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消したい記憶

あれから、あきとさんとは、週に1〜2度会っていた。


あきとさんの自宅のときもあれば、

外で食事をしたり、映画を見に行ったり。


私なりに幸せで。どんどん、あきとさんが好きになっていった。

そして、1ヶ月。


毎日続いていたメール。

週に3度はしていた電話。


その日はどちらもこなかった。


ーーー仕事忙しいのかな?


そう思って、邪魔をしないように、私からも特に連絡しなかった。


それから3日・・4日・・・5日と、時間は過ぎ、

・・・おかしい。

・・・自宅で倒れてる?大丈夫かな。


心配に変わり、私は学校帰り、あきとさんの自宅へ向かった。


チャイムを鳴らしてもでない。

こういうときどうしたらいいのかも分からず、

あきとさんのことは友人にも親にも言っていなかったので、

私は連絡が来るのを待つことにした。


それから更に1週間。


やっと気づいた。


・・・私、捨てられたんだ。


その日、私は、またあきとさんの自宅へ向かっていた。

部屋には明かりが灯っていて、

「よかった!!!」そう思い、チャイムを鳴らす。


・・・出ない。


チャイムのモニターに私の姿がきっと写っている。

でも出ない。



それで全てを察した。


あきとさんは、私を切ったんだ。捨てたんだ。


そう思ってからの私は、苦しくて、悲しくて、憎しみでいっぱいで。


ーー忘れよう。もっと辛いこと乗り越えてきた。もうダメなんだ。


何もなかったように装って、毎日毎日、押しつぶされそうだった。


思い出すのは、あきとさんとの日々ばかり。

お腹を抱えて笑う、あきとさん。

涙を見せる、あきとさん。

「好きだ」という、あきとさん。


なんで?なんでなの?

毎日毎日、そう問いかけ、声を押し殺して泣いた。


食欲もなくなって、高校でのお昼ご飯。

友人と作り笑顔で食事をした後、一人でトイレで全て吐く。

母が作るご飯も、無理やり詰め込み、全てトイレに戻した。


辛い。


せめて、一言。

お別れが欲しかった。

今までのあきとさんは、全て嘘だったの?

今私がしているように、楽しそうな演技をしていたの?



そんな日が半年続いた。

周りの友人には、彼氏ができて、休み時間や遊んでいても、その話ばかり。

なるべく笑顔で、どん底にいることを知られないように、必死に笑って、話を聞いて、相談に乗ったりしていた。


体重は8キロ落ちて、

親はもちろん、友人にも心配をされた。

制服も、おさがりを着ているかのように、ダボダボになってしまって、

醜かった。


何度も、あきとさんに連絡しようとする手を止めた。

「私、こんなに辛いよ。全部嘘だったの?」

泣き喚きながら、問い詰めたかった。

でも、できなかった。


馬鹿なのは、私。

遊ばれていた。

責められるべきは、騙された私。



月日は過ぎ、少しずつ、普通の生活に戻ってきた。

連絡先も消して、あきとさんからもらったものも全て処分した。


「れいー!今日放課後空いてる?」

仲のいい同じグループの友人が話しかけてくる。

「いいよ!なにする?」

「CD予約してて、それを受け取りたいの。その後、サイゼでもいかない?」

「うん!いいよ!CDって、嵐の?笑」

「そ!笑 初回限定盤と2枚予約しちゃった!」

この友人は、嵐が大好きで、毎回コンサートにも足を運び、部屋にもメンバーのポスターなどが飾ってあった。


放課後、その友人と大手CDショップへ向かう。


「受け取ってくるから、ちょっと待ってて!」

「うん!」


私は、店内をぶらぶら、いろんなCD流し見していた。


すると、1枚のポスターが目に入った。

「・・・あきとさん」


そこには、特設スポットが作られていて、

そのグループの映像とともに、楽曲が流れていた。


「・・・メジャーデビュー・・・?」


間違いなく、ベースを弾くあきとさんだった。

メイクをして、私の知らないあきとさんの姿が映し出されていた。


ーー人気アニメの主題歌!今大注目のバンド!


そんなPOPと共に、あきとさんのバンドスペースが大々的に設けられていた。


私は、呆然と立ち尽くした。


ーーー私・・あきとさんのこと何も知らなかったじゃん。


彼が、黙って別れを告げた理由がなんとなくわかった気がした。


それから、彼をTVで見にすることもあり、

私は、彼はもう別世界の人で、私とは結びつくはずもなかった人だと思い知らされた。


それから、私は、彼を忘れるために、

大学受験の勉強に励んだ。


彼が言った

「俺と出会ってなくても、ちゃんと道を切り開いていると思う」

その言葉を証明するかのように、毎日毎日受験のことだけを考えていた。


あっという間に、受験シーズンに入り、

クラスメイトも先生もピリピリしたムードが続いていた。


予備校の先生や、担任には国立大を勧められたが、

私は、某難関私立大学に入りたくて、

そこを受験することにした。


「絶対、受かってみせる。高校生活はもういい。大学で、私らしく生きる」


そう決めて、学校・予備校・自宅の往復の毎日を過ごした。

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