趣味の作詞術(1)-はじめの一歩編-

 歌詞を書き続けてきました。思い返せば中学生の頃ノートに好きな歌詞を書き写すことから始まり、ギターを覚えてなんとなくオリジナルの曲を作ってみて、バンドを組んでやってみて、気づけば小さなアイドルグループの運営に携わり、楽曲に詞をつけて。

 これといった実績や代表作などがあるわけでもなく、収入を得たことはあれど、今では知人とのつながりで詞の提供をするくらい。趣味、と呼んで差し支えない規模の活動です。趣味で書くとはいえ聴き手を意識しないわけにはいかず、ある程度作り方というのはあり、しかしそのほとんどが感覚的なままなので、なんらかの形でまとめてみたいと思っていました。それを整理しながら公開してみようと、そういう思いつきであります。

 さて、早速ですが詞に対する評価というのはとても難しく、良い詞、悪い詞という評価のほとんどが好みや印象の域を出ないと言って良いのではないかと思います。文法の正しさや、語義の解釈や用法が適切であることよりも、歌として、口に出す音としてのふさわしさが優先される点が他の言語芸術にない評価軸になるということもあり、魅せ方、活かし方、歌い方次第で評価はあっという間にひっくり返りもするのでしょう。

 それでも世の中にヒット曲というものは存在し、音楽とともにその歌詞が愛され、歌われる事実があります。その事実についてはいくらか分析的に考えてみるべきでしょう。何事も自分でやることにより他者の仕事を見る目が養われるものかと思いますが作詞も例外ではなく、つくる視点から紐解いていくとヒット曲には完成度が高く独自性があり、なおかつ音楽に適しているものが多いと気付かされます。

 できるなら好きな歌詞のことを、分解してなお愛でたいものです。そのように、インプットを良質化するというのも目的のひとつであります。趣味の、と題したのには、そのように個人での楽しみを増幅させるための見識を共有したいという意味合いもあります。

 そして改めて書くことについて。例えば作詞の方法について「必要」に駆られるとするなら、現在DTMや楽器をやっており歌モノを作ってみようと考える人や、プロデューサー等の立場から作品に携わる人、などでしょうか。作詞家に詞をオーダーする際の取っ掛かりの知識、あるいは褒めそやしつつもリライトしてもらうための着眼点などが共有できると嬉しいですね。

 まずは何から着手すべきか、何から考えるべきかというお話をしましょう。感覚的に既に何かを書ける人にはおさらい程度の話かもしれません。

・歌いたいテーマがあるか
・使いたい言葉があるか
・寄せたいジャンルはあるか
・なりたいアーティストがいるか

 まずはこれらを考慮し、素材を集めることです。素材というのは勿論、言葉です。言葉しか使いませんから。単語でも、比喩でも、セリフ調の言い回しでも、なんでもいいからメモ帳に書き連ねましょう。何かを書きたがっている人は、「作詞メモ.txt」なんて素敵な宝箱を隠し持っていると信じております。それです。誰かに代わりに書いてもらいたい時も、そのテキストファイルをそのまま送ることが最善手であると断言できます。恥を捨てることが肝要です。

 ジャンルやなりたいアーティスト、というのは諸刃の剣でもあります。ともすればパクリやモロな影響と揶揄されることになりかねません。それこそ古今東西のあるあるで、仕方のないことなのですが、何より大切なのは特徴を理解しておくことです。それは言葉尻(口調)にあったり、常に過去の女を引きずっていたり、毎度Cメロで小難しい言葉を使っていたり、と色々ですが、それを把握したうえで避けたり乗っかったりしていくと、その先に自ずと、どう足掻いても消せない自分のカラーが見えてきます。それが磨くべき武器です。


 そのうえで、何を歌いたい(歌わせたい)のか。ここから始まります。まず、対象が具体的であればあるほど作りやすく、また人に伝わりやすくなります。恋愛の歌なら、好きな人の特徴や具体的な出来事を列挙していけば詞を構成する素材が集まります。色々な比喩を、色々な濃度やスケール感で列挙してみると良いです。「濃度」「スケール感」などと分かりにくい表現をしていますが、要するに

