸び伸びと野草が茂り、
木々は天に枝を向けていた。
手入れの行き届いた巨大寺院の庭園の雅な美しさも好きだが、
あるがままの自然さをもつ、その庭園に誘われ、慧光は、暫し眺めていた。
慧光は日陰を求め、廃墟寺院の建物近くに行った。
中の仏像は別所に移されたようだが、仏教画が残されたままだった。
人に見られることも無くなったその絵。
朽ちていたが、褪せることなく輝く仏顔に見入っていた。
「やあ、こんにちは。」
慧光は、その人懐っこい声に驚いた。
ここは、無人の廃墟。誰だろう。この絵の・・・・?
暗い建物内の奥から、この廃墟に宿借りしていると思われる、
笑顔の浮浪少年が現れた。
その明るい瞳に引き込まれて、慧光も笑顔で答えた。
「やあ、こんにちは。すまないね、君がここに暮らしているのに。
気付かないで勝手に入ってしまっていたよ。」
「いいって、いいって。ここは、みんなのものさ。
ええっと、ねえさん・・・あれ、にいさんか。涼んでいってよ。」
慧光は、ほんの少し動揺した。
法衣を着ていても、その容姿から、女性と思われることもあるからだ。
その少年は身なりが粗末で、痩せており。
衣の間より、無数の傷跡が見えた。
また、左足と右腕に、けがが原因とみられる腫れと不具がある。
そして、瞳が澄んでいた。
「へえ、にいさん。それ、おいしそうだな。」
慧光は喜捨である新鮮な果物を手にしていた。
「ああ、これね。今、いただいたばかりなんだ。
ちょうどよかった。一緒に食べよう。」
芳香放つ果実を手に、半分に分ける。
少年の眼の輝きのように、瑞々しい断面が現れた。
大きめのものを少年に差し出すと、夢中で食べだした。
もしかしたら、しばらく何も食べていなかったと思われる。
慧光はそう察し、もう半分も少年に渡し、持っていたもの全てを勧めた。
「気持ちよく、食べるんだなあ。君の名前は?」
「空っぽ」
「えっ、『空っぽ』⁈」
「うん、そう。『空っぽ』って呼ばれてる。」
「君のお父さんやお母さんにか?」
「う~ん、いないから、わからない。
ねえ、にいさんの名前は?」
「慧光だよ。」
「難しい名前だなあ。慧・・・??」
「そうか。じゃ、『光』でいいよ。」
「ああ、それなら覚えられるかな、『光にいさん』ね。」
それからもしばらく、二人は楽しく話をした。
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