400字ショートショート「月のフルーツパーラー」
下弦の月は角度によっては器になる。久しぶりの宇宙旅行で降り立った星には、その器を利用したフルーツパーラーがあった。
「一人ですけど入れますか」
シニヨンの店員さんは眉尻を下げる。
「今日は既にお待ちのお客様がいらっしゃいますので」
「相席ならいいですよ」
ソファーを立った彼はスーツの似合う上品な人だった。
「いかがですか」
微笑まれて頷く私。
テーブルにつくと二人で果物盛り合わせを注文した。底が綺麗にカーブした薄い月が運ばれてくる。上には赤や緑、黄色の果実。特にマンゴーはとろける食感だ。
「メロンはお好きですか?」
「ええ、まあ」
最初は緊張したものの、すりおろしピーチのカクテルでほろ酔いに。
「明日には地球に帰るんですね」
「はい」
もっと話したかったな。噛んだ苺から果汁がじゅわっと溢れ出す。
「来週も来ようかな」
「じゃあまたここで」
月のフルーツパーラー。銀河の旅人たちが羽を休める場所。多分、ここから始まる恋もある。