[ビジネス小説]未来へのプレゼン 第21話 別れは突然に
前回のあらすじ
8回目のSDGsプレゼンが終了した。
それはプレゼンの本質である、質疑応答の大切さを知ることだった。
丸山部長が最後に課長陣に話した内容が今でも印象的だった。
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丸山はホワイトボードに向かいながら次のような言葉を書いた。
不信 不安
「みなさんに知っておいてもらいたいのですが、決裁者が社長であれ、役員であれ、部長であれ、課長であれ、誰からの提案であっても、最初はその提案をする人に対して
不信感
でいっぱいです。
そして、そのような不信感を持った人が提案する内容は
不安
でいっぱいです。
それを払拭できるのは、プレゼンではないのです。
プレゼンは情報を提供するだけです。
その後の質疑応答。
これが相手の不信と不安を払拭して
信頼と安心
を勝ち取れるのです。
今回のこの信頼と安心を勝ち取ることが出来たかどうか。
今一度考えてみてください。
どうすれば良かったのか。
何を考えておけば良かったのか。
これができるかどうかがプレゼンの質が上がるかどうかの大きな乗り越えなければならない壁ですし、できる方は普段意識もせず空気を吸うように、当たり前にできています。」
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あれから1ヶ月が経った。
この1ヶ月は、激動の1ヶ月となった。
丸山部長が会社を去った。
それは急な出来事だった。
プレゼンノックはもちろんまだ半ばであった。
信頼と安心の言葉を残した翌週の月曜から丸山部長は出社していない。
理由は一身上の都合とのことだけを役員から伝えられたが、
自分たちにすら何も告げずに急な退職となった。
「内藤さん。何か聞かれてましたか?」
慎吾は内藤とオフィス側のスタバにいた。
「いや。。。全くだ。それは他のメンバーも一緒だ。」
内藤はコーヒーをすすりながら窓から見える向かいのビルとビルの間を足早に行き交う人たちを見ていた。
「ご家族の都合でしょうか。。。仕事上のトラブルなんかはなかったように思うのですが。。。」
慎吾が話しかけてもしばらく沈黙が続くようになった。
一つ一つの言葉を選んでいるように思えた。
「・・・。そうだな。スマホの番号も変わっているから連絡も取れないし、SNSも丸山部長はやっていなかったから正直よくわからない。。。」
この情報社会の中でここまで痕跡が残らないのも珍しい。
そして、ここまであっさりした会社からの去り方も、内藤だけでなく他の社員も味わったことがなかった。
ある意味、失踪したような感覚の方が近い。
お別れの謝恩会もなく、
次にどこに行って何をするのかを告げられもせず、
ただただ急にいなくなった。
「・・・。
今は。
いなくなった理由を探すよりも。
いなくなっても自分たちがやるべきことは変わらずに
日々の仕事がある。
何も変わっていない。
ただ、丸山さんがいなくなったことに違いはない。
自分たちでやるしかないんだ。」
内藤は慎吾に話しながらも自分に言い聞かせていた。
今回の丸山の退社で内藤は課長から部長代行に肩書を変えることになった。
しかし急に与えられた部長代行という職務には正直なところ戸惑いがあった。
丸山からプレゼンノックでプレゼンのこと以上に学ぶべきことが多いと思っていた矢先であったからだ。
プレゼンのテクニックを通してプレゼンスキルが上がっていくのはもちろんだが、それ以上に丸山の考え方や意思決定する上での判断基準、スピード感、時間軸、優先順位の決め方など自分がいつか担う日が来るであろう部長のポジションに向けて色々と学べる人であると思っていたからだ。
それは、内藤自身の自分の力量が足りていないことを自分自身が一番理解していたからでもある。
丸山がこの部署に来るまで、内藤は自分自身が慢心していたことを気づかずにいた。
このままではダメだと気付かせてくれたのは丸山の存在そのものであり、彼がいなくなることは内藤が自分で思っていた以上に精神的なダメージとなってのしかかっていた。
その丸山が退社する決断をしたのだ。
その真意を知りたくないといえば嘘になる。
『やるしかないんだよな。。。』
内藤がコーヒーに口をつけたのは最初だけだった。
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慎吾は外を眺める内藤の立場を想像しながら言葉を聞いていた。
『急遽、部を任されるという心境はどういうものなんだろう。』
実務における会社からの期待と丸山部長の後任を務めるというプレッシャーが半端じゃないように思えた。
『自分が内藤さんの立場だとしたら、一つ一つの決断に迷いが出てしまいそうだな。。。』
慎吾のiPhoneの画面が明るく光る。
