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[ビジネス小説]未来へのプレゼン 第8話 マジックナンバー3のジレンマ

業務終了後の2日目プレゼン。

今回から内藤課長も同席していた。

内藤さんが志願したらしい。

うちのエースである内藤課長が私のプレゼン特訓に興味を示したのはおそらく丸山部長からの一言もあったのだろう。

そんなことは構わず、今は自分に集中して生い立ちプレゼンを行った。

「本日のプレゼンテーマは、私の生い立ちプレゼンです。現在に至るまで、私を形作った3つをご紹介したいと思います。」

クリエイティブへのステップ.001

「それが、こちらの3つ。折り紙、トランペット、バレーボール。
まず折り紙。

皆さん、折り鶴は折った事ありますよね。
私は幼少期に折り紙にハマっていろいろと折ったのですが、当時100種類以上の折り紙を折ることができました。
新しいものを追っては両親や友達に見てもらって、「すごいね」と言われるのが嬉しくて図書館で本を借りてきては新しいものにチャレンジしました。
何か構造的に立体的に捉えていくのがその後も好きになっていきました。


続いてトランペットです。
金管楽器のトランペットはブラスバンドに所属して先生から進められた楽器でした。それまでは吹いたことがないので音が出るまでに約1ヶ月はかかったと思います。さらにそこから出る音の音域を広げていくのにも思い描いた高さの音が出せるようになるまで約1年かかりました。
毎日毎日マウスピースをポケットに入れて暇があるとプープープープー鳴らしては理想の音域が出るまで吹き続けた日々でした。
それが苦しいわけではなく、音が出せるようになった時が楽しかったんです。
そしてその音が出せたことでブラスバンドで奏でる演目の幅が広がったことも私にとっては誇れるものとなっていきました。

最後にバレーボール。これは・・・すみません。話したいのですがもうすぐ3分になるので一言だけ。
バレーで学んだのは、気合とガッツと根性でしたw

以上です。」


丸山部長をじっと見つめると、内藤を見ながら

「内藤。吉田のプレゼン、どうだった?」

「いや〜。よかったんじゃないでしょうか?私は伝わりましたよ〜。折り紙やトランペットへの思い。バレーの触り。しかも時間内で終わらないところも吉田らしくてよかったと思いますw」

「なるほどね。吉田は自己採点で何点くらいだ?」

「そうですね。。。60点くらいでしょうか?」

内藤も隣でうなずいている。慎吾は内藤と同じくらいの見解だと思ってホッとしたが、丸山部長がズバッと切り込んできた。

「30点。」

「・・・。厳しいですね〜。部長。」
内藤が引きつった顔でいった。

慎吾は60点と自己採点した自分の甘さが恥ずかしかった。

2日目で60点まで上がっていれば10日間もかけて行う必要もないはずで、本を数冊読んだだけで上手くプレゼンができるわけでもない。

ましてや、今日は1枚しか持ってきていないわけだし、時間内に伝えることすらできなかったから30点はむしろもらいすぎなのでは?とすら思えてきた。

「では、今回のポイントだ。

まず、誰向けにするプレゼンを想定したんだ?そしてその人にどう思ってもらおうとしたんだ?」

「あ、それは、丸山部長を含めた部署の方全員に対して、私のことを知っていただき、より今後の仕事を進める上での自分というものをわかっていただくのがゴールでした。」

「なるほど。今のプレゼンに事柄として吉田が言ってくれた内容が盛り込まれているかもしれないが、君自身を本当に理解してさらに業務においてそれを有効に機能できるようにしようというところまで私たちは考えが進まないと思うよ。

つまり伝え方を変えた方がいいということだ。

前回も話したが、つかみがない。

マジックナンバー3を使うのは良いが、何でもかんでも3つで表現すれば良いということではない。

マジックナンバー3は有効なんだが、これに頼りすぎるとなんでも3つに例えようとする。本当に伝えたいことが3つなら良いが、それ以上ある場合は当然物足りない。ましてや1つしかないのに無理やり3つ作るのも問題だ。

それと、マジックナンバー3はわかりやすいテクニックだから使いやすい分、多用するとマンネリ化してしまう。

つまり、同じ3つのことを伝えるにしても、つかみのバリエーションがなければただの3つの羅列だ。

今回の折り紙、トランペット、バレーボール。それぞれからきっと吉田が学んだことや経験したこと、今の自分の軸を形成したことを伝えることでみんなにわかってもらえると思うが、印象に残るようにする必要がある。

とはいえ、昨日からの成長もある。

この1日でよく考えたよ。

よくなったポイントは

1つ目は、短く単語で表記したこと。

2つ目は原稿を読み上げていないこと。

3つ目は時間見合いで途中でやめたことだ。

特に3つ目は臨機応変さを求められる時間との勝負の中ではとても重要なポイントだ。

今回の場合で言えば、終わった後からバレーボールの気合いとガッツと根性って具体的に何?って後から聞かれそうな余韻を残しているよね。

企業への提案プレゼンでも時間がなければその後の質疑応答でわざと聞かれるように言い切らないのもテクニックとしてあったりする。ただ、そういうコメントできる場面が必ずあるわけではないから、それも想定して挑む必要はあるけどね。

そして、今回、私から一つ改善して欲しいポイントは”落ち”がないことだ。


ま、つかみもないから落ちがないのもそうなんだけど、結局何が言いたいのかよくわからない。

見せ方の部分では多少良くなったけど、結局興味もさして惹かれないしオチもないから結局印象には残らない。


と、厳しく言ったけれども、

とりあえず、昨日よりは一歩前進。


だけど、道はまだまだ遠い。


それとマジックナンバー3のジレンマに陥らないように。


いいか、テクニックに溺れたプレゼンはテクニックに踊らされているだけだからね。

本当に何を伝えれば、相手がどう思うのか、どうしたくなるのかを考えることが大切だから。

パワポの機能やメソッド、テクニックに頼りすぎないように、もう一度自分自身に言い聞かせておくように。」

「はい!!ありがとうございます!!」

慎吾は悔しさよりもやはり学びが多いことに感謝しかなかった。

もちろん、隣で聞いていた内藤も同じ気持ちだった。

偉そうに評価していた自分を恥じていた。そして内藤は明日から自分もプレゼンを作ってくることを自分に課すのだった。

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