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スマトラ島の温泉をめぐる旅 17日目 ひなびた温泉街とパガルユン王家の諸行無常
ブキッティンギの見どころは郊外に多いと言われ、その中の1つが焼き討ちや皆殺しにあったパガルユン王家の宮殿を復元した場所だ。近辺に伝統建築や王家の墓地もある。王家の名は地名として今も残っている。
そして、ブキッティンギとパガルユンの間には温泉がある。
そこは日本のひなびた湯治場を思わせる温泉街だった。
そしてもう一つ、美しいカルデラ湖の湖畔に湧く足元湧出泉も訪ねた。
1.王家の宮殿
ミナンカバウ族はブキティンギを中心に広範囲に広がる民族で、少数民族と言えないほどの人口を誇る。
そして世界でも稀な母系家族という特徴を持っている。
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この宮殿にはコスプレをしてカメラマンに写真を撮ってもらっている人が多い。
これは結構お年を召したカップル。
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次は中年の夫婦
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わたしはコスプレなしで、正面の玉座と思しき場所に座り記念撮影。
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この建物は細かい部分まで彫刻彩色しており、大木が惜しげもなく使われている。
建物の大きさ、立派さはインドネシアでトップクラス。首里城の正殿を思い出させるほど。
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3階建てで、1番上の部屋は王様の宝置き場だったと言われている。
写真は3階窓から外を撮影したもの。
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ミナンカバウは2000年前から集団の人々が暮らしていた豊かな土地。
カリマンタン島に定住していた人々が集団で、マレー半島とスマトラ島に移住したと言われる。彼らをプロトマレー人という
集団移住は5世紀にも起きたようだ。
また13世紀には金の産地として経済力を持った、ヒンドゥーの影響を受けた王国があったことが知られている。残念ながら文字が解読できない石碑があるばかりだ。
中国やジャワの王国の記録に残っている。
日本でいう魏志倭人伝の世界と同じで、他国の記録から自らの歴史を知るしかない。
パガルユン王家は、調べた限り人口の割に強大ではなく、他国に攻め込んだりもしていない。
またイスラム化も遅れている。
元々母系社会を中心とした独自の文化・慣習が強く、イスラム教の教えが入りにくかったのだろう。イスラムの教えに基づいた社会にしようとしたイスラム原理主義のパドリ派と、慣習に基づく社会を維持したいアダット派による対立が、内乱とオランダの介入を招くことになった。
また貿易への依存が低かった可能性はある。イスラム化はイスラム商人との交易拡大に伴い、王がスルタンとなり民衆のイスラム化を促すケースが多い。
ミナンカバウは、男性が外に出ていく慣習からインドネシアやマレー半島に拡大したものの、組織というより個人的な商活動だった。王家の立地が内陸の高地にあるのを見ても、外の刺激を受けにくかった可能性がある。
パダンには、インドネシアではよくある地元の英雄の名を冠した空港や大学はない。ミナンカバウ空港だ。
中央集権的ではなかったのかもしれない。
パドリ派とアダット派の対立を受け、アダット派の王家はオランダに支援を要請している。王の苦悩が目に浮かぶ。
このパドリ戦争の最中、王宮はパダット派の焼き討ちを受け、王と親族は首を刎ねられたという。
パドリ派は改革派なだけに、より文明の利器を使い、最新兵器と軍制で王家の軍を圧倒したのだろう。
最後の王となるアラムは、焼き討ちの後ジャンビに逃げ、後にパドリ派を駆逐したオランダからこの地に呼び戻され、傀儡のまま亡くなった。
この宮殿を復元したのが写真の建物。
この建物からは、悲劇の歴史は感じ取れない。この宮殿や横の資料館には一切書かれてはいないせいもある。
だが、王家にまつわる悲劇を知ってから見ると、往時の繁栄を忍ばせる豪華さが、かえって雄弁に諸行無常を物語るようだ。
墓地と他の宮殿
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2.温泉をめぐる
3カ所回る。本当は4ヶ所見つけていたが、山道が崩れて通れないことはないが危険と聞いたためやめた。
(1) パリアンガン/ランゲ・トゥジュア温泉(pariangan/rangek tujuah)
ミナンの道は迷いやすい。道が無意味に多く、交わる時の角度が直角じゃない。しかも山がちなのでクネクネしており方向感覚を失う。
わたしは間違えた道を進んだことに気づいても、引き返すのが癪なので多少遠回りでも新しい道を通っていった。
ヨーロッパであればでこぼこの丘陵地帯に一面の小麦畑や牧草地が広がりそうな地形だが、この地は一面の田んぼ、棚田が見られる。
こんなに米が取れるから人口が多いのだろう。
他の特徴としては、山が多く谷に沿って抜ける峠道が多い。
そして意外だったのは、ミナンカバウ族の名前の由来である水牛を見なかったことだ。
ミナン=勝利、カバウ=牛の意味で、次のような逸話が残されている。ジャワ人の勢力がミナンカバウに攻めてきた時の話と言われているので、王子とはジャワ人のことを指す。
ミナンカバウ人と対立していた王子が境界をめぐる争いを行っていたという伝説がその名前の起源とする。
その伝説によると、戦いを避けるために、二頭の水牛を争わせる事を現地の人々が王子に提案した。王子はその提案に賛成し、その戦いには大きく、もっとも凶暴な水牛を戦わせることとした。一方、ミナンカバウ人は、ナイフのように切れ味が鋭い角を持ち、飢えていた赤ちゃんの水牛を戦わせることとした。戦いになると、赤ちゃん水牛はミルク欲しさに、大きな水牛のあとを走り回った。大きな水牛は赤ちゃん水牛に対し、虞を感じなかったため、赤ちゃん水牛を自らのお腹の下に招きいれてしまった。赤ちゃん水牛はお腹の下に入り込み、上を見上げると、その鋭い角で大きな水牛の胸を破裂させてしまい、大きな水牛は死んでしまったという。
