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「時空を超えて出会う魂の旅」特別編~印度支那⑤~

東南アジアのある地。
出家を経て、戒名「慧光」を私は授けられた。
幼馴染の蓮花、弟の剛充と共に成長していく。

思索を優しく、父に遮られた。
「慧光、お客人のお越しだ。ご挨拶なさい。」
父は継母を伴い、後方に幼馴染の蓮花、その両親がいた。

「これはこれは、おじさま、おばさま。蓮花様。
 大変失礼いたしました。ごゆっくり、お寛ぎください。」

「さあ、慧光。こちらへ。お前も、加われ。」

「父上、とんでもございません。我は気が利きませんから・・・。」


その様子を、柔和な笑顔で見守っていた蓮花の父が、言葉をかけた。
「慧光殿。お会いする度、ご立派になられておりますな。
 来月はいよいよ、15歳におなりで。なんともめでたいことだ。」

さも、偶然を装うかのように、慧光の父は言葉を継ぐ。
「おお、そうだ、そうだ。その慧光の祝いについて、相談が。
 慧光、お前も同席せよ。お前に関する話なのだからな。」

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慧光は既に、話の内容を察していた。
自分の15歳の誕生日に合わせ、再び出家するため剃髪式も行うこと。
ほどなく、日を改めて蓮花の家に結納を収め、婚礼をあげる。
そして結婚後すぐ、ひと月ほど出家させる取り計らいであるのだ。

この地では、人生の節目に男子は出家して家族の恩と感謝を祈り、
徳を積む風習がある。
女性は出家できないため、男子が結婚前に出家したら母親が。
結婚後に出家したら妻が、その徳の恩恵を受けるとされる。
この結婚直後の出家は、新婚の男性が習慣とすることだった。

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以前、慧光は父に、出家を希望することを打ち明けた。
勿論、第一の理由は、仏の教えに深く帰依したいからである。
第二の理由は、世俗を渡りながら、一族を繁栄させる家長となることに
強い重圧を抱えることが予想されるからである。

さらに、誰にも明かすことが出来ない、非常に大きな理由があった。
妻となる蓮花と、慧光は目合うことは出来ない。
父も知らない、身体的・心情的な理由があるからだ。
この事実は慧光自身、未だ認めきれるものでなかったため、
自らにのみ秘めて、誰にも明かすことはなかった。

慧光は、非常に困惑していた。
蓮花に不平など、全くない。
共に育ち、これまでもずっと仲良くしてきた。
蓮花は、人間として、女性としても魅力的であった。
結婚を拒絶することは説明がつかないだけに、苦悩も深い。

この時代、家同士の取り決めは絶対であった。
家族、社会、文化。その軛は堅固なもの。
慧光の希望が聞き入れられる可能性は、無かった。

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苦悩にあるまま、慧光は誕生日と剃髪式を迎えた。
屋敷での盛大な祝宴に、村中の人々が出席した。

賑やかな宴席の上座に座る慧光の父と継母・蓮花の父母は、
次なる慧光と蓮花の婚礼の話題で、周囲に憚りもせず盛り上がっていた。
「早く、孫を見たいものだ。お前たちは仲が良いから、すぐだろう。」
笑顔の双方家族からこう言われ、慧光は絶望的な気持ちになった。

慧光は、屋敷の中の祝いの空気にいたたまれなく、庭に出た。
そこを、薄汚れた衣の僧が、外に出ていくのに出くわした。
突然、その僧は慧光に、ある大寺院の名前を告げ、立ち去った。
その寺院は、慧光が10年ほど前、短期修行した地元の寺でない。
遙か遠方にある寺院だった。

これは天啓だ。
慧光は、すぐに閃いた。
満月が出ていた。行くのであれば、今夜だ。

もう、迷いがなかった。

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