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[ビジネス小説]未来へのプレゼン 第17話 企業価値を2倍にするために必要なこと

前回のあらすじ


慎吾は企業価値を2倍にする他のメンバーのプレゼンを聞いているだけで学びが多かった。

一方、丸山はじっと見ているだけだった。笑いもしなければ、叱りもしない。フィードバックは、

「ありがとう。」

の一言を伝えるのみで、それぞれの提案に対して個別のフィードバックは行わない。

最後にまとめてコメントをするようだ。

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それぞれのプレゼンが終わると、丸山はみんなを見ながら話し始めた。

「皆さん。お疲れ様でした。

本日の、企業価値を2倍にする提案。

正直、どれ一つとして実現しないでしょう。」


皆、一言も話さない。


沈黙が包んだ。


「なぜ、一つも実現しないのか。」


「その理由は、

1.実現可能性が低い

2.ワクワクしない

3.プレゼンターが最後までこの提案をやり切ろうと思っていない

この3つです。」


最もな理由だが、3つ目はズシンと課長一人一人の腹に響いた。


『やり切ろうと思っていない。。。』


慎吾は自分のプレゼンを振り返った。

確かに、作成しているときは社長であれば。。。と考えながら作成したけれども、当事者としてこの事業を行うとした場合、本当にこの通り実施するかと問われると難しいように思えてきた。


丸山が続ける。

「1.の実現可能性の低さは、会社のことがまず、理解できていない。そして、ロジックが破綻しているものがほとんどだった。それと、あまりにも自社に都合が良いシミュレーションで見込みも甘すぎる。根拠も乏しい。

2.はそもそも2倍にすることに焦点を当てすぎて堅実に狙いに行っているのは良いけれども、多くのステークホルダーがワクワクするような、そして社員がワクワクするような内容ではない。
未来がワクワクするようなものがビジョンとして掲げられて、その上で具体的な戦略が語られるから説得力が増す。
未来に希望を抱かせなければワクワクしない。

そして、3.はやり切る、やり抜く胆力が感じられない。
この提案はいいですよ。良かったら採用してください。
でも、私は当事者ではありませんから実行者は別ですよという他人事の提案であるように伝わってくる。つまり、そもそもこの提案を本気でやることが腹落ちしていないうわべのものなんだということが見て取れる提案でした。

したがって、総括すると誰の提案も提案にすらなっていないというのが今日の感想です。」


課長陣の惨敗。

個々人が考えてきたものは、丸山の想定内というよりも土俵にすらあがっていなかった。

これまで、企業の価値を2倍にすることなど通常の業務で考えたこともない案件であるため、慣れていないことやそもそもどうやっていいかわかっていないこともあるが、それは提案するまでに自らが学んでいて当たり前のこととして切り捨てられたようなものだった。


「丸山部長。質問です。」

内藤が続ける。

「今回の課題。色々と考えたのですが、全員詰めも甘くロジカルさに欠けて希望的な観測のみのものであったことは皆理解したと思うのですが、具体的にこれからどういう風にこういった提案をしていけば良いかアドバイスをいただけませんか?」

「そうそう。正直難しかったですよー。社長になって考えることなんかやったことなかったので何だかピンとこなかったですし。」

佐々木も続けた。


「そうですね。では、今後のために少しでも参考になれば。。。」

丸山がホワイトボードに向きペンを取り出して話し始める。

そこに右肩上がりの線を引きながら、

「私も、過去に同じような提案をしたことがありました。

その時、自分に足りなかったことは

『2倍にしたければ2倍で終わらせる提案をしても2倍にはならない』

ということ。

ビジネスはずっと続く。
もちろん、良い時も悪い時もある。

だが、見える景色を低くしてはいけない。近くしてはいけない。

より高く、より遠くまで見る必要がある。

2倍を目指したその先の4倍や10倍までイメージできるかどうかが大事だ。

そこまでイメージができれば目の前の2倍は容易い。

だから先まで考える『未来志向』が重要であると教わりました。

そこから物の考え方や捉え方が大きく変わったんです。

事業を行うには絶えず先を見る。

迷ったら先を見る。

自分だけじゃない、自分が退いた後のその先の未来も含めて責任を持って見ることが出来るものこそ実現できるんだ。

そんなことを学ばせてもらいました。


今一度、皆さんに問いたい。

本当に個々人のプレゼンはとことん考えたものかどうか。

最後まで自分がやり切れるものかどうか。

途中で投げ出すことなく、ロケットのように打ち上げが成功して、2段目、3段目のブースターに点火をさせてより高く、より遠くへ飛ばすことができるかどうか。


次回はSDGsの提案だけど、明日からしばらく出張が入るので、1週間後に次のプレゼンノックを行うから、それまでしっかりと考えみてください。

プレゼンの基本は考えること。

時間を捻出して考えてみてください。

以上。よろしいですか?」


「ありがとうございました!」

「ありがとうございました〜。。。」

皆が一斉に席を立ち、自席へと戻っていく。

そんな中、慎吾は一人残って丸山部長に聞きたかったことを投げかけた。


「部長。部長は、ご自身の人生においても、先ほどのような長期的な視点で見られていますか?」

「ん?そうだなぁ。結構しっかりと考えている方だと思うよ。自分の人生だからね。」

「ありがとうございます!今日も勉強になりました!次回はいいものを提案できるように頑張ります!!」


慎吾は丸山部長の本当の姿をやっと理解できたように感じた。


一方、丸山は慎吾が聞いてきた最後の質問の重みを感じながら答えていた。


ーーーーーーーーー

内藤は今回のプレゼンを通して一人での限界を感じていた。

何かの事業を提案することは、新しく会社を作り上げていくのと同じような覚悟を求められていたことに行き着いた。

『一人一人のプレゼンでは、得意不得意もあり、限界があるな。。。』

内藤は課長陣全員にスマホから課長陣のSlackにメッセージを送った。


すでに皆帰宅している。

それぞれの自宅でスマホがあかりを灯す。


「課長陣へ。プレゼン合宿しませんか? 内藤」


あっという間に全ての課長陣の既読マークがついた。



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