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"不具合な空"の下で

故郷は、ここより半日早く、1月17日を迎えている。
二十数年前、そこで私は、大きな地震を経験した。

早朝、何によるかわからないもので、目が覚める。
家全体が軋む大きな音、何やら鋭い音が、耳をつんざいてくる。
スローモーションで、部屋中の物が崩れていくのが見える。
そして、天井に届いていきそうな、猛烈な揺さぶり。

どうやら、自分は地震に見舞われているようだと気づく。
ピンチに遭遇しているらしいのに、体は全然動かない。
ゆるゆる、頭は動きだした。
地震だったら、テーブルの下とかに、もぐるんだっけ・・?
ぼんやり考えが浮かんだところに、
「動くな」
聞こえない声が、ベッドから出ようとする私を止めた。
正直、私はどうしていいものか、判断ついていなかったのだ。
半ばホッとして、そのまま、おさまっていた。

どのくらい、揺れていたのかわからない。
揺れが止まった。
そうっと起き上がると、じわじわ色々なことがわかってきた。
私がベッドから起き上がっていたら、到底無傷ではいられなかったのだ。
無残に足元に倒れこんている、家具の倒壊を受けていたであろうこと。
飛び散っているガラスの破片を浴びたり、踏んでいたであろうこと。
当時最新だった、箱型PCの直撃を免れなかったであろうこと。
心が、圧倒された。
自分が生きていることに気づいた喜びだったのか。
生かされたことに感謝する気持ちだったのか。
予期せぬ天災に遭遇してしまった、高揚感だったのか。
自分の心が何かで占拠されたまま、いつものように空を見上げようとした。

ひと手間かけると、ベランダに出ることができた。
でも、「空」は、どこにいっちゃったんだろう。
あんな空は、それまで見たことがない。
あの日以降も、見たことがない。
空は空なんだけど。その空は、形容し難い空、だったのだ。
「不具合な空」
文法や語法だかが正しくないであろうが、そんな空だった。
灰色気味のところに、朝陽らしいかすかな黄味が加わり、
そして濁ったような鈍いピンクがどこかしこ覆っている。
でもその色も、定かでない。あるかどうかすら、定かでない。
空が壊れちゃっている、機能していない、そこに無い。
そんな感じだった。

今、私が暮らすところは、地震が起きることはほぼ無いそうだ。
外は、青空が広がっている。
でも空は、あんな空になることもあったんだと、今日は思い出す。

(今日うれしかったこと)
外の雪がずいぶん溶けて、出歩きやすくなってきた。



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