ポケットモンスターに関連する知的財産権の保護について~パルワールド騒動を例に~
久しぶりに記事を投稿致します。
忙しくて、というか労力の割に閲覧数が伸びないので投稿をサボっておりましたが、今回はポケモンとパルワールドということで、記事を投稿しないわけにもいかないだろうと勝手に使命感に燃えております。
著者はポケットモンスターシリーズをプレイし、「Pokémon LEGENDS アルセウス」および最新作「ポケットモンスター スカーレット バイオレット」のDLC第2弾「藍の円盤」までクリア済み、および「パルワールド」をプレイ中です。
「パルワールド」とは
「パルワールド」は、Pocketpair株式会社によって開発されたアクションアドベンチャーゲームです。このゲームは、プレイヤーが様々な生き物「パル」と協力しながら広大な世界を探索することが特徴です。プレイヤーは、これらのパルを捕獲し、訓練し、パルの特殊能力を活用してさまざまなチャレンジに挑むことができます。
ゲームの世界観は、ファンタジー要素と現代技術が融合したもので、プレイヤーは戦闘、建築、農業など様々な活動を通じてゲームを進めます。また、「パルワールド」はその多様なゲームプレイと、色鮮やかなグラフィックスで注目を集めています。
正直プレイした感じはポケモンとは全く異なるゲームです。
こちらに制作秘話などもnoteで記事が投稿されており話題となっています。
そして商業的成功は間違いないものとして報道されています。
一方で、ポケモンとの関係も指摘されています。主にクリーチャーデザイン、ポケモンとパルのデザインについての論点がメインのようです。
中立的な立場として、安易にポケモンとパルを類似するものとして記載するようなことは避けたいと思います。が、指摘されている点の中では、その点についての比率が支配的であるようです。
また、パルワールドでは、パルのようなクリーチャーが使役され、戦闘員として、労働力として、食料として扱われるのですが、これをポケモンに見立てて、許せない、残酷だという意見もかなり多いように見受けられました。これは知的財産権とは離れた問題ですが、深刻のように思えました。
その他に事態をより悪化炎上させるような以下の事件が生じていることも知られています。
任天堂が、YouTuberのToastedShoes氏が公開した「パルワールド」のポケモンMODの動画を削除したことが報じられました。このMODは、ゲーム内のキャラクターをポケモンに改造するもので、任天堂からの著作権侵害申請によりデジタルミレニアム著作権法(DMCA)に基づいて削除されました。
MODとは、「Modification」(改造、改変)の略語で、ビデオゲームを改変するためのファイルやプログラムです。公式MODはゲーム開発者によって作られ、ゲームを拡張します。一方、非公式MODはファンや独立した開発者によって作られ、ゲームの見た目やプレイ方法を変更することができます。しかし、このように非公式MODは著作権の許諾がないものは権利行使の対象となります。
この件については、米国のYoutuberの行動が問題であり、削除されたのはMODを適用した動画に過ぎません。
そして、株式会社ポケモンより以下の声明が出されたことが話題となっています。
ここで、「他社ゲーム」が具体的にどのゲームであるかは明記されていません(重要)。そして、他社ゲームと類似していると指摘しているのはお客様であって、この声明の中では「類似している」とは記載されていません。
しかし、「2024年1月に発売された他社ゲームに関して、ポケモンに類似しているというご意見と、弊社が許諾したものかどうかを確認するお問い合わせを多数いただいております。」との記載からすると、相当数の人間が問い合わせを行ったために、声明を出さずにいられなかったのかもしれません。
「ポケモンに関する知的財産権の侵害行為に対しては、調査を行った上で、適切な対応を取っていく」との記載は、一般的な知的財産業務を示しているに過ぎないので、特定の他社に対して、権利行使を行うと宣言したものとは確定しません。しかしネットでは株ポケが権利行使に動いた、というような論調が見られています。
そもそも株式会社ポケモン、ゲームフリーク、クリーチャーズ、任天堂の関係と知的財産的な役割配分とは?
一般的に「ポケットモンスター」のゲーム事業に関しては以下のような役割配分があることが知られています。
ゲームフリーク株式会社:ポケモンの本編ビデオゲームシリーズの開発を担当しています。ゲームの企画、開発、プログラミングなどが含まれます。ポケモンシリーズのゲームデザインとゲームプレイの核となる部分を作り上げています。
クリーチャーズ株式会社:主にグラフィックデザインや3Dモデリングを担当し、ポケモンカードゲームの制作やビデオゲームのグラフィックスに関する作業も行っています。また、ポケモンのキャラクターデザインにも関与しています。
任天堂株式会社:ポケモンゲームのパブリッシング(出版)を担当しています。これにはゲームの販売、流通、プロモーションなどが含まれます。また、ハードウェアの提供者としての役割もあります。
そして、このゲームフリーク、クリーチャーズ、任天堂が共同出資して設立されたのが株式会社ポケモンであり、以下のような役割を担っています。
株式会社ポケモン:ポケモンブランドの全体的な管理を担当しています。これにはマーケティング、ブランド戦略、商品開発、国際展開などが含まれます。ポケモンに関連するほぼ全ての商品やサービスのコーディネートと管理を行っています。
ポケットモンスターに関連する知的財産権による保護とは?
