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忘れたくても忘れられないあの日、出会った君の名は。


たしか、22時とか23時とか、それくらいの時間だったと思う。


まだ真夜中とは言えないけれど、しっかりと夜も更けてきた頃。


クアラルンプール空港で一人、涙目の私は天を仰いだ。


日本に帰国する飛行機に乗り遅れた。




「終わった・・・・・・・・・・・・・・。」




いや、まだ飛行機は飛んでいない。
チェックインの締切時間から20分経ったくらいだったと思う。
けれどカウンターのお姉さんは、冷酷な瞳で「NO」を連呼した。


「クチン(マレーシアのボルネオ島に位置する)からの乗り継ぎ便が遅れたからだ!トランジットがうまくいかなかった!」と主張しても全く取り持ってもらえない。

それはそうだ。

乗り継ぎ便はたしかに1時間半遅れたが、意外とまだ時間があると勘違いし、呑気に空港内のお土産屋をめぐり、カフェでコーヒーを飲みながら、VSCOアプリで旅の写真をいい感じに加工してインスタにアップしていた私が完全に悪い。

よくそれでトランジットのせいにしようとしたものだ。


遅延トラブルでゲートが急に変わったり、チケットの再発行手続きをしたりと中々に大変で、それをなんとか乗り越えた!もう大丈夫だ!と安心しきってしまった。

飛行機の中で久々につけた腕時計。日本時間を差すその時計の針を信じてしまったのが原因だった。本当に自分で自分が信じられない。


私が悪い。認める。
とはいえ日本に帰れないのは困る。本当に困る。



じゃあ・・・せめて次の便に乗せてくれ!と訴えると、

「明日なら、日本への直行便で今回と同じ時間が1席だけ空いている。24万円だ。」と言われた。


に、にじゅ、24万だと・・・・・!?!?!?!?!?!?!?


今回の航空券代は往復で7万くらいだというのに、ここで追加の24万は無理オブ無理オブ無理オブ無・・・・理・・!高すぎる・・・・!

他はないのか、と聞いてみても、しばらく空きはないのですぐには無理だと言われ、「私は早く仕事上がりたいからさっさと諦めろ」オーラ全開のお姉さん。

私の英語スキルと度胸がもっとあれば、あの手この手で訴えてなんとかなったのかもしれない。

けれど当方、人生初の一人海外旅行。
マレーシアのクチンで働く友人に会いに行くのが目的だったが、彼女が休みの日以外、主にクアラルンプールを一人で観光していたので、自分、やればできるじゃないのと自信がついて意気揚々と帰ろうとした矢先の出来事だった。

初めての一人旅にトラブルはつきものです!というタイトルの記事でさまざまな経験談を目にしてきたけど、“帰りの飛行機に乗り遅れる”パターンと、それの対処法は覚えがない。そして自分の身に起こるなんて全くもって予想していなかった。


私の英語スキルは本当にたいしたことがなく、ノリでなんとか会話のようなものができていただけだった。英語で自分の意見を強く主張するなんてとてもできない。このときほど自分の英語力の低さを呪ったことはなかった。

「OK........Thank you......」

嗚呼!!こんなときまで礼を言うのか私は!!
どこまで日本人なんだ!!!ワイ ジャパニーズピーポー!!

これ以上会話を続けようとしたところでダメなものはダメらしく、本当にどうにもならなかったので、仕方なくその場を立ち去ろうと向きを変えた、次の瞬間。

カウンターの電気を消され、お姉さんたちはさっさと帰って行った・・・・。日本だったらさすがにそれはないだろという対応。

私はそんなお姉さんたちの後ろ姿に対し、自分のできる限界まで眉を寄せ、顎を引き、ドラマでよくみる典型的ヤンキーのイチャモンのごとく睨みつけた(視聴率はもちろんゼロ)。

ちなみに後にも先にもマレーシアでこんな冷たい対応を受けたのはこの一回だけだった。マレーシアの人はみんな優しかった。


さて、どうしたものか、、、、
最終便だったのでもう空港に泊まるのは確定だ。


まずは旅中お世話になったマレーシアで働く友人に連絡した。
そして、絶対心配をかけたくなかったが、予定通りに日本には到着しないことが確定したので母にも連絡した。

友人は私の大失態によるとんでもない事態に仰天しながらも、必死になって一緒に飛行機を探してくれた。母は案の定物凄く心配して、電話をかけてきた。でもごめん、今は飛行機を探したい。連絡するタイミングを間違えた。

すぐに母との電話を切って友人と懸命に飛行機を探したが、クアラルンプールから日本への直行便は、たしかにあの冷徹お姉さんが言うようにものすごい高額以外になかった。

そして手頃な値段のものは、だいたい2度以上トランジットが必要で、インド経由で2・3日かかるやつとかがでてきて吐きそうになる。

帰れない。私、日本帰れない。パニック・・・!!!!

