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あなたを守る、絶対に

あれあれ、こんなときにまで・・・!
暗闇の中、皆が部屋の片隅に集まって身を丸め、息を潜めている中、
Eくんが這って、私の近くにまで来てしまった。

学校で、不審者訓練(Lockdown drill)が行われている。
銃などの凶器を持った不審者が、校内に侵入したと想定して行う
避難訓練だ。
警戒レベル・不審者の侵入経路により、以下対応を判断する。
(A)冷静、かつ速やかに、皆で建物外へ逃げる。
(B)教室内からドアを施錠。訓練終了まで、絶対に開けない。
(有事の場合。廊下に逃げ遅れた誰かがドアを開けるよう懇願しても、
 絶対に開けてはいけないとされている)
  消灯。ドアにガラス窓があれば、中が見えないようにする。
  人がいる気配を消すため、外から見えない死角に集まり、
  体を小さくして身を潜め、動かない。絶対に喋らず、音を立てない。
  訓練終了まで、この状態を、室内全員で保つ。
(C)室内にあるもの全てを駆使して、全員で闘う。
  その場から脱出するためであり、加害者を倒すことが目標でない。

Lockdown drillは、訓練だとわかっていても、非常に緊迫感がある。
不審者侵入の合図に、すぐにドアを施錠。消灯。全員身を潜めた。
やんちゃで、甘えん坊なところもある子供達も、真剣だ。
実際に、凶事が起こった場合、皆で徹底した対応をしないと、
その場にいる全ての人間に、危険が及ぶ。
そんな時の備えなのに。Eくんの行動を、残念に思う。

Eくんは、快活で、明晰な男の子だ。
負けず嫌いなところがあり、いつでも一番になりたがる。
Eくんは、皆より一番前、先頭にいたいがために、
訓練の時ですら、私のそばに来てしまったのだろう、と想像した。

折を見て、皆から見えないところにEくんを呼び、たずねた。
Lockdown drillの時、先生のそばに来たでしょ。
どうしてそうしたか、興味があるの。聞かせてくれる?

Eくんの目は輝き、明らかに誇らしげな表情になった。
「そりゃあ、先生を守るためだよ。」
・・・・・・えっ??
「だって、先生は、ドアの一番近くにいたじゃないか。
悪い人は先生を、一番に見つけてしまうから。」

なんということだろう。私は自分の思い込みを恥じた。
まだとても小さなEくんの肩が、ぐっと頼もしく見える。

Eくん、ありがとう。あなたの勇気と思いやりは、素晴らしいと思う。
でも、あなたの家族、お友達は、あなたに何かあったら、とても悲しむよ。
「先生にだって、大切な家族と、友達がいるだろう。それに、ぼくは大丈夫なんだよ。絶対に。」
絶対、に? うん、絶対。

「だって、ぼくの父さん、約束してくれた。たとえ父さんが外国にいても、ぼくに何かあったら、助け出して守るって。絶対に。」

Eくんの勇気の源は、お父さんからの愛情だったんだ。
深く心打たれて、私は言葉が出ない。
「お前は、みんなを守ってあげられるような男でいてほしいって。
だからぼく、そんな男になるの。」

愛と信頼は、いかなる凶器からの、強い盾になる。
人は深く愛され、守られている自信がある時。
他の人をも守ることができる、強さを持つことができるのだ。

どうか、この小さなEくんが皆の盾となって、
悪に立ち向かわないといけないような、凶事が起こりませんように。
誰もが、安心して、暮らせる世界にしていきたい。

(今日うれしかったこと)
外は氷点下。暖炉を使っている家が多いのだろう、いいにおいがする。
(今日のありがとう)
生活に使う色々な物が、自分の周囲にある。
どれも、自分のかわりに誰かが作ってくれたのだ。
それを使って、便利に生活できる。感謝。



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