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人(特に男性)はなぜ筋トレに夢中になるのか

Organizational Behaviorの授業中に、あるグラフを見ました。それは組織のアウトプット(結果や成果)とコンフリクト(争い、緊張感)の相関図で、コンフリクトが高まると組織のアウトプットは増えるが、一定程度でいわゆる「効用の逓減(ていげん)」がおき、閾値(しきいち)を超えると逆にアウトプットが落ちるというグラフです。

わたしの頭の中はおそらく授業後に行う予定の筋トレでいっぱいだったのでしょう、このグラフが、筋肉が一定レベルを超えてもりもりになると、女性からはかえって気持ち悪がられていく曲線に見えました
そして、筋トレ男子の満足度は効用逓減なく、一直線にリニアに伸びていく、要は永遠に満足しないという一本の線も見えました。
こんな感じです。

赤い点は散布図らしくするためそれらしくプロットしたもの

そして自分はなぜこんなにも筋トレが好きなのか、男のDNAに刷り込まれているものなのか、何か自分でも気づいていない目的があるのだろうかと考えてみました。
考えれば考えるほど、筋トレは理屈に反しています。


■ 筋トレは自然の摂理に反している

筋肉がつく仕組みは、筋肉に刺激を与え筋肉の防衛本能を利用し、次にこのような刺激が来ても耐えられるように、ちぎれた筋繊維をつなぎなおすときに太くしていく過程です。
筋肉たちも一生懸命PDCAサイクルを回しているんです。

身体は最低限の筋肉しか必要としていません。飢餓に備えて脂肪を蓄えるのが本来の身体なので、代謝が高く脂肪を燃焼させやすいいわば燃費の悪い筋肉は必要最低限におさえようとします。
なので、身体は飢えると先に脂肪より筋肉を減らそうとします。ボディービルダーはせっかくつけた筋肉が減らないよう、身体を飢えさせないための栄養をこまめにとりに行きます。

身体の本能的な機能の結果、筋肉は個人差はあるものの、つきにくいし大きくなりにくいです。手を変え品を変え、筋肉や身体をだまし、錯覚を起こさせながら摂理に反して筋肉を増量させていく地道な作業が筋トレです。

筋肉をつけるための筋力トレーニングで必要とするカロリー、筋肉の回復に必要なタンパク質は、食料不足の世の中に反する行為です。パレート最適(資源配分が自然ともっとも効果が高まるように最適化されること)を完全に無視しています。
筋肉もりもりの人がさらにもりもりになるために必要とするカロリーと栄養素は、ガリガリに痩せた人間をより効果的に太らせられますからね。

■ 人間の楽しみや満足度は逓減していくのが普通なのに、筋トレには効用の逓減がない。

「効用の逓減」という、ほぼすべてのものに当てはまる人間の本能的な満足度の仕組みがあります。
のどが渇いているときにビールを飲んだとします。その後も立て続けにおかわりしていくと、最初の一杯、最初の4,5口に感じるおいしさと、最後ぐだぐだになって飲み続けているビールのおいしさは違います。
おいしさの効用が、満たされていくにしたがって減っていく(逓減していく)現象を説明する概念です。

効用の逓減が人類に組み込まれたことで、さきほどのパレート最適が成り立ちやすくなります。より効用の高い人にものが行きわたるのは、われわれ人類が飽きてくるからです。いつまでも効用が続くと、永遠に満たされず限られた資源をめぐって争い続け、人類は滅びてしまうでしょう。

ところが、筋トレには効用の逓減はありません。どんなに筋肉がある人でも、もっと筋肉をつけたい、弱い箇所の筋肉をつけて筋肉の形状やバランスをより完璧な状態にしたいとなります。ボディーメイクというやつですね。
筋トレをしてベンチプレス100㎏をあげたいというのはよく聞きますが、100㎏あがったからもういいとはなりません。もっとあげたくなります。

■ そもそも理想のからだは誰が決めたのか、本能か、子供のころの影響か、明確に定まっているのか

夏が近づき薄着になったり裸になる機会が増えると筋トレやダイエットの季節が始まります。やめていた人も復活するときです。

そもそも人はどんな身体を目指して筋トレするのでしょうか。
女性に細マッチョがもてると言われ、細マッチョを目指す人もいるかもしれません。
あるいは、わたしの年代で多いブルースリーの身体のようになりたいという人、映画でみたシルベスター・スタローンやアーノルド・シュワルチェネッガーの身体にあこがれた人もいるかもしれません。

このよい身体の定義って時代によって変わりますし、個人の感覚差も大きいです。
例えば、よく言われるのは、女性の考える細マッチョはただのガリガリで筋肉はないのに対し、男性の細マッチョは筋肉はかなりあるブルースリー並みとか。

ボディービルダーのコンテストの優勝者の写真は年代で全く違います。トレーニング方法や栄養摂取の方法が進化してより大きい筋肉がつけられるようになったのもあるかもしれませんが、はやりはあります。