けれど友人が遠隔で(しかも深夜に)奇跡的に良さそうな便を見つけてくれた。持つべきものは優秀な友。

“翌朝の5時代発、韓国のチェジュ島経由、片道7万円”。

こ、これなら一晩空港で過ごせば乗れるし、ギリギリ明日中には日本に帰れるじゃないか・・・!
韓国だったらインドより全然日本に近づいてる感もある!
往復代と一緒だけど、もう私にはこれしかない!

そう思ってこの便をすぐさま予約した。
友人は本当にできる女すぎて泣ける。一生分の感謝。

母にも飛行機が無事決まったことを告げ、
「明日にはなんとしても日本に帰るから・・・!なんとしても・・・!」
と今までの人生で一度も言ったことのない台詞を口にし、次こそ乗り遅れないことを誓って電話を切った。


ここからまた壁にぶちあたる。空港内で一晩過ごす場所探しだ。

何が大変かというと、スマホとWifiルーターのバッテリー問題だ。

新たな航空会社の搭乗手続きや初の韓国入国のことなど調べたいことは山ほどある。電源、わたしが最も求めているのは電源のある、安心して一晩過ごせる場所。

クアラルンプールの空港内を何周も何周も探し回ったが、電源らしき電源はもちろんすべて使われている。。。もう夜中の1時を回ってるし、今から移動する人なんてそういない。みんな寝床を決めてお休みモードに入っている。

さらに恐ろしいことに、空港内で酔っ払ってる人がカーペットの上で吐いていたり、頭にターバンを巻いた集団がみんなで何か唱えていたり(そういう宗派なのはわかるのだけど)、異国に一人でいることの怖さに心が折れそうだった。日本人らしき人は全く見つけられない。

何周もまわるうちになんとか目星をつけ、優しそうな外国人に「次、使ってもいいですか?」と英語で声をかけることを考え始めたその時。

奇跡が起こった。

スタバの電源ありの席に座っていた人が、目の前で立ち去った。

スタバ!!!!!!100000%安心感しかないスタバ!!絶大な信頼を誇るスタバ!!!!ありがとうスタバ!!!
24時間やってくれてるしお店のWifiも使えるし、最高以外の言葉が見つからない!!!!

ということで最上な場所を奇跡的にGETした私は、持ち得る全ての電子機器をフル充電にしながら、搭乗手続きの仕方や韓国のチェジュ島空港のWi-Fi状況などなど必要そうなことは全て調べてスクショをしまくった。


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↑スタバで夜を過ごしている時に撮った写真

ちなみにこの隣の方、私が真夜中どうしてもトイレに行きたい、けれどこの場所を誰かに取られるわけにはいかない、でも荷物を放置したくない・・・と困り果て、意を決して事情を説明したら、荷物をみておくことを快諾してくれたとても良い人だった。


わたしは一度飛行機に乗り遅れた身。
同じ過ちを繰り返すわけにはいかないと、フル充電が完了し、調べ物を一通り終えた私はスタバを後にして搭乗手続きのエリアへ移動した。

一睡もしておらず脳が覚醒状態になってしまったからなのか、そのときの私は異常なほどにコミュニケーションに積極的になっていた。
トイレ中の荷物監視をお願いするのも然り、見ず知らずの外国人に「この便に乗りたいのだが、この場所で合っているか」と聞きまくった。
これぞ火事場の馬鹿力。かつてないほどコミュニケーション力が発揮されて自分でも驚いた。

そして無事に飛行機に乗ってマレーシアを旅立ち、韓国・チェジュ島へ降り立った。懐かしの冬のソナタの聖地らしい。

が、入国審査のタイミングであることに気がついた。

周りの外国人のみんなが何やら紙面を持っている・・・?
え、まさか・・・ビザ・・・・???

もしかして私、韓国に入国できずにマレーシアへ戻される・・・?