この逸話が示すように、ミナン人は華僑に負けないほどの抜け目のなさと商才で有名だ。ジャワの貧しい女性は街に出てお手伝いさんになる者が多いが、ミナン人は、天秤棒や荷車で商売する人が多い。
全国各地に散らばったミナンネットワークを使う。
温泉へ
温泉街への道は分かり辛く、一回通り過ぎてしまった。
細道を進むこと数十メートルで、道は階段になる。ここでバイクを止めて歩いて階段を降りていく。
温泉の青い建物が下に見える。
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浴場の横の店のおばちゃんに5000ルピア(50円)払う。
建物の中は屋根のないプールになっていて、着替える場所も荷物置き場もない。
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温泉は少しミネラルを感じるくらいでさっぱりしたお湯。温度は38度くらいとぬるいが気持ちいい。
源泉は壁を隔てた向こう側で地下というか横の壁面から大量に湧き出ているようだ。熱源は活火山のムラピ山。
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温泉を出て戻る途中の階段から町を改めて見ると、坂道がおおく、建物に統一感がある町に見えたので見学することにした。
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結果としてこの好奇心が幸いした。
共同浴場があったのだ。
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男湯は分かりにくい。子どもたちに教えてもらった。
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地下に入ってまず現れるのは、男湯の建物。
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地下に見えたが、川沿いのエリアにおりていったことになる。
地下と思ったら1階だったというのは、温泉街あるあるでワクワクする。
ここはスペースを区切った打たせ湯が10以上ある。
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すべて熱い源泉が惜しげもなく注ぎこまれている。
そして特筆すべきは、湧きたての湯を浴びる小屋
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写真だと分かりにくいが、壁の向こうは剥き出しの岩壁で、ここからお湯が噴き出している。
身体の調子が悪いところにお湯をあてるのが、この温泉の正しい湯治法らしい。結構熱いが、おじいさんはずっと足首にお湯をあてていた。
川沿いに自然に噴出しているところや、坂が多いところが、日本で行ったことがありそうな温泉だ。
ちょっと違うが、大分の杖立温泉や湯平温泉みたいな感じがする。
(2) アイアアンゲック温泉
次も分かりにくい。
横道に入っていくつか曲がりながら一本道を進んでいくとある。
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集落の中心にドンと構え、周りが広場になっている。まさに北陸地方に多いに総湯と同じ構図だ。
このエリアは池だらけで、湧き水が多いように見える。
山の斜面が終わる地点は、地質が水はけのよい溶岩だと特に水が湧きやすい。
ムラピ山のふもとなので十分にあり得る。
中はプールになっている。
入るとぬるいを通りこし冷たい。
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先客の小学生によれば、時間帯により温度が変わるそうだ。彼は冷たい方が好きだからこの時間に来たと言っていた。
女湯の方から家族連れが髪を濡らしたまま出てきて、そのまま4人で楽しそうにバイクに乗って帰って行く。
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地元民に愛される、日本の共同浴場を思いだした。
(3) 湖畔に湧く足元湧出泉
ブキッティンギの近郊に美しいカルデラ湖があり、その名をマニンジャウ湖という。
そのほとりに、Aia Angek(air hangat=暖かい水)という名の温泉があるのを見つけた。
マニンジャウ湖に行くには40以上のつづらおりの坂を降りて行く必要があり、距離もまあまああるので優先順位は下げていた。
2つ目の温泉を出た時点でまだ14時だったため行くことにした。
事前に画像をチェックしていたので、通りの奥まった場所にある建物を見てすぐに分かった。
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店で駐輪代2000ルピアと、任意の入浴料を払い入る。
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早速浸かって見ると驚いた。
底が砂地になっていて、底から小さなアブクが次々と浮かび上がってくる。
足元湧出泉だ。
温度は若干ぬるめ。37度から38度くらいか
無味無臭の単純温泉。肌にアブクはつかないので、炭酸泉ではない。
柔らかな肌ざわりといい、鮮度といい名湯と言えるだろう。
帰り道は途中で夕立に見舞われた。
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夜は外人用のビールを出す店に行く。
パダンではビールを売っている場所は限られるはずだ。いまのうちに飲んでおくことにした。
今日の地図
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