「髪」「短い髪」「ボブ」「茶色のボブ」「整った茶色のボブ」
「30°くらいで前下がりに切りそろえられたアッシュブラウンのボブ」

 というふうに情報量に応じた表現をいくつか候補としてあげておくと良い、ということですね。これを準備しておくと、字数制限に応じて取捨選択しやすくなります。そして、具体的な記述を癖付けるとおのずと知識が増えていくという利点があります。身なりに興味がなく染髪の経験もこだわりもなければ、ぶっちゃけ「茶髪」の違いなんてわかりません。ただそれでは、女性視点の詞において「おしゃれしてウキウキしている癖に髪型やカラーやネイルや服装に興味なさそうな女」が生まれるなど、鋭い聞き手にとって違和感のもとになってしまいますね。これは作詞に関わらずあらゆるクリエーションにおいて重要な心構えと言えることでしょうが、歌詞は繰り返し音として聴くことを大前提とする言葉であり、そこで受け手に与えてしまう違和感のひっかかりは、音楽を聴くよろこびを阻害しかねないので疎かにできません。

 風景や感情をめぐる言葉についても同様です。日本語には月の呼び方が多くあれば、花の名前も数え切れません。「好き」だって、「遠くから見つめているだけで幸せ」なのか「セックスしてそのまま一緒に死にたいくらい嫉妬に狂いそう」なのか、「顔の良さみ尊みが無理、語彙が行方不明で過呼吸」なのか、全然違いますし、それぞれに詞としてのポテンシャルがあります。歌詞に"ありそう"な言葉でお茶を濁すことよりは、自然に思い浮かぶ言葉の構造を理解し、いかに口当たりが良いのかを自分の身体で確かめて選ぶほうが良いものになると思います。容赦なく、メモのご準備を。恥を捨てることが肝要です。

 そのように素材の準備を始めますが、一点。「きみ」と「ぼく」が現れるか否かという大問題があるのですが、いかがいたしましょう。というのも、これを完全に回避して一本書きぬくのは非常に難しいことだからです。これは歌というものの性質を考えるとイメージしやすいのですが、どうしても歌にのせる言葉は一人称のせりふとして聴かれやすいものであり、音楽はそのメッセージを届ける媒体であるという捉え方が根強いのです。特にポップスの基本構造は、純粋に物語を乗せる≒語り手に徹する媒体としても不向きと言えます。試しに、きみもぼくも登場せず、メッセージや願望を込めない歌詞を書いてみてください。聴きどころの分からない歌になってしまいがちです。これはちょっと狙いにくい。だからまずは諦めて、きみとぼくが自然に現れるものとしましょう。そのうえで、どの程度きみとぼくの物語なのかは決めておきましょう。

 では一人称は?という問題に出くわしますね、その通りです。これについては話法がなんだ日本語の人称代名詞がなんだと一晩語り明かせるくらい面白い問題なのですが、ひとまず置いておきます。使いやすいものを使ってください。性別をどうするのかという問題もありますから。男声なら男性視点、女声なら女性視点というのは基本にはなりますが、女性アイドルが「ぼく」=ファンの気持ちを代弁することで泣けることもあれば、可愛い声だからこそ説教臭いメッセージを許容できたり、あるいはクリープハイプ Vo.尾崎世界観のように「あたし」を独特のハイトーンで歌いあげることで男女の物語の機微を照らすこともあります。演歌などにも見られますよね。これらは「クロスジェンダー歌謡」「クロスジェンダード・パフォーマンス」などと呼ばれ……とこれまた話が長引きそうなので割愛します。とりあえずは、好きにしてください。

 さて、素材が集まり、おれとおまえが出会ったところで、「映像的に」届く言葉というのをひとつ意識し、楽曲の中心をどこに置くのかという点を意識しておきましょう。

 麦わらの帽子の君が/揺れたマリーゴールドに似てる (「マリーゴールド」 あいみょん )

 「歌詞は聴く人の頭の中に映像を届けるためのせりふ」であると当代無比のシンガーソングライターあいみょんは述べており(要出典)、まさしく王道の戦法であると思いますが、このマリーゴールドの喩えなんかは明瞭に映像的な表現で、サビとタイトルに置くことでこの楽曲の中心が「麦わら帽子の君」であることがはっきりします。他に"雲のような優しさ"といった比喩もありますが、こちらは色味を感じさせない補助的な役割を与えるものですね。

 すべては比喩にありと言っても過言ではなく、比喩を自在に操ることで字数の制限を超え、緻密な描写よりダイナミックに心を揺り動かすこともできるのが詞の面白いところです。そして、それが最も効果的に輝く部分が、往々にしてその楽曲の中心イメージになっています。

 この比喩をテクニックで補うとすれば、先述のように対象をより具体的に記述をしていく過程で、似ているものを列挙していくという手段が考えられます。

 考えてみましょう。

 ブラウンの短いボブが/微妙にきのこの山に似てる

 という歌詞を思いついてしまいました。
 これでは売れそうにありません。残念です。

 ですが、そう見えてしまったのは事実ですので、なけなしのおしゃれ感覚を総動員し、また言い換えのバリエーションを総当たりチェックしてみましょう。

・チョコに似てるなら色指定しなくていいよな
・ボブは、そもそも短いか…
・そうなると「ボブ」だけでは髪のこと言ってるの伝わりづらいな
・きのこの山って言っちゃうのはまずいか、たけのこ派もいるし
・微妙に、とかやめろし
・動きがあったほうがいいしチョコ溶かすか
・泣いてることにしよう
・髪が抜け落ちてるホラーをイメージされたら困るな
・眼がチラッと見える角度ということにしよう

 ボブ髪の隙間に涙/溶けたチョコのお菓子に見えてた

 これなら、まだ、ありそうですか。ありませんか。そうですか。ただ、修正前よりは映像が共有できるような気がします。微妙に。

 これは咄嗟の思いつきの例ですが、ぱっと聞き手の脳裏に映像がうつる比喩というのは非常に強い手です。作品の公開方法が、音源のネット上へのアップロードなのか、ミュージックビデオなのか、バンドのライブなのか、ダンスありきのパフォーマンスなのか、それぞれだと思いますが、中心になるモチーフがあったほうが印象に残りやすく、また聴き続けたあとの愛着に繋がります。中心点をつくること、それが作詞の醍醐味であり、もっとも難しい工程のひとつといえるでしょう。

 この時の注意としては、流れや強弱をコントロールし損ねて中心がわからなくなるのを避けよう、ということ。たとえば花を一種類出したら、明確な意図がない限り他の種類の花は出さないほうがいいでしょう。かわいいシロツメクサとの恋の痛みを表現するのに、ばらの棘に触れてしまってはイメージがちらかってしまいます。このあたりは、ビジュアルデザインの発想に近いかもしれませんね。

 そうこうしているうちに、きっとアンタとオイラの物語は色を帯びてきます。曲先なら準備された楽曲の音の数、詞先ならざっくり想定した字数にあてはめ、まとめようとします。が、うまく収まる気がしないのではないでしょうか。また、何処にどう置くのがベストなのかわからなくなるのでは。同じテンションで同じ話を続けているように聞こえるのでは。そうですよね。難しいんですよ。それをこれから考えていきます。

 字数と展開に制限があるからこそ素材の整理が必要で、同じ内容を届けるにしても、意味的にそして音的にもっとも整理されたデザインを施すのが作詞であるといえます。すぐれた先人たちの歌をたよりに、がむしゃらに書きながら、楽しんでいきましょう。何より、リピートアフタミー、恥を捨てることが肝要です。


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