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[ビジネス小説]未来へのプレゼン 第7話 生い立ちプレゼン

10日間のプレゼンノック。


2日目は生い立ちを伝えるプレゼン。

26年間の生き様と言ってもどこを切り出すか悩ましい。

22歳までの学生時代のことを伝えるのもなんだか幼い気もするし

社会人になってからの4年間のイベントといってもそれほど誇れるようなものがあるわけでもなく、大きな挫折があるわけでもない。

平凡なこれまでの26年間のどこを切り取るかの前に

そこにそもそも伝えたいメッセージや自分の中に人生のポリシーが明確にあるわけでもなかった。


たかだか3分間のプレゼンを作るだけなのに

その実その裏側にはとてつもない工数がかかることを改めて理解したのだった。


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そもそも、何を伝えようか?

そもそも、なぜこの会社に入ったんだろうか?

そもそも、働くことを通して何をしようとしているんだろうか?

そもそも、何を目標にして生きているんだろうか?

そもそも・・・

ーーーーーー


3分プレゼンは、何かしら事実を並べる行為ではなく

その事実を伝えながら自分の考えを伝える行為であること。

つまり

自分自身のことをわかっていなければ伝えるスキルがあっても伝えたことにはならないのだった。


慎吾は人生の生い立ちを遡りながら改めて自分が行ってきたことを書き出してみた。


<幼稚園時代>
・折り紙が大好きだった

<小学生時代>
・ブラスバンドでトランペットを担当した
・生徒会の書記を担当した

<中学生時代>
・生徒会に所属した
・バレーボール部に所属した

<高校生時代>
・地元の進学校へ
・バレーボール部に所属した
・学園祭で応援団に帰属した

<大学生時代>
・バイトに明け暮れた(ガソリンスタンド、家庭教師、バレーボールコーチ)
・教育学部に所属して教員を目指す

<社会人時代>
・現在の会社に就職
・色々な経験ができそうだからこの会社に入社してみた
・がむしゃらに与えられた仕事をこなしてやりきった結果管理職になった。


これだけではただの時系列で3分で何も印象に残せないことはわかっていた。


『もう一度だ。もう一度見直そう。何をポイントにピックアップすべきか。。。』


なかなか打開策が見えてこないなか、気晴らしにコンビニに向かった慎吾は道すがらにある掲示板にふと目をやった。

そこには夏の暑さ対策についてのポスターが掲示されていた。

「熱中症に打ち勝て!」
 ・早めにこまめに水分補給
 ・帽子や日傘で日差し対策
 ・部屋の中では風通し良く

『なるほど〜。3つね〜。こうやって3つだと文字数も少なくて読みやすいな〜。』


慎吾はコンビニでピノのアイスを買って先ほどのポスターを遠巻きに見ながら自室に戻った。

ピノを開けてラッキーピノがないことを確認したのち、一つ頬張りながら考え直す。


『3つに絞ろう。3分のプレゼンでたくさん詰め込んだって伝わらない。書籍にもマジックナンバー3が書いてあった。

3ていう数字には、相手の記憶に残る魔法の数字だ。

今回も3つだけ伝えよう。

そしてたくさん書きすぎて昨日は伝わらなかった。

今日は削ぎ落とす!!』


『では、何で3つに絞るか。。。』


もう一度先ほどの箇条書きに目をやった。


『そもそも、なんで折り紙が好きだったんだっけ。。。
あ〜。いろいろ作ったら親が褒めてくれて、それで本を読んでいろいろ作ったな〜。そのうち難しいのが作れるようになってハマっちゃったよな。。。

ブラスバンドは先生に勧められたのもあったけど、トランペットのあの金色の金管楽器が格好良かったんだよな〜。あの張った音色、弾けそうな音が誇らし気でどこまで高い音が出せるかを夢中で吹いていた。
そのうち、みんなでの演奏で奏でた全体の一体感が最高に気持ちよかった。
あの感覚を味わいたくて練習を続けたよな。


・・・。そうか。

これらの出来事の


「なぜ?」


を考えれば絞り込みのヒントになりそうだな。。。』


慎吾は、なぜその部活を選択したのか?

なぜその学部を選択したのか?

なぜ今の会社を選んだのか?

全てのなぜを考えていった。

もちろん、その時には考えていたことだから、「なぜ?」を通して振り返り、棚卸しをすることだった。

それを繰り返すうちに見えてきたことがあった。

それは、それぞれの選択をした時の判断基準だった。


なぜ教育学部に進学したのか?→教師になりたかったから。
なぜ教師になりたかったのか?→小学二年生の時の担任の先生が親身になって接してくれたから。
なぜ教師になっていないのか?→教員採用試験で合格できなかったから。
なぜこの会社に入社したのか?→いろいろ経験できそうだから。
なぜそう思ったのか?→多くのクライアントに合わせて自分たちで企画して提案、実行できる環境を与えてくれそうだったから


なんとなくなぜを繰り返しながら自分の中の棚卸しを進めていく中で分かったのが


プレゼン資料に書くことと話す内容は全く別もの


ということだった。


慎吾は3分の生い立ちのプレゼンとして最終的に作ったのは次のような1枚のプレゼンになった。

クリエイティブへのステップ.001

枚数が多い必要はない。

長い文章もいらない。

何を話すかのメモも発表者ノートに書かない。

うまく話すよりも、何を伝えたいのかをしっかりイメージする。


ここまで準備をして慎吾は不安だった。

『本当にこんなもの1枚で大丈夫だろうか?

ちゃんと伝わるだろうか?

相手の立場に立てているだろうか?』


その日の夜、慎吾は通常の業務以上にプレゼンのことで眠れない夜を過ごした。


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