クリエイティブ思考〜こだわる〜
クリエイティブ思考 3つ目のキーワードは
「こだわる」
ことです。
これまで示した、ベースとなるクリエイティブ思考のプロセス。
それと、センスの話。
これらを考える上で、最も重要な要素となるのが
「こだわる」
ことです。
しばし、次の作品を見ていただければと思います。
JHONNY BANDの「西成ON MY MIND」という曲のジャケットタイトルを揮毫させていただいた時の候補作品です。
1~3を見て、皆さんはどれが好きでしょうか?
1.
2.
3.
どうでしょうか?
どれも一緒に見えましたか?
微妙な違いが見えてきましたでしょうか?
もしかすると、大して変わりがないように見えるのではないかと思います。
必死になって違いを探す必要はありません。
さっと見て、何番が好きかな〜と考えてみてください。
実際に何番の作品がジャケットで採用されたかは、こちらのYoutubeをご覧くださいませ。
「西成ON MY MIND」と、全て同じ言葉を揮毫していますが、それぞれニュアンスが異なっていたのがお分かりいただけましたでしょうか?
曲はボーカルの藤本JHONNY孝博さんの他界されたお父様に捧げるバラードです。お話を伺ってJHONNYさんのお父様をイメージしてそれぞれ作品を揮毫しました。
1.は「強さ」と「優しさ」
2.は「品」と「激しさ」
3.は「存在感」と「荒々しさ」
を表現にこめています。
人間は様々な面を持っており、多面体です。
一つの顔では表現できない。
だからこそ人物描写は難しいと思います。
ピカソが描いた「アビニョンの娘たち」も同様に私は捉えています。
ここに掲載した3作品に至るまでには、50パターンくらい書き分けて揮毫しました。
さて、私が作品を書き分ける際に行なっている表現の変化の付け方として大きく以下の10の項目を上げて行います。
1.使う筆を変えて表現してみる
2.墨の種類を変えて表現してみる
3.紙を変えて表現してみる
4.書くスピードを変えて表現してみる
5.墨量を変えて表現してみる
6.文字の大きさを変えて表現してみる
7.余白の残し方を変えて表現してみる
8.書体を変えて表現してみる
9.書風を変えて表現してみる
10.紙のサイズを変えて表現してみる
従って、
筆×墨×紙×スピード×墨量×文字サイズ×余白×書体×書風×紙サイズ
という公式ですが、それぞれが少なく見積もって3パターンあるとすると
3×3×3×3×3×3×3×3×3×3=59,049パターン
が理論上、存在するわけです。
実際にはそんなに多くのパターンを書き分けることは行いませんが、それは経験から行わなくても良いパターンを瞬時に導き出しているからです。
そして、このパターンの中からさらにいくつかに絞り、そこから書き込んでいきます。
そうしてできたのが上記の3つの作品となるわけです。
ここで、大量にあるパターンの中から絞り込むプロセスで重要なのが
「コンセプトシート」
です。
先ほどの「西成ON MY MIND」ですと
・この言葉の場合は力強さも表現したいため少し硬めの短鋒を使った方が良い
・読める文字であった方が良い
・力強さだけでなく丁寧に生きてきた品格を表現したい=余白をやや多めに残した方が良い
といったコンセプトシート(設計図)を元に作成していくのです。
そして作品を書き込んでいく段階では
・微妙な墨の飛び散り具合
・余白の残り方
・かすれ具合
・線の太細
・墨のにじみ具合
といったところまでこだわります。
飛墨×余白×渇筆×線質×滲
これはそれぞれを何度も模索しながら微妙な変化を表現するのでさらに10パターンくらい書き分けていますので
10×10×10×10×10=100,000パターン
と理論上は書き分けが可能になります。
一見偶然にできたもののように映るかもしれませんが、墨を飛ばす方向、かすれなどをどう出すかなどは意図して表現することを行なっています。
先ほどの作品も、その違いは微々たる違いであるため、実際にはどれでも良いと思われることかもしれませんが、クリエイティブなことを行うものからするとその微細な差が「こだわり」になってきます。
とはいえこだわりがあり過ぎると作品を仕上げることなど不可能に思えるかもしれませんが、作品を創り上げる際にもう一つ重要な要素があります。
それが
「時間軸」
です。
どの作品にも仕上げなければならない期日が存在しています。
もちろん、レオナルド・ダヴィンチの「モナリザ」のように生涯かけて書き続ける作品もありますが、一般的には個展の開催に向けて作品を書いたり、展覧会に出品するために書いたり、クライアントの依頼であれば締め切りが設定されてます。
限られた時間で可能な限りこだわって作品を創る
では、なぜこだわるのでしょうか?
「こだわる」の漢字表記は「拘る」です。
「拘」には「気にしなくてもいいようなことが心にかかる。気持ちがとらわれる。」という意味。
どちらかと言えば否定的な意味合いで使われることが多いものです。
1915年に夏目漱石の著書『硝子戸の中』にはこんな文章でこだわりが使用されています。
「それ程拘泥(こだ)はらずに、するすると私の咽喉を滑り越した」
拘泥(こうでい)とは「気にしてとらわれること。こだわること。」という意味ですが、一般的に些細なことでしかないものを執着していく様を表しています。
この些細でしかないことにこだわることこそが他との差別化であったり引き付けるものになり得たりするアプローチだとクリエイティブ思考では捉えます。
人が気にするかどうかはさておき
自分がこだわりたいポイントが明確であり
そのポイントを外すことは
自分自身が許せない
ということになります。
なぜ許せないのでしょうか?
これはその人が持つ美意識だったりします。
私が敬愛するアーティストの一人に伊藤若冲(いとうじゃくちゅう)という江戸時代中期に京都で活躍した画家がいます。
彼の作品は筆舌尽くしがたい超絶技巧で有名ですが、彼は
「千載具眼の徒を竢つ。」
という言葉を残しています。
「遅くとも千年後には、私の絵を理解してくる人物が必ず現れるだろう。」
といった意味合いになりますが、彼のこだわりは群を抜いており、当時の最高品質の画絹や絵具を惜しみなく使用したこともあって200年以上経った今でも色あせない作品となっています。
群鶏図押絵貼屏風は墨の濃淡でこれほどまでに緻密にかつ活き活きとした鶏たちを書き分け色が見えてきそうな表現ができるものかと、同じ墨を扱うものとして驚愕感嘆したものです。
2016年に東京都美術館で「生誕300年記念 若冲展」が開催されましたが、何度も足を運びました。
今から200年前のクリエイターのこだわりを肌で感じたかったからですが、何年経とうが、何百年経とうが、こだわれる軸を持つことが重要であることの現れのように感じた日々でした。
このように、多くのジャンルのクリエイターのこだわりを知ることは自分の中のこだわりを知ることにつながります。
自分のこだわりを知ることはクリエイティブ思考の重要な要素なのです。
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