あと、わたしの体験やまわりの人を観察してきた結果ですが、人は筋トレを始めたころと、筋トレに夢中になっていくころで、考え方が変わっていることが多いです。
女性にもてようと思って始めた人が、もてるとかすっかり忘れて筋肉を増量することに夢中になるとか、筋トレの知識が増えたりすごい筋肉を見たために方向転換してしまうとかです。

■ 筋肉をつけて何をしようとしているのか不明

そもそも筋トレは、純粋に筋肉の形やバランスがよくなるよう、またそれぞれのパーツのボリュームが出るようにボディーメイクを目的としてトレーニングするものです。
もちろん初心者やただ重いものを持ち上げる喜びに満ち溢れているタイミングでは別ですが、いかに狙った筋肉を効果的に刺激するかフォームや重さ、回数を考えてトレーニングします。わたしはしょっちゅうYouTubeの筋トレ動画を見てトレーニングの参考にしているので、ネットニュースでは頼みもしないのに、勝手にボディービル大会の結果や写真が上がってきます。そしてついクリックしてしまうので、さらにエンジンが錯覚しボディービル関連の記事を上げてくるという悪循環に陥っています。

でも、わたしを含め多くの人間が夢中になっている筋肉について、その筋肉が何か日常生活で役に立つのかといえば、全く役立つことはありません。何か実用的なことに役立てようと筋トレしているわけではないからです。
アスリートが筋トレするのは目的があります。アスリートは筋肉の見た目をよくすることが目的ではなく、パフォーマンスを上げるためにトレーニングします。結果筋肉がついて見た目がよくなるだけです。
なのでアスリートの筋トレは、複数の筋肉が連動しながら動く筋トレがメインになり、純粋な筋トレマニアのような、一定の筋肉だけを大きくしようというトレーニングにはなりません。

筋トレ愛好者は、使わない筋肉を形をよくするためだけに一生懸命増やそうとしているのです。

しかもわたしの感覚では、筋トレを日常的にしたり筋肉がついてくると、身体が熱くなりやすいです。せっかくインドネシアの気候になれ、朝晩に冷え込むときは寒いと感じていたのが、暑いと感じるようになってしまいました。

■ それでも筋トレが好きなのは、やればやっただけ効果が出るから

どんなに運動神経がわるい人も、スタイルが悪い人も、筋肉がつきやすいつきにくいの個人差はあるものの、必ず筋肉がつき、身体つきが目に見えて変わる効果を実感できます。

ランニングや勉強と同じですね。時間をかけて努力を継続すると必ず成果が出ます。

この誰でもできる小さな達成感を得られることで、心が繊細な人は心の均衡を保っているのではないでしょうか。

これは昔ある会社に所属していたときに同僚の1人が言っていたことなのですが、「いやな上司にいやなことを言われたとき、心のなかで”お前ベンチプレス50㎏もあがんないだろ、おれは90㎏あがるからな”、と考えると心に余裕が生まれ、精神的に追い詰められない」そうです。
年功序列の世の中では上司はたいてい年をとっておりたるんだ身体をしているでしょう。それに対し筋トレをしてバキバキの若者は、「お前そんな情けない身体で恥ずかしくないのか、俺の方が生存競争力高いぞ」と精神的に優位にたて、病まないのでしょう。

わたしは日々成長しているという実感を得られるスポーツなところが、これだけ筋トレ人気が広がり続けている理由だと思います。
筋トレにかけた時間は決してわれわれを裏切りません。(すいません。「筋肉は裏切らない」は意味が不明確なので、より適格な表現に変えさせていただきました)
他人ではなく、自分自身にベクトルが向いてより自分を高めたいとなるナルシスト向けのスポーツなんです。
女性にもてたいと思って始めた人もいるとは思いますが、いつしか、女性にもてようがもてまいが、俺の筋肉にはまったく関係のない話だと考えるようになるのが筋トレ愛好家です。

主体は俺の筋肉であって、俺ではない、というところがポイントです。筋トレ愛が進み始めると、自分の身体の一部なのに、あたかも別人格を持った友人のような感覚を筋肉に抱き始めます。
おそらく、筋肉ほど自分の思い通りにならない存在はないと感じ始めるのだろうと思います。アーノルドシュワルチェネッガーの発言にもよく、筋肉を別人格のように扱っているものがあります。例えば「筋肉がNoと叫べば、自分はYesと答える」など。筋肉は裏切らないという言葉も、アーノルドの言葉ではないですが、同じように自分の筋肉を別人格として扱っています。

今日この瞬間にも、地球上のどこかで筋トレ後に鏡を見て悦に浸っている筋トレ愛好家がたくさんいるでしょう。
わたしのざっくり計算では、この1秒の間に地球上のどこかで1000人が鏡で筋肉を見ています
世界のフィットネス人口1億人(幽霊会員のぞく)、コアな筋トレ人口1000万人、一人平均1日10秒鏡で筋肉を見ている=1000万×10秒で1億秒の筋肉観察時間が発生。
1日は86,000秒(60秒×60分×24時間)なので、1億÷86,000=1,162
コアじゃない順コアを入れると、2000人/secですね(筋トレ人口が4000万人になり、1日平均5秒に落ちるため、2億秒の筋肉観察時間になる)

筋トレ愛好家に幸多からんことを。


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