ポケットモンスターシリーズのゲームに関連する知的財産権による保護としては一般的に以下のものが考えられます。
著作権:ゲーム内のテキスト、音楽、グラフィック(キャラクターデザイン、背景など)は著作権で保護されます。著作権は創作物に自動的に適用され、登録は必須ではありません。
商標権:「ポケットモンスター」、「ポケモン」、特定のポケモンの名前などの商標は、商標権によって保護されます。これらは商標登録を通じて保護され、ブランドの識別力を保持します。
意匠権:ゲーム内の特定のデザイン要素(例えば、ユニークなキャラクターやアイテムの見た目)は意匠権で保護される可能性があります。意匠権は、製品の外観デザインに関する保護を提供します。
不正競争防止法:この法律は、商業上の秘密や営業上の信用など、著作権、商標権、意匠権によって直接的にはカバーされない分野を保護します。例えば、ポケモンのキャラクターや世界観を模倣することによる混同の恐れがある場合、不正競争防止法が適用される可能性があります。
これらの知的財産権について、上記のポケモン関連ステークホルダー企業がどのような役割配分で権利を取得しているか調べていきます。
ここで、著作権に関しては無方式主義であり、不正競争行為についても同様ですが、登録された知的財産権調査についてはJ-platpatを用いて調査をすることができます。
簡単に調べたところ、以下のように権利取得がされている傾向が見受けられました(概略であることご了承ください)。
商標権
基本的には、任天堂、ゲームフリーク、クリーチャーズが権利者となっているようです。最新の準伝説ポケモンである「モモワロウ」の商標登録出願からその様子がわかります。
逆に、株式会社ポケモンが権利者となっている登録商標、商標登録出願はわずかでした。ただ、企業間でライセンス契約がなされて実体的な権利者となっている可能性は否定できません。
少し古い第3世代の禁止伝説ポケモンである「カイオーガ」の登録商標についてもみてみましょう。
何回か移転登録済通知書が出されていますが、権利者表記は任天堂、ゲームフリーク、クリーチャーズとなっています。基本的にこの3社が正当権原を有するとみていいでしょう。
意匠権
任天堂株式会社の意匠権が多数ありましたが基本的にハードウェアに関するもので、ポケモンと特定できるものはありませんでした。
株式会社ゲームフリークの権利はありませんでした。
株式会社クリーチャーズの権利が数件ありましたが、昔のカートリッジのデザインに関するものでした。
株式会社ポケモンの権利が数件ありましたが、いわゆるポケカやグッズに関連するものでした。
特許権
任天堂株式会社と株式会社ゲームフリークの2者共同出願によるものが20件弱ありましたが、最新のもので2016年出願であり、このコンビによる特許出願活動はあまり活発ではないようでした。
同様に、任天堂株式会社と株式会社クリーチャーズとの共同出願も30件以下の件数で発見されましたが、あまり活発ではないようです。
任天堂株式会社単独のものは多数にわたり、今回調査しておりません。開発の主体がゲームフリークにあることを考慮すると、任天堂単独の特許出願は考えにくいためです。ただし、下記のように持分移転による出願が存在する可能性はあります。
株式会社ポケモンの特許出願は、200件以上ありました。
これらの中で、一部にポケモン「本編」と関係あるのでは?と思われる出願が権利が存在しました。
権利者としては株式会社ポケモン、または株式会社ポケモン及び任天堂株式会社による共同出願のものです。
発明者はゲーフリでありながら、持分移転によって株式会社ポケモン及び任天堂が出願人になっているものと見受けられます。
例えば発明者を、ゲーフリの有名なプロデューサーである、増田順一さんや、大森滋さんに設定することでも探り当てることができます。
それ以外は、ポケスリやユナイトに関する出願が多かったように思います。
なお、上記の調査はあくまで日本国特許庁を対象とした日本における権利です。
仮に株式会社ポケモンが何らかのアクションを行うとすると?
上記の検討を踏まえると、株式会社ポケモンが知的財産権を行使する可能性として、一応特許権もありそうです。
しかし、やはりクリーチャーデザインに関する著作権、不正競争行為の論点が主でしょうか。
著作物の類似、非類似に関しては専門家でも判定に困難を極めるために、軽率に意見を出すべきではないでしょう。
一部のパルと一部のポケモンとの間に共通点とみられる部分があるとしても、それがアイデアの段階にとどまり、具体的表現として一致しなければ、著作権の侵害とは言えないでしょう。また、不正競争行為については様々な論点があり予測が難しいです。
ここからは、いちゲームプレイヤーとしての素朴な感想ですので、知的財産法の専門家としての立場を離れたコメントであり、所属する事務所とも関係がありません。
たとえばツッパニャンという序盤パルがいますが、これを見ても何か特定のポケモンを思い浮かべるということはありません。
(参考まで↓)
一方で、「ムラクモ」というパルは、「コバルオン」に相当似ているように感じてしまいます。知的財産権に詳しくない第三者が騒ぎ立てるというのもわからないという訳ではないようです。
このように、一部ちょっと微妙だなぁというケースまで、ちょっかいを出すべきかどうかという判断は、かなり難しいように思います。
同一とはいえないまでも、かなり挑発的なデザインとはいえるかもしれません。そのため多くの意見が上がっているのでしょう。
また、上記したように、パルのようなクリーチャーが、労働力、食料として酷使されるということに耐えられないというポケモンファンが一定数います。知的財産的にどうかというよりも、このような声に応えるために、ブランド管理者としてなんらかの行動を起こすべきか否か、という論点もありあそうです。
仮に負ける確率が高いとしても、アクションを起こさなければならない、という経営的判断もありそうです。
今後に注目です。
弁理士法人 前川知的財産事務所
弁理士 砥綿洋佑