[ビジネス小説]未来へのプレゼン 第11話 プレゼンスキルを磨くことの意味
前回までのあらすじ
プレゼンノックの3日目を終了した時点で、全ての課長にもこの講義を受講させるべきだと考えた内藤は残り3人の課長を説得して参加することを丸山部長に進言した。4日目のプレゼンを迎えるにあたって各課のメンバーは何を考えるのだろうか。
2課の佐々木課長、分析課の土屋課長、管理課の藤井課長を前に内藤は真剣な面持ちで向き合った。
「今日は相談なんだけど、みなさんに吉田課長が出ている丸山部長とのプレゼンのスキルアップの特訓に参加した方が良いと思ったので。どうかな?参加しない?」
内藤の切り出した言葉に、三人とも反応は薄い。
「あの〜。すみません。それは、絶対なんでしょうか?」
土屋が右手を控えめに挙げながら早口で聞いてきた。
「まあ、絶対ではないよ。あくまで任意なんだけど、スキルアップにはかなり繋がると思うし、これから仕事を行う上できっと役に立つかなと思ってね。」
内藤が続けたが相変わらず反応は薄い。
「任意であれば私は遠慮しておきます。特段ビジネススキルを伸ばそうとも思っていませんし、あまりこれ以上のマネジメント層に昇っていくつもりもないので。」
土屋が淡々と話した後で佐々木も続けた。
「私もパス。今、プレゼンのスキルよりも私はプロジェクトマネジメントの方が必須だし。企画部門でも新規で勝ち取るあなたのところと3課の吉田君が学べばいいんじゃない?ね〜藤井さんもそう思いませんか?」
管理課の藤井はいきなり佐々木からの投げかけに少し顔を上げて口にしたのは、内藤の予想した通りのコメントだった。
「そうですね〜。私も管理課ですから、プレゼンする機会もないですし。時間外であればちょっと遠慮したいと思います。それにもう53歳ですから、今更ながらプレゼンを学んだところであまり良いものも作れる自信もありませんし。。。」
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「で、今日は4日目だが、内藤課長。昨日他の課長にも声をかけると言っていたけど、待たなくて良いですか?」
丸山部長が内藤に一応確認のためにと聞いたが、それぞれ個々人の考えもあり、今回は参加しないことを内藤は伝えた。
「うん。まあ、強制ではないと言ったから、内藤君もあまり気にしなくていいよ。
一つ、二人に話しておくが、そもそもプレゼンとは何か知ってるか?」
慎吾も内藤も明確にプレゼンを言語化できないため、しばらく黙ってしまった。
「ふむ。
プレゼン。プレゼンテーションとは、発表とは違うんだよね。
発表って何かしら情報や事象を説明するものなんだけど、プレゼンテーションはその情報や事象を相手が理解しやすいようにビジュアルなどを使って相手に納得してもらい行動を促すもの。
つまり、自分が主体なのか、相手が主体なのかで大きく違ってくる。
相手の立場に立てるかどうか。
これが結構大きな違い。
今回、内藤君がどう説明したかはわからないけど、誰かの感情を動かそうと思ったら、それは相手の立場に立ってどう伝えれば行動を起こしてくれるかを考えて伝えないと伝わらないんだな。」
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内藤は丸山部長に全てを見透かされているようだった。
内藤はどうすれば皆を説得できるのか改めて考えてみた。
そもそも自分がいいと思って、みんなのためになると思って誘おうと考えたが、それ自体が間違いなんだろうか?
土屋さんはデータ分析がメイン。プレゼンを作る必要はない。とはいえ、1課や3課で提案するプレゼンには土屋さんのところで出してもらうデータ、エビデンスが必要だ。そのデータは絶えずコミュニケーションをとって必要なものを提供してもらっているけれど、最終的に資料に落とし込むときにそのまま貼り付けてしまうと見づらい場合がある。ここはなんとかしたいところだが、それを改善するメリットはあくまでこちらのメリットであり、彼女の部署には負荷がかかるだけになる。かといってリソースを追加で割くことも望ましくない。
佐々木さんの所もプロジェクトマネジメントがメインだから、何かしら企画を立てるプレゼンをすることはない。ただその進捗をエクセルシートだけでなくもう少しわかりやすくしてもらった方が周りには伝えやすいのだが、土屋さんの所と同様に佐々木さんのメリットがあまりないように見える。そのままを伝えても彼女には伝わらないだろう。
藤井さんの管理課も同様だ。それに50代でこれから学ぶことにも消極的だ。本人が言う通りそのままの方がもっと自分のやりたいことへ時間を割くことができる。そもそもやる気がない人を強引に引っ張ってもしょうがないかもしれない。やはりやる気がある人だけを育てる方向が良いのだろうか。丸山部長も強制でなく任意と言っているわけだし。
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「内藤さん。」
内藤が考えていると吉田が声をかけてきた。
「内藤さん。あの〜。みなさんに参加してもらえないか、明日、一緒に話をさせてもらえませんか?みなさんにとって、私も価値がある機会だと思いますので。一緒に話をさせてください!!」
「吉田。俺もそう思うんだよ。だけど、それぞれのメンバーへのメリットというよりもこちら側のメリットが前面にどうしても出るような気がしてならないんだよな〜。今日、話してみてそもそもみんな乗り気じゃないから動かすのが結構難しそうだぞ。」
「そうでしたか。。。でも、将来的にはきっといつか役に立つと思える日が来るような気がするんです。今は不要なのかもしれないですけど、何かを伝えることって一生続けるじゃないですか。今、このタイミングで学んでも損はないと思うんですよ。」
吉田のストレートなコメントはその通りだと思うが、若さが素直さに直結しているからわかりやすいロジックだ。しかし、他の課長陣は30代と50代。吉田よりも10年〜30年と歩んできたメンバーだから中々情熱だけではウンとは言わないはず。
「わかった。だが、気持ちだけではダメだ。しっかりと他のメンバーの立場に立って考えてから話そう。今日のプレゼンノックが終わってから飯を食いながら戦略会議だw」
「ありがとうございます!!」
慎吾は内藤とのタッグが嬉しかった。それほど、丸山部長のこのプレゼンノックは大変だけど得るものも大きいとお互い感じているからこそだと思った。
「さて、今日は母校のプレゼンだ。どちらからやるかな?」
丸山は二人の会話が終わるのを見計らって空気を切り替えた。
「では、今回は私から。」
そういって内藤さんが出身大学である早稲田大学のプレゼンが始まった。
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