Dear Tokyo

私には夢がある。

銀座の歩行者天国を、一番好きなサングラスをかけて、お気に入りのワンピースを着て、おろしたての時計をはめて、歩く。三丁目の松屋で、ずっとほしかったピンヒールを買って履き替える。八丁目の博品館の前に着いたら、入口の走る仔猫で遊ぶ子供たちに少し混じった後、店内で一番気に入ったおもちゃを一つ買いたい。

東京が好きだ。下町も雑踏も繁華街も。

両親が東京出身の私は、幼いころから都内へよく連れられた。お祭りで法被を着、おみこしを担ぎ、夏にはベランダで花火を見た。「たまやー!かぎやー!」と声を出すのが大好きだった。七五三で神社に出かけた際は、3歳の時こそ嫌がっていたが、7歳の時には「やだ、脱がない!」と親を困らせた。思い返すと、祭りと装いが好きな自分がアイドルオタクになってしまったのは必然で、東京の文化をそのまま浴びて育ったからかもしれない。

初めて歩行者天国を歩いた時は、この世界の支配者になったような気分だった。ワイドショーのインタビューを受けて、せっかく映ることが決まったのにビデオを撮り忘れたりもした。友達に聞いたら、3秒しか映っていなかったみたいだけれど。

中学生になって初めて原宿に出かけた。何を買うわけでもないのに、竹下通りの人混みにもまれるのが好きだった。地下の階段をくぐって親友とプリクラを撮ったり、当時欠かさずドラマを見ていて、「結婚したい!」とはしゃぎあっていた若手俳優の写真を買ったりした。なぜかたくさん歩いている黒人のお兄さんによく声をかけられた。

朝も昼も夜も人がごった返していて、誰かが幸せで誰かが悲しんでいて、暇をつぶしていて忙殺されている。気持ちやエネルギーの密集した東京が大好きだ。

仕事や観光で東海道新幹線に乗るとき。品川に着くと、私は必ず外へ出る。そして東京駅に着くまでの間、車窓をずっと眺めている。港のビル街から、光量が多い秋葉原、きっと誰かがデートや仕事に力を注いでいるであろう有楽町、そして東京駅。慌ただしく目の前を過ぎる街をみるだけで、ほっとする。出張帰りで心が乾いていると、涙が出そうなくらいに。この街で放っておいてもらえることが、人の波に紛れながら、夜の東京タワーを目に入ることが、何よりもの安心だったから。

夢を叶えて銀座を闊歩するには、自分はまだ一人前の大人になれていない。軍資金も足りない。一歩、踏み出そうと思えるときに、東京が、誰かには「派手」だとか「冷たい」と思われるくらいの、騒がしく華やかな場所へ戻っていますように。

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