[ビジネス小説]未来へのプレゼン 第27話 邂逅(かいこう)
前回のお話
社内のプレゼンは内藤からの強いプッシュもあり、何事もなくゴーサインが降りた。
あとは自分が勝ち取ってくるだけだ。
「楽しんでこい。」
内藤部長から朝イチでメッセージが入ったプレゼン当日。
宮部社長はどう受け止めてくれるだろうか。。。
ワクワク感は今回伝えられるだろうか。。。
9:50
指定された時刻の10分前。
受付に慎吾たちはいた。
受付で渡される用紙に企業名、個人名、来社理由を記入していると隣から聞き覚えのある声がした。
「ビズルートの丸山です。」
慎吾は隣に目をやった。
『・・・丸山。。。部長。。。』
そこには変わらず爽やかにたたずむ丸山の姿があった。
「吉田君。お久しぶりですね。元気でしたか?」
丸山は目を細めてそっと笑みを蓄えながら来客用紙に記名を続けた。
「・・・はい。元気でやっております。」
吉田は色々と話をしたいものの、それを受け付けない丸山の無言の圧を感じた。
「吉田様。おかけになってお待ちくださいませ。」
受付の方に言われて慎吾はそのまま下がって橘が待つ小さな丸テーブルのあるソファーに座った。
「吉田さん。丸山さんですよね・・・。もしかして、競合として来たんじゃないですかね。」
橘のヒソヒソ話は本人が思っているほどヒソヒソしていないところが困りものだが、今回はむしろ遠回しにでも相手の耳に入るような形になった。
丸山も記名を終えて着座を求められ、こちらに近づいてくる。
吉田と橘は立ち上がり丸山と対峙した。
「改めまして。吉田君。ご無沙汰してます。
ビズルートの丸山です。」
渡された名刺には、
株式会社ビズルート社
執行役員 丸山 雄大
と書かれていた。
42歳の若さで、あのビズルートの執行役員。
『ヘッドハント。』
慎吾はすぐさまこれまでの事を理解した。
「ご無沙汰しております。お元気そうで何よりです。
そして、ご転職おめでとうございます。。。」
慎吾は丸山と対峙する前まで、顔を合わせた瞬間に怒りが込み上げてくるものと思っていたのだが、不思議なもので全く腹が立たなかった。
それどころか、渡された名刺を見て、それに対してなんの興味も関心も起きなかった自分がいた。
急に去ってしまったことへの失望と虚無感。裏切られたような感覚と一人前に育ててもらう道半ばだったことへの無責任さを全て怒りに昇華されるように考えていたのは上部であり、本質的には自分への甘えがそう思考させていたように思えた。
今回の企画で、慎吾は一歩違う領域を歩んでいた。
丸山から名刺を受け取ったことでそれをしっかり認識できたことが大きな収穫と自分が精神的に成長していることを実感できた。
「いや。ご縁があってね。今は、ビズルートさんでお世話になっていますよ。
ご紹介しましょう。神宮寺さんです。」
丸山の後ろに控えていたその女性は見るからに聡明な感じがした。かけているメガネの質感からして伝わってくるものが鋭角であるもののそれとは対照的な穏和な口調だった。
「はじめまして。ビズルートの神宮寺と申します。吉田様のお話は丸山より伺っております。よろしくお願いいたします。」
丸山が慎吾のことをビズルート内で伝えていることに一瞬驚いたが、『今回のコンペ対策』という意味合いなら筋が通る。
「フロンティアワールドの吉田です。よろしくお願いいたします。
今回はコンペでお見えになられたんですか?」
「ええ。御社と競合ということになりますが、当方も今回の企画を通すべく20名のスタッフでプロジェクトチームを組んでます。勝ちにきました。本日は楽しみですね〜。」
口調は柔らかいが言っていることには棘がある。
「同じく、フロンティアワールドの橘です。よろしくお願いします。」
グッと割り込んできて名刺を差し出しながら、橘の目は神宮寺をしっかと見返していた。
「人数で企画の優劣が決まるわけではありませんが、御社は余剰リソースがおありなんですね。さすが大会社様です。」
小気味よく言い返したが、大人気ない橘の対応に慎吾は口を挟んだ。
「丸山さん。このような形でお会いできて光栄です。胸を借りてしっかりと恩返しできるようにします。」
丸山は真剣な眼差しで答えた。
「こちらこそ。楽しみにしています。」
丸山の落ち着いた一言一言から、本気でこの案件を取りに来ていることがわかる。
全力でプレゼンに挑む。
そのためにこれまで多くの時間を割いてきた。
相手が求めていることは何か?
相手の感情を動かすにはどうすべきか?
そして
自分がワクワクできる内容になっているか?
今回の5分のプレゼンテーションに詰め込んだのは
紛れもない、慎吾の念いだ。
そして、慎吾だけでなく、橘をはじめ内藤部長、佐々木課長、土屋課長、藤井課長といったみんなの、会社の念いだ。
「フロンティアワールド様。どうぞ。」
先に呼ばれた慎吾と橘は内藤に一礼して会議室に向かった。
いよいよスタートする。
慎吾にとってのリベンジプレゼン。
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