ねえあなたの記憶に一番残ってる公園って何、と彼氏に聞かれた時の話

ゼミの飲み会で酔っ払って帰ってきた夜のこと。もう眠いし、気持ち悪いし、疲れたし、ちゃんと酔ってるしという散々な状態だったのに、気づいたら彼氏に電話をかけていた。飲みは好きだけど、無駄にはしゃいでしまってだめになるから、安心できる声が聞きたかったんだ。

だけどかけるなり、ボロンって音がした。

またギターの弾き語りだ。

しかもしまんちゅ。

ひとりでイーヤーサーサー!!!って合いの手入れてるし。さっきこの曲飲み会のカラオケで聴いて、ガッツリ合いの手入れてきたわ。自分で電話かけといてなんだけど、うわだるって思ってしまったから、わたしはカス。

彼氏もバイト終わりで、ひとりで晩酌していたみたい。だからちょっと話した。気持ち悪くて「うう〜気持ち悪い〜」ってわたしが言ってたから、ちゃんと話せてたかは自信ないけど。

公園の話をした。今までにふたりで一緒に行った公園の中で、一番記憶に残ってるの何って聞かれたんだ。もちろん酔っ払いの答えなんて本気にしちゃいけないんだけど、わたしは雑司ヶ谷の鬼子母神の隣にあるちっちゃい公園って答えた。

そしたらハア〜?って言われた。今までにいろんな公園に行きまくったのに、なぜか謎の小さい公園を出されたことが気に食わなかったらしい。いやまあわたしも酔ってたからちゃんと考えたわけじゃないし、出てきたのをぴょろっと答えただけなんだけど。

でもいいじゃない、雑司ヶ谷のちっちゃ公園が好きって言っても。それくらいわたしはちゃんと覚えてるんだ。

彼氏と雑司ヶ谷の公園に行ったのは、付き合う前のことだ。お散歩しようよと言われて、嬉しくってついてった。いつも履いてた7センチヒールの靴は、お散歩にはふさわしくない高さだったけど。ちなみに彼氏と付き合ってから、会うたびあまりにも歩くから、その靴の出番はすっかりなくなっている。

途中の激坂で、彼氏を置いて坂ダッシュした。わたしは坂を見るとダッシュしたくなってしまうという、暑苦しい血が流れているから。今考えるとそれなりに良い感じの人の前で坂ダッシュするの意味わからんすぎるけど。彼氏がおかしくて助かった(よく考えると、この文脈でおかしいのはわたしだ)。

老木の並木に、石畳の道を、肩を並べて歩いていった。石畳の道が好きだって彼氏が言ったから、わたしも好きですって言った。それだけで嬉しかったあんな日々。今日散歩してた時に見つけて撮った写真、彼氏に送りつけたら無視された。

そして着いた、都心の狭い公園、ほんの少しだけある遊具。ちょっと遊んで、すぐ飽きてしまうような公園。だけどわたしは、こういう公園で生まれ育ったんだよ。わたしたち大人が暇を持て余すような小さな公園で、5時の鐘が鳴るまでずっとずっと遊んでいたんだよ。ぶらんこに乗って、狭い敷地で鬼ごっこして、DSやって、シール交換して、おやつも食べて。そういうノスタルジーに浸れるから好きなんだ、こういうただの公園が。

あと、もう一個、この公園がわたしの記憶に残っている理由がある。

それは、付き合う前に行った公園だから。

もうわたしたちは付き合う前には戻れない。付き合う時間を続けていくか、別れてしまって、付き合った後になるしかない。これから先にたくさん公園に行くと思うけど、付き合う前に行った公園は、増えないままで残り続ける。

ちょっと敬語とか使ってたわたし、わたしのことを見てちょっとにやにやしてた彼氏、そしてふたりの間に流れていた、ちょっと気張った空気は、あの時だけのものなんだ。

だから好きなんだ。

それは言わないまま電話切ったんだけどね。あはは。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?