顔面蒼白で心臓がバクバクしたまま自分の番がきた。

パスポートとチケットを出す。無表情で手続きをする審査官。


「OK」

・・・!!!!入国できた!!!
日本人で良かった・・・!国によってビザが必要だそうで、改めて日本のパスポートの有り難みを感じた。

チェジュ島は小さな空港で、ゲートのエリアも一箇所にまとまっていたので、さすがに迷いようがなかった。
そして成田へ向かう便ということで、日本人の姿もちらほら。
よかった、私、今後こそ帰れる・・・!
搭乗時間まで5・6時間ほどあったが、お土産屋には目もくれず、私はゲートのすぐ目の前の座席からほとんど動かずただ出発の時をじっと待った。

そしてついに初めての大韓航空に搭乗。
これで本当に日本に帰れるよ・・・・おっかさん・・・・


18時間の緊張状態が解けてようやく安心しきった私は、糸が切れたように深い眠りについた。窓際の座席に座り、シートベルト着用や荷物の準備も早々に済ませたので、離陸したことにすら気づかぬほどの爆睡をかました。




不意に目が覚めた。


なにやらいい匂いがする。

あれ、周りの人たちが一斉に食事をしている。
搭乗時間は2時間半くらいなので、てっきり機内食はないと思っていた。

私が顔をあげたちょうど目の高さの位置に、
「お目覚めですか?」的なことが書いた紙が貼ってある。

なんだこれは。
このパターン、知らないぞ。どうすればいいのだ。

すると隣に座っていた韓国人の眼鏡イケメンが、
「あ、起きましたか。ご飯食べます?」と英語で聞いてきた。

咄嗟にヨダレの跡を気にしながら「い、いえす!」と伝えると、そのまた隣の通路側に座るマスクイケメンが、私の代わりに客室乗務員さんを呼んでくれた。

神なのか・・・?

「肉?魚?どっちがいい?飲み物は?」

私は眼鏡イケメンに「フィッシュ・オレンジジュース・プリーズ」と伝えると、韓国語で客室乗務員さんに伝えてくれ、無事食事にありつくことができた。

感謝を伝えると、「僕も寝たことあるし、気にしないで」と眩しい笑顔を向けてくれた。

尊い・・・

どこまでも神対応なイケメン二人・・・・

顔だけじゃなく心までもイケメンなんだわ・・・・!

・・・・それにしても、二人とも顔面偏差値高すぎないだろうか?

眼鏡・マクスが顔を隠すどころかイケメンをさらに助長させている。
見事なまでのお顔の整い具合い。
肌も綺麗すぎる。そしておそらくかなりの長身。

顔は正面向きを保ちつつ、バレないギリギリのところまで眼球を右奥に寄せて二人を観察した。

・・・ちょ・・・腕時計、ロレックス

ラフな格好をしているが、確かに金色に輝くロレックスを身につけている。

機内のカタログをながめていたマスクイケメンが、客室乗務員さんを呼び、香水やら基礎化粧品を購入し始めた。
もちろん差し出したのはゴールドカード。

わ〜〜〜本当に飛行機でお買い物する人っているんだ〜〜〜(凡人丸出し)

なぜエコノミーにいるのかは謎だが、イケメン二人が日本に向かっているということは、日本で活躍してるKPOPアイドルの誰かなのでは??

そう思ってからは目もギンギンに冴え、着陸まで横目でイケメン二人を観察し続けた。ネット環境になったら検索しよう。
いや、でもなんて検索すれば良いんだろう? 

そうこうしているうちに、あっという間に飛行機は成田空港へ到着した。

ついに、ついに帰ってきた!
夢にまでみた母国・日本!(爆睡しすぎて夢はみていない)

名残惜しいがお世話になったイケメン二人に感謝を告げ、二人の後に続いてそのシュッとした後ろ姿をぼやっと眺めて歩いていた。

すると、そばにいた韓国人の女の子が、

「あ!!!!!!!!!!」
という声を上げて、その二人になにやら韓国語で熱心に話しかけていた。
そして二人に写真やサインを求めていたが、それはやんわり断られたようで、しっかりと握手をしていた。

やはり・・・!なにやら有名なお人だ!

あの、私、その人たちと飛行機の席が隣で、しかもすごく親切にしてもらったんです、(全く気づかずヨダレ垂れるほど爆睡かましてたけど)

その方々、どちら様ですか・・・・!

一瞬韓国人の女の子に英語で話しかけて「彼らはなにものですか」と訊こうとも思ったが、さすがにちょっと失礼かと思い、やめておいた。

「イケメン 韓国 長身 アイドル」

その場で検索したところで同じような顔がいっぱい出てきたので、誰かは全く判別がつかなかった。


とにかく日本に着いて嬉しい私はせめてもの証拠に二人の後ろ姿をこっそりカメラに収め、成田空港を後にしたのだった。

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そして帰国直後、私はインフルエンザを発症してしばらく寝込んだ。

どこかの韓国人アイドルもインフルエンザにかかっていないことを願いながら。










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