佐々木からのメールが届いた。
< MIYABE.COから連絡だぞ〜。急いで戻れ( ̄^ ̄) >
「内藤さん、すみません。ちょっと先に戻ってます。MIYABEから連絡だそうです。」
慎吾は<了解です!>と佐々木に返信を打ち返しながら席を立った。
「ん。あぁ。わかった。」
内藤は一瞬吉田の方に顔を向けたが、すぐさま外に目をやって生返事を返してきた。
慎吾は内藤のことが気になりながらもオフィスへと急いだ。
『今は。。。
目の前の仕事に専念しよう。
今、自分にできることはそれしか。。。』
丸山から目をかけてもらっていたことを実感していた慎吾は、
丸山が急に去ってしまった寂しさと虚しさと
これからの自己成長のスピードが鈍化する悔しさと同時に
丸山に依存しすぎていた自分自身に気づいた。
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「おっそい。MIYABEから電話。
ほれ、お前さんが失注したMIYABEさんとこの山下さん。
よろしく〜。」
佐々木課長がポストイットに書かれた『MIYABE.COの山下さんよりTELあり』と書かれたメモを渡してくれた。
なんだかんだで、いつも優しく見守ってくれる佐々木課長に感謝しながらMIYABE.COに連絡をした。
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「お世話になります。フロンティアワールドの吉田です。山下様お見えになりますでしょうか?」
「あ、どうもご無沙汰しております。山下です。お電話失礼いたしました。」
「いえ。とんでもないです。その節はお世話になりました。いかがされましたか?」
慎吾は既に橘からMIYABEに提案していた案件の採用に関することだとすぐに理解した。
「実は、以前御社の橘様にご連絡した『東京オリンピック・パラリンピックに向けて日本文化をPRする戦略提案』ですが。。。」
プレゼンノックをしながら、橘と素案を練ってMIYABE.COに提案したPR戦略はSNSとリアル店舗を連動させてオンラインストアで伝統文化グッズを訴求するPR戦略だった。
丸山部長からもGOサインがかかった企画だっただけに自信があった。
「はい!いかがでしたでしょうか?当方は全面的に・・・」
山下は慎吾が最後まで話切る前に言葉を制した。
「あの、すみません。その件ですが、とても残念ですが別の企業様の案に採択されましたので、取り急ぎのご連絡となります。」
慎吾は動揺した。必ずいい線を行くとこれまでの経験上手応えもあり、さらにプレゼンノックや丸山のお墨付きまであった企画書だけに自信があったのだ。
「え?
あ、はい。
そうですか。。。
・・・残念です。。。
あの。。。
ちなみに、どちらの企業に採択されましたか?
可能であれば教えていただけますでしょうか?」
「すみません。そちらはお答え致しかねますが、ただ、1点お伺いしたいことがありまして。。。」
断られるであろうことはわかっていただ、今回の案件は聞かずにはいれなかった。
そんなことよりも、という意味合いで山下さんが尋ねてくることの方が気になった。
「。。。はい。どういったことでしょうか?」
「すみません。お忙しいところ恐れ入りますが、御社にお見えだった丸山様はいつごろ退社されましたでしょうか?」
慎吾は耳を疑った。
「はい?」
『なぜ丸山部長の名前が。。。』
「あの〜。確か、吉田様のセクションの部長職で丸山様がお見えになられたかと思いますが。。。」
なぜMIYABE.COから丸山部長の名前が出るのか、まだ慎吾は理解できなかった。
「はい。。。1ヶ月に退社したのですが。。。
。。。もしかして、
・・・丸山さんが今回の案件に絡んでますでしょうか?」
「あ、いえ。1ヶ月前に退社されたのですね。。。
ありがとうございます。
事実確認をしたかっただけですので。
ありがとうございます。
この度はとても残念ですが、また今後ともよろしくお願いいたします。
失礼いたします。」
電話を切った後、自分のデスクの周りに佐々木さん、土屋さん、藤井さん、部下の橘たちが集まっているのに気づいた。
「丸山さんの居場所がわかったの?」
佐々木が正面で腕組みをしながら慎吾に話しかける。
「いえ。。。
ただ、MIYABE.COからいつ頃退職したのか?と聞かれました。。。
なぜMIYABEから丸山さんのことを聞かれるのか。。。
。。。
。。。
。。。
何かあったんでしょうか?」
「少なくとも。。。」
藤井課長が佐々木が書いたポストイットのメモを取り上げた。
「この会社との関係がゼロではないことがわかりましたよね。。。」
慎吾は藤井課長からポストイットを半ば奪うように取り上げた。
「橘!
行くぞ!
MIYABE.COへ。。。」
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