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たぶん短い夏の歌 2

一粒のカートのライト 滑走路を動く点P
闇を裂いてけ 

エンジン音 ダンスを競うコウモリは
三万フィートの空を知らない 

滑走路  重たい機体持ち上げる夜風が
頬をやさしく撫でる 

ぬばたまに誘導灯が描く地図
飛び上がらねば見えないんだ

金色の水面の霧は晴れ上がり
気が抜けたきみをぬるくゆるそう

空蝉に成れず路上にうずくまる
折りたたみ傘 宇宙(そら)に翔んでけ

お囃子だ 百鬼夜行か葬列か
いいえ、狐の嫁入りですよ

ソプラノの雨はおしゃべり
アスファルトに連弾してる野良猫の声

金魚泳ぐ(ぽたん)便箋に(ぽたん)
雨音が鳴る 「お元気ですか」

背表紙に置ける檸檬は売り切れか
トマトなら確か冷蔵庫に 

部屋中の闇と夜とを分けている
つもりになったカーテンの波

金星に恋した金魚は身を焦がしうっかり赤くなってしまった

ちはやふる神代も聞かず竜田川お囃子に散る小さき生命

どれだけの悲しさがあったんだろう
天に住む人 夏の夕立
どれだけの赤子が天には居るんだろう
寝れないのかな ゲリラ豪雨だ

うっかりと雲間に顔を覗かせた
すっぴんの月 君じゃないひと

傘もなく夏を残した雲だけが
空を走って帰ろうとする

蛇だった 蝉ではないから
夏に生まれ変わることは叶わなくて

贋物の味と知りつつ求肥なく頭から行く
鮎の塩焼き

抜け殻と鳴き声だけを夏に落とす
過ちなんてなかったみたいに

きらきらの落ちゆく光
夜空は花びらひとつ遺してくれない

きらきらの初めての朝 コップ並ぶ
とおいむかしのおはなしみたい

「夏だねぇ」「夏だねぇ」
と言ってくれる人のいない冷房涼しー

「終点です」 うたた寝したら波の音
もしかして私って貝なの?

さあ踊れ! 曲がなってる
脚を上げ 夜の半分を忘れて踊れ!

青年の喉から来たる残響に
三千丈の月日を想う

胃の中は既にパーティ
"シャンパン" はパチンパチンと手拍子叩く

雨音に揺れる水槽 ぼんやりと光って沈む
熱帯魚ふたり

君と繰り返したいあの夏への道順だけは